大西洋三越伊勢丹HD社長の辞任について、ルミネ前会長の花崎淑夫氏がWWDのインタビューに答えている。 https://www.wwdjapan.com/405880
大西氏が辞任しようが、解任されようが、部外者がどうのこうの言える立場ではない。また、百貨店グループの経営者に誰がなろうと、興味はない。関心があるのは経営の中身であり、何をどう実践していくかなのだ。その意味で、この記事で花崎氏が語った「百貨店としてやるべきこと」は、非常に共感が持てる。
花崎氏は1968年に国鉄に入社し、民営化では経営側として労使交渉で辣腕を振るった。2001年6月に駅ビル「ルミネ」の社長に就任すると、従業員満足度(ES)に力を入れ、スタッフ専用の休憩所にソファーやフットマッサージを完備するなど、最高のコンディションで接客に取り組める環境を整備。05年には接客ロールプレイングコンテストの「ルミネスト」をスタートさせ、スタッフのモチベーションアップにも尽力した。
とかく東大卒の国鉄マンと言えば、官僚膚でビジネスではつぶしが利かないイメージがあった。しかし、ルミネにおける花崎氏の施策をみると、当時から「この人は経営者だ」と思っていた。国鉄の総務部長時代に血の気の多い国労動労の連中と渡り合い、民営化にスムーズに移行させた経験がルミネの人心掌握でも生きたということだ。そんな人物だから、三越伊勢丹HDの大西社長解任にも、苦言を呈したい気持ちはわかる。
報道では、大西社長解任に労働組合の関与が取り沙汰されている。だが、百貨店における労組の関わりなど業界で働く中で伝え聞いた程度でしかない。だから、解任理由であろうとなかろうと、筆者には論評するほどの知識もない。むしろ、経営が立ちいか無くなっている百貨店をどう立て直すべきか。そちらの方には非常に興味がある。それについて花崎氏が語ったことは、筆者がずっと考えていることとも共通する。
花崎氏は、大西前社長の取り組みについて、
「大西さんが陣頭指揮を執って構造改革に取り組んでこられましたが、これは短期間でできるものではありません。しかも、経営企画を実行させるのは取締役や執行役員全員の職務であり、企画を作るだけで、あとは大西社長一人の責任、なんてことはあり得ません」
と社長一人に責任を負わせることは不適当だと語る。確かに大西元社長は異業種との提携など、独断専行した面はある。その前提として、日本型経営では根回しという内部調整が不可欠だから、それに沿わなかった面があるのだろう。しかし、経営陣がそうしたやり方に反対なら、ハッキリと意義を挟むべきだろうし、きちんとした対案を出すべきだったのではないか。
批判だけなら誰でもできる。それは民進党の能無し議員を見れば、火を見るより明らかだ。それ以上に水面下で解任にもっていくのは卑怯なやり方で、そんなことでは改革などできるはずもないと、花崎氏は言いたいのだと思う。
執行役員に名を連ねている諸氏は、自分の肩書きの意味を理解していたのだろうか。会社の重要事項や方針を決定するのは、取締役の仕事である。執行役員は経営陣が決定した重要事項を実行しなければならないのである。百貨店改革で結果が出せないのは、自分たちにも責任があるわけで、それを差し置いて社長のみに責任を負わせるようでは、経営に携わる資格はないと思う。
その意味で、今は現場を離れているといっても、花崎氏がインタビューで語った百貨店改革の手段は、非常に前向きで建設的な内容である。
「百貨店の一つの方向として、大丸松坂屋のように、一部にユニクロやニトリ、ファストファッションまで専門店を導入してSC化したり、不動産を活用することは一つの方向性です。そこに加えて、自らモノを作っていくこともあるべき方向だと思います」
他社の成功例は参考になるが、それを真似るだけでは競争力にはならないし、レッドオーシャンに飲み込まれるのは時間の問題である。花崎氏は、では何をすればいいか。「自らモノを作っていくこともあるべき方向」ということをしっかり提言する。
筆者もここが重要だと思う。補足すると、改革の手段の一つはイノベーションを起こすことでもあるからだ。大西元社長は、旅行事業やブライダル事業との提携を進めたが、それらは既にあるビジネスで人口減少社会で急激に伸びるとは思えない。まして、提携程度では大きな収益が得られるはずもない。百貨店の業績回復には厳しいのはもちろん、とてもイノベーションにはなり得ないのである。
三越伊勢丹という日本の百貨店をリードしてきた企業体なら、やはり新しいことにチャレンジしなければ、改革への道筋はつかないということもできる。これには経営側と対峙する労働組合に対しても、そのイデオロギーが「革新」であるなら、「自らの雇用を守るためにも前向きに考えろ」という花崎氏のリストラへのアンティテーゼが込められているのではないか。
どちらにしても、経営陣に対しては、百貨店がジリ貧になっている現状を考えると、「仕入れて売ること」に特化していては限界がある。また、マーケットを見れば、お客が求めているのに、百貨店が商品を提供できていないこともあるだろう。だったら、「自らモノを作っていく」ことも必要ではということである。
