HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

残業とVMDは表裏一体の関係。

2015-04-08 06:03:37 | Weblog
 新年度が始まった。各社の入社式では、トップの発言にも注目が集まっている。社長の「訓示」として語られたどうかは定かではないが、今年もこの企業から目が離せない。ユニクロである。

 同社はスタッフに過酷な労働をに強いたとして、ブラック企業の汚名を着せられている。これを受けて、本部や店舗で「残業ゼロ」に向けた取り組みを進めているようだ。

 具体的には、定時の8時間半以内で仕事を終え、退社したかを管理部門がスマートフォンのアプリでチェックするもの。達成率の低い部署は、柳井社長が直接指導するという。また、サービス残業した社員は、原則的に「降格」させるというから驚きだ。

 ただ、少し前まで店長や役付スタッフのサービス残業は当たり前。量を売る業態だから、個人差がある接客に時間とコストをかけない反面、店以外を含めて作業オペレーションを遵守するため、膨大な仕事量からは逃れられなかった。

 残業ができないとなると、スタッフにはかえってストレスになるだろう。そこで、ユニクロでは店長などの上司が仕事のやり方に優先順位をつけ全体量を調整したり、アルバイトの雇用で人手不足の解消に動き出している。

 2016年を目処に達成する計画というから、今以上に効率的な店舗運営を行い、収益を上げながらワークライフバランスを実現させようということか。でも、まだまだ課題は少なくないと思う。

 そもそも、ファッション業界で残業を無くして利益率を上げる「効率経営」が謳われるようになったのは、そのビジネスモデルが極めて古典的だからだ。

 今でも、欧米のメゾンブランドを中心に、年2回のコレクション(プレコレクションもあるが)という展示会を通じ、シーズンアイテムを発表。直営店での販売の他、取引先のバイヤーからオーダーにそって商品を生産し、在庫を「売り減らしていく」スタイル。

 また店づくりも高級ブランドになるほど凝っており、ウィンドウのディスプレイから打ち出しのVP(ビジュルプレゼンテーション)、FO(フェイスアウト)。陳列もハンギングやたたみ、壁面や島の展開、ケース陳列と、VMDには一段と注力されていく。

 当然、接客して販売に結びつけると陳列が乱れるから、人手による商品整理が不可欠になる。目に見えないようで、この部分は人件費に相当する。高級ブランドや高額商品を販売していれば荒利益が高い分、こうしたコストは吸収できる。

 ところが、高額品が頭打ちになり、低価格のSPAが登場すると、ベーシックな商品に特化して、シーズンでは比較的長いスパンで、大ロットの商品を抱えて売減らすか、トレンド狙いの短スパンで、多品種小ロットを在庫し、買い足しによる小刻みな仕入れ販売かに移行した。

 ユニクロは前者の手法をとったことで、売場やオペレーションは高級ブランド店とは一線を画した。1店あたりの収益がそれほど高くないから、粗利益を確保するには、作業を効率化して人件費の削減を図らなければならなくなるのだ。

 ひと言で言えば、できる限り簡易・簡素な什器を使い、品出しの一本化や商品整理の抑制で、作業量を削減するもの。結果、商品陳列では「たたみ」が減らされ、在庫補充の手間を省く「ハンギング」が中心の展開方法となる。典型的なのはGAPやZARAの売場がそうだ。

 ユニクロとて、初期はニューヨークのソーホーにあった「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」をそのままパクっている。それを徐々に自社流にアレンジし、作業量を減らして人件費を削減した現在の店づくりやオペレーションに行きついたのだ。

 さらにデフレの長期化、格差社会、ファストファッションの上陸で、低価格業態の「GU」を開発では、商品展開は「たたみ」を完全に廃止され、ハンギングと透明の「パッケージング」に統一された。

 ハンギングならお客さんがハンガーから外さずに姿見に映せるし、試着しても元に戻すのは容易だから、商品整理の手間は抑えられる。パッケージングは一品のみの試着サンプルを置けば、カラーは現物を見て確認でき、サイズリストはPOP表示で対応できる。

 できる限り少人数で運営し、利益を確保する業態モデルなのだ。現状ではユニクロの商品展開は、単品のたたみが少なくない。あれだけの在庫量をマニュアルそって、お客を迎えるための商品態勢にするには、相当の作業量になると思われる。

 ユニクロというブランドが出来上がり、一応「店の格」があるのため、ハード面で何でもかんでも省力化すれば良いと言うわけでもないだろう。だから、計画ではそこまで踏み込みきれていないように見える。

 ただ、ソフト面のオペレーションがこうなることも考えられる。例えば、20時に閉店するとして、終礼して20時15分に店長以下、スタッフ全員が退店するとする。ならば、19時くらいからレジ締めなどの閉店準備を行わなければならないかもしれない。

 商品整理もなるべく閉店後にしないように営業中に終わらせておく。そうなると、閉店ギリギリに来店して、あれこれ試着し売場を乱すお客さんは、店にとってもスタッフにとっても、あまり好ましくないことになる。

 現実問題として、こうしたオペレーションが実現可能なのか。トップや上司がいくら声高に「作業を効率化しろ」「残業を減らせ」「早く帰宅しろ」と叫んだところで、お客さんあっての小売業である。頭で考える程、店舗運営は簡単にいくはずもない。

 高級ブランド店や個人の専門店なら、「閉店間際に来店するお客さんこそ大切に」という神話じみた不文律も通じる。それは確実に売れる可能性が高いからだ。

 でも、ユニクロのようなグローバルSPAが残業を減らすには、作業にどこかで線引きをしなければならない。特に店舗運営ではハード面からソフト面まで完全に見直さないと、「残業ゼロ」にはならないということである。

 もちろん、本部や物流の仕事もある。これらの部署でも効率的に働くために、会議のような生産性のない業務は、話し合うから「結論を出す場」にして時間削減を行うという。もう「建設的な意見」に惑わされないということだ。

 どの業界もそうだが、昔は「上司が帰宅しないと、部下は帰れない」なんて慣習があった。しかし、残業を無くすにはノー天気な新人だろうか、上司の顔色をうかがう中堅であろうが、まずその上に立つものが早く帰ることである。

 ブラック企業のレッテルを貼られ、人手不足の解消が急務のユニクロがどこまで残業ゼロに近づけられるか。企業としてブランドを再構築する上でも、待ったなしの対策であるのは言うまでもない。

 究極の省力化&効率運営ということでは、店舗にサンプル商品だけおいて、店舗やそれ以外で商品が売れると同時に、現物は物流センターからお客の自宅に配送するショールーミング&オムニチャンネルのシステムになっていくだろう。

 こうなれば、店頭展開が各アイテム1点のみになるから商品整理は極力省かれ、在庫も一元管理できて棚卸しなどを含め、残業は極めて少なくなると思われる。

 ユニクロのような商品をどこまでヒューマンタッチや人時で売っていくべきか。ブラック企業批判をかわすには小手先の戦術ではなく、小売りそのもののあり方を変えるというテーマに向わざるを得ないような気がする。
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