「政府や公取委と対峙しようとも必ず実行する」。これは楽天の三木谷浩史社長が出店者を集めた会合で、「送料無料」について語ったフレーズである。楽天が3月18日からの導入を予定する送料無料は、購入額「3980円以上」を対象にしたもの。三木谷社長は 1月になって「送料込み」に変更したが、送料分は出店者の負担になるため、無料に変わりない。
出店者で作る楽天ユニオンはこれを「優越的地位の濫用」だと抗議し、公取委は2月10日に楽天を立ち入り検査。28日には独禁法が定める不公正な取引方法に当たるとして、東京地裁に「緊急停止命令」を申し立てた。法令違反の疑いがある行為を放置したままでは、競争秩序を著しく侵害し、出店者が違法状態から回復するのが難しくなるからだ。公取委は出店者の切羽詰まった状況を慮ったと思われる。
楽天側は「裁判所の手続きに適切に対応する」としつつも、「本施策(送料無料)に関しては法令上の問題はないと考えている」と弁明した。ただ、この施策で楽天市場からの退店を検討する店舗には出店料の返金を実施し、出店継続の店舗にも支援策を講じるというが、その内容がどの程度のものかはわからない。
確かに送料無料はお客には魅力的だ。しかし、それを出店者が負担するとなると、コストになってしまう。そのツケは結局、お客に回る。楽天市場のようなECモールに出店すれば、他にもシステム利用料(楽天は5%で、Yahoo!の3.5%より高い)が徴収される。さらにお客がスマホ決済を利用すると、追加の手数料が取られる。出店者にとっては、利益がどんどん削られていくのだ。
さらに楽天は一方的に規約を改正し、送料なども追加手数料を課している。とにかく、「取れるところから取れ」という考えなのだろう。ここまでがめつくなると、出店者との共存共栄の精神は微塵もなく、「誰のお陰で商売できているのか」という横柄な態度さえ感じられる。仮に三木谷社長がそんな意識なら、ゾゾタウンの前澤友作元社長が呟いた「タダで届くと思うんじゃねえよ」と、大して変わらないレベルだ。
今やECを取り巻く環境は激変している。競合他社が次々と参入し、サイトの機能や利便性、使い勝手を顧客目線で工夫している。Amazonがブランド力、規模ともに世界ダントツなのは変わりないし、国内でも自社ECに切り替えるところが出てきている。ここまで来ると、楽天市場は単なる「場所貸し」に過ぎず、自社でECを整備できない零細事業者の集まりでしかない。公取委はそうした出店弱者の立場を見過ごすわけにはいないのだ。
今回の措置に対して「経済・企業が成長する過程で、そんなものを横車で通してよいわけが無い」「優越的地位の濫用と言っても、出店者が依存しまくったからその地位を得たわけだ」という批判的な意見がある。しかし、プラットフォーマーは楽天のような出店者数だけでは優位になれず、競争力も持てない段階に移っている。加盟店の売上げを向上させるための画期的な施策も打ち出せず、送料無料でしか勝負できない無策ぶりの方が問題なのだ。
語弊がないように敢て利用者の立場で言えば、最近の楽天市場は出店者を増やすためか、新品も中古品もごちゃ混ぜてアップしている。知り合いの出店者の話では、サイトにアップする商品画像の背景を「白にするように」という一方的な要求までされたという。Amazonや他社に対抗するために画像も統一したいのだろうが、ならばゾゾのように「フルフィルメント型」に移行し、自社で「ささげ業務」もこなせばいいだけの話だ。
また、店舗ごとのデザインが整理されておらず、統一感がない。キーワードで検索すれば、必要でない商品までアップされて、かえって探しにくい。「商品は何でもあるが、肝心な欲しいものが見つからない」。「場末のGMSかよ」って突っ込んでやりたくなる。サイトのデザインが見にくく商品が探せないのは、ネット通販戦国時代では致命傷ではないのか。
ファッションに特化した「Rakuten Fashion(https://brandavenue.rakuten.co.jp/?scid=s_kwo_2014test_test)」は、2016年にスタイライフを統合してブランドのバリエーションが増え、人気は上がっているようだ。でも、利用者からすればゾゾや各ブランドサイトがあるから別にこれでなくてもいい。逆に楽天市場から移動した出店者がいて、本体の人気が落ちているのは全く皮肉な話である。
赤字のしわ寄せがネット事業に
楽天は2月13日、2019年12月期連結決算を発表した。売上収益は1兆2639億3200万円(14.7%増)に対し、営業利益は727億4500万円(対前年比57.3%減)の増収減益となった。内訳は、インターネットサービス事業が売上収益7925億1200万円(対前年比17.1%増)で、利益907億3800万円(同15.8%減)。フィンテック事業が同4863億7200万円(同14.6%増)で、同693億600万円(同2.1%増)。モバイル事業が同1198億800万円(同33.3%増)で、同マイナス600億5100万円だった。
結局、モバイル事業が足を引っ張り、楽天は8年ぶりに最終損益が約319億円の連結赤字に転落した。日本で4番目の通信キャリアを目指してはいるが、基地局の数は携帯各社が20万局規模を誇るのに、楽天はこの3月末でやっと4400局になる程度。東京や大阪、名古屋以外はKDDIの回線を借りているので、状況次第で通話に支障が出る。
しかも、キャリア各社がこの3月から次世代通信規格の5Gサービスを開始する予定なのに、楽天は速度で100分の1、容量で1000分の1と大きく劣る4G止まり。いくら月額2980円の格安携帯を謳っても、どれだけのユーザーが乗り換えるかは懐疑的だ。にも関わらず、今後も通信分野には6000億円を投資をするというから呆れてしまう。その分の原資をインターネットサービスの売上げ増で賄うために、送料を無料にする意図がありありなのだ。
Amazonは自ら商品を抱えてお客に直販している。ネットの先には世界中のコンシューマーがいるとの意識だから、積極的にニーズを収集してサービスを充実させている。それでも、他社との差別化が難しくなったため、米国内ではレジレスで商品代金が自動計算されるコンビニ「Amazon Go」を展開するなど、デジタル技術を生かした実店舗に移行中だ。
それに対し、楽天は画期的なビジネスモデルを生み出しているのだろうか。事業はインターネット、金融、通信の他には信販、旅行、球団、海外でのEC、デジタルコンテンツなどだ。それらも新規事業をゼロから立ち上げたわけではなく、カネにものを言わせてM&Aなどで傘下に収めただけ。しかも、すべてが順調に売上げを伸ばしているとは言いきれない。総売上高の6割を稼ぐインターネット事業ですら、送料無料で出店者の反発を招いた挙げ句にお上に楯突くようでは、三木谷社長の経営手法も限界にすら見えてしまう。
ECに限って言えば、成熟期に入ったことから、お客は「現物を確認してから購入したい」、宅配料が値上げされたため「店舗またはお試し拠点で受け取りたい」という意識に変わってきている。つまり、C&C(クリック&コレクト)サービス、受取&お試し拠点を拡充する段階に入っているのだ。手っ取り早く送料を無料にすれば、売上げが増えると考える方がECの変化を全く理解していないことになる。
Amazonですらマーケットプレイスで1円の中古本を購する時、プライム会員でなければ送料が400円かかり、代金は401円となる。ところが、「Book Offオンライン」は店舗受取が可能なので、送料はかからない。中古本がAmazonでは最低400円以上かかるのに、その半額の200円くらいから購入できる。これは店舗ネットワークや物流網が整備されているから可能なのだ。利用者が学習してどんどん賢くなっていることを考えると、プラットフォーマーには出店者に負担を強いる送料無料より、物流を改革する施策が求められるのではないのか。
価格の不当表示?は以前にも
思えば、今から20年ほど前のEC勃興期には、筆者も楽天市場をよく利用した。しかし、ある経験をきっかけに楽天を信用しなくなってしまった。一つは、2006年くらいに知り合いのデザイナーから聞いた「詐欺まがい」の一件である。
彼は当時、出始めたSONYの「一眼レフデジタルカメラ」を、楽天出店の某店が安かったため購入し代金を振り込んだ。楽天に出店しているので、安心したわけだ。ところが、商品は送られてはこなかったという。その後、同時期に同じ店舗で購入したお客が同じ状況をネット上で呟いたことで、いつの間にか被害者の輪ができていった。個々で楽天に問い合わせたが、「お客の自己責任で、一切補償はしない」と、楽天から突っぱねられたことも共通した。
出店者管理の杜撰さに業を煮やしたお客たちはネット上で被害者団体を結成し、泣きに入りせずに楽天側と交渉を開始した。そして、「楽天市場に出店する店舗が先に商品代金を振り込ませたのに、お客に商品を送付しない詐欺まがい事件が発生」という情報がネットで拡散。そのため、楽天側がブランドの毀損や信用不安を怖れて折れ、お客はみな被害額を補償してもらえたという。被害者となったデザイナーが「Yahoo!なら難なく補償してくれるのに」と語っていたのが印象的だった。
二つ目は、筆者が閉口した姑息なビジネス手法だ。2013年に楽天イーグルスが優勝した時のセールでは、商品の割引率を高くして安さを訴えたが、元の価格を吊り上げるという独占禁止法に抵触する問題が発生した。おそらく、担当営業が考えた稚拙な手段だったと思うが、三木谷社長は記者会見で「一部の店舗が行った行為」と、我関せずの釈明に終始した。だが、筆者はそれ以前にこのケースを目の当たりにしていた。
2008年頃、事務所のある備品を買い替えるため、ネットで調べるとどの店もプロパー価格はほぼ一緒なのに、楽天は同じ額を「セール価格」として打ち出し、60%OFFの表示をしていた。まったくセコい商売しているなと感じた。三木谷社長が優勝セールでの釈明をした時も、モール運営者自らが「確信犯じゃないのか」と思ったものだ。そんなこんなで、楽天では過去10年ほど全く買い物していない。
ECは「マーケットプレイス」「受注・宅配委託」「フルフィルメント」と、いろんなタイプが登場している。出店者はこれを機に販売や発送に関わる業務の分担、手数料などを冷静に考えて、自店が進むべきECの方向性に合わせて修正していくことが重要だ。送料無料程度の施策しか打ち出せない場所貸しの楽天を選択続ける理由も、乏しいのではないかと思う。
「経済成長のためには誰かが痛みを味わっていかなくてはいけない」。それは強者のプラットフォーマーによる弱者の出店者への一方的な押し付けでしかない。行為の性質それ自体が抑圧的でもあることから、社会的に非難されて当然と言える。Amazonとまともに対峙できない楽天が何おか言わんやである。赤字決算、高々320億円程度のフリーキャッシュフロー、これからの事業の行方を見れば、楽天の化けの皮が剥がれることは無きにしもあらずと思う。
出店者で作る楽天ユニオンはこれを「優越的地位の濫用」だと抗議し、公取委は2月10日に楽天を立ち入り検査。28日には独禁法が定める不公正な取引方法に当たるとして、東京地裁に「緊急停止命令」を申し立てた。法令違反の疑いがある行為を放置したままでは、競争秩序を著しく侵害し、出店者が違法状態から回復するのが難しくなるからだ。公取委は出店者の切羽詰まった状況を慮