従来から百貨店は「メーカーが作らない」「問屋が持たない」「仕入れルートがない」との理由で、商品を揃えられない言い訳をすることが多々あった。平成不況で高額品が売れなくなると、今度は原価率を圧縮して自らの利益を確保していった。それをお客に見透かされて、一転、売れなくなったのである。
それを受け止めた上で、どんなイノベーションを行うか。それが自ら商品づくりにチャレンジすることではないかということだ。
「アパレルが疲弊している今、そこに頼りきることはできません。2~3割程度は自分で作らないと地方店を中心に商品調達もままなりませんし、同質化からも脱却できません」
百貨店系アパレルが力を無くしている現状を考えるし、ラグジュアリーブランドや雑貨だけでもお客を捕捉できない。目の肥えたお客を再び百貨店に呼び戻すには、ファッションビルにも郊外のショッピングモールにもないような大人好みの商品。それを三越伊勢丹全店を販路にして仕掛けてはどうだろうか、と筆者なりに解釈する。
ラグジュアリーや国内ブランドのハコを補完する従来の平場のような商品。新宿、銀座、三越のような旗艦店では売場を確保して、常時展開できるかもしれないが、地方店は定期的なイベント催事などで販売対応する。ブランド名のバッティングが許されないなら、タグを変えればいい。当然、在庫を抱えないといけないから、ネット通販にも対応して消化していけばいい。
「これには時間がかかる。人作りや在庫などの投資やリスクも伴う。専門の大手アパレルでさえうまくいっていないのだから、そうそううまくいくわけはありません。それでも、覚悟を持ってやらなければならないものなのです」
できるかできないかわからないことには挑戦できないとか、人を育てる時間がないとか、言い訳ならいくらでもできる。しかし、最初にビジネスに取り組むことは誰であっても未知なるものだ。やってみなければ成功はありえないし、イノベーションも起こせない。
「メーカーが作った商品に売場を提供するだけ」「問屋が扱っている商品の販路を確保するだけ」「マイナーブランドの孵化を感じればハコ出店を促すだけ」。もうすべてが通じなくなっているのである。経営陣が二の足を踏んでいるなら、若手社員が立ち上がってプロジェクトを考えてもいいのはないか。
外から見れば当然のことが内部にいると気づかない。百貨店という企業体は、変革を恐れるがゆえに組織の論理が優先され、ものを言わず行動もしない空気が蔓延しているように感じる。組織から一歩引いたところにいるアパレル経験者としては、いろんなアイデアが出せるし、チャンスがあれば企画提案することは厭わない。経営者も社員も覚悟に勝る決断はないのだから、ぜひ行動してほしい。
大西氏が辞任しようが、解任されようが、部外者がどうのこうの言える立場ではない。また、百貨店グループの経営者に誰がなろうと、興味はない。関心があるのは経営の中身であり、何をどう実践していくかなのだ。その意味で、この記事で花崎氏が語った「百貨店としてやるべきこと」は、非常に共感が持てる。
花崎氏は1968年に国鉄に入社し、民営化では経営側として労使交渉で辣腕を振るった。2001年6月に駅ビル「ルミネ」の社長に就任すると、従業員満足度(ES)に力を入れ、スタッフ専用の休憩所にソファーやフットマッサージを完備するなど、最高のコンディションで接客に取り組める環境を整備。05年には接客ロールプレイングコンテストの「ルミネスト」をスタートさせ、スタッフのモチベーションアップにも尽力した。
とかく東大卒の国鉄マンと言えば、官僚膚でビジネスではつぶしが利かないイメージがあった。しかし、ルミネにおける花崎氏の施策をみると、当時から「この人は経営者だ」と思っていた。国鉄の総務部長時代に血の気の多い国労動労の連中と渡り合い、民営化にスムーズに移行させた経験がルミネの人心掌握でも生きたということだ。そんな人物だから、三越伊勢丹HDの大西社長解任にも、苦言を呈したい気持ちはわかる。
報道では、大西社長解任に労働組合の関与が取り沙汰されている。だが、百貨店における労組の関わりなど業界で働く中で伝え聞いた程度でしかない。だから、解任理由であろうとなかろうと、筆者には論評するほどの知識もない。むしろ、経営が立ちいか無くなっている百貨店をどう立て直すべきか。そちらの方には非常に興味がある。それについて花崎氏が語ったことは、筆者がずっと考えていることとも共通する。
花崎氏は、大西前社長の取り組みについて、
「大西さんが陣頭指揮を執って構造改革に取り組んでこられましたが、これは短期間でできるものではありません。しかも、経営企画を実行させるのは取締役や執行役員全員の職務であり、企画を作るだけで、あとは大西社長一人の責任、なんてことはあり得ません」
と社長一人に責任を負わせることは不適当だと語る。確かに大西元社長は異業種との提携など、独断専行した面はある。その前提として、日本型経営では根回しという内部調整が不可欠だから、それに沿わなかった面があるのだろう。しかし、経営陣がそうしたやり方に反対なら、ハッキリと意義を挟むべきだろうし、きちんとした対案を出すべきだったのではないか。
批判だけなら誰でもできる。それは民進党の能無し議員を見れば、火を見るより明らかだ。それ以上に水面下で解任にもっていくのは卑怯なやり方で、そんなことでは改革などできるはずもないと、花崎氏は言いたいのだと思う。
執行役員に名を連ねている諸氏は、自分の肩書きの意味を理解していたのだろうか。会社の重要事項や方針を決定するのは、取締役の仕事である。執行役員は経営陣が決定した重要事項を実行しなければならないのである。百貨店改革で結果が出せないのは、自分たちにも責任があるわけで、それを差し置いて社長のみに責任を負わせるようでは、経営に携わる資格はないと思う。
その意味で、今は現場を離れているといっても、花崎氏がインタビューで語った百貨店改革の手段は、非常に前向きで建設的な内容である。
「百貨店の一つの方向として、大丸松坂屋のように、一部にユニクロやニトリ、ファストファッションまで専門店を導入してSC化したり、不動産を活用することは一つの方向性です。そこに加えて、自らモノを作っていくこともあるべき方向だと思います」
他社の成功例は参考になるが、それを真似るだけでは競争力にはならないし、レッドオーシャンに飲み込まれるのは時間の問題である。花崎氏は、では何をすればいいか。「自らモノを作っていくこともあるべき方向」ということをしっかり提言する。
筆者もここが重要だと思う。補足すると、改革の手段の一つはイノベーションを起こすことでもあるからだ。大西元社長は、旅行事業やブライダル事業との提携を進めたが、それらは既にあるビジネスで人口減少社会で急激に伸びるとは思えない。まして、提携程度では大きな収益が得られるはずもない。百貨店の業績回復には厳しいのはもちろん、とてもイノベーションにはなり得ないのである。
三越伊勢丹という日本の百貨店をリードしてきた企業体なら、やはり新しいことにチャレンジしなければ、改革への道筋はつかないということもできる。これには経営側と対峙する労働組合に対しても、そのイデオロギーが「革新」であるなら、「自らの雇用を守るためにも前向きに考えろ」という花崎氏のリストラへのアンティテーゼが込められているのではないか。
どちらにしても、経営陣に対しては、百貨店がジリ貧になっている現状を考えると、「仕入れて売ること」に特化していては限界がある。また、マーケットを見れば、お客が求めているのに、百貨店が商品を提供できていないこともあるだろう。だったら、「自らモノを作っていく」ことも必要ではということである。
従来から百貨店は「メーカーが作らない」「問屋が持たない」「仕入れルートがない」との理由で、商品を揃えられない言い訳をすることが多々あった。平成不況で高額品が売れなくなると、今度は原価率を圧縮して自らの利益を確保していった。それをお客に見透かされて、一転、売れなくなったのである。
それを受け止めた上で、どんなイノベーションを行うか。それが自ら商品づくりにチャレンジすることではないかということだ。
「アパレルが疲弊している今、そこに頼りきることはできません。2~3割程度は自分で作らないと地方店を中心に商品調達もままなりませんし、同質化からも脱却できません」
百貨店系アパレルが力を無くしている現状を考えるし、ラグジュアリーブランドや雑貨だけでもお客を捕捉できない。目の肥えたお客を再び百貨店に呼び戻すには、ファッションビルにも郊外のショッピングモールにもないような大人好みの商品。それを三越伊勢丹全店を販路にして仕掛けてはどうだろうか、と筆者なりに解釈する。
ラグジュアリーや国内ブランドのハコを補完する従来の平場のような商品。新宿、銀座、三越のような旗艦店では売場を確保して、常時展開できるかもしれないが、地方店は定期的なイベント催事などで販売対応する。ブランド名のバッティングが許されないなら、タグを変えればいい。当然、在庫を抱えないといけないから、ネット通販にも対応して消化していけばいい。
「これには時間がかかる。人作りや在庫などの投資やリスクも伴う。専門の大手アパレルでさえうまくいっていないのだから、そうそううまくいくわけはありません。それでも、覚悟を持ってやらなければならないものなのです」
できるかできないかわからないことには挑戦できないとか、人を育てる時間がないとか、言い訳ならいくらでもできる。しかし、最初にビジネスに取り組むことは誰であっても未知なるものだ。やってみなければ成功はありえないし、イノベーションも起こせない。
「メーカーが作った商品に売場を提供するだけ」「問屋が扱っている商品の販路を確保するだけ」「マイナーブランドの孵化を感じればハコ出店を促すだけ」。もうすべてが通じなくなっているのである。経営陣が二の足を踏んでいるなら、若手社員が立ち上がってプロジェクトを考えてもいいのはないか。
外から見れば当然のことが内部にいると気づかない。百貨店という企業体は、変革を恐れるがゆえに組織の論理が優先され、ものを言わず行動もしない空気が蔓延しているように感じる。組織から一歩引いたところにいるアパレル経験者としては、いろんなアイデアが出せるし、チャンスがあれば企画提案することは厭わない。経営者も社員も覚悟に勝る決断はないのだから、ぜひ行動してほしい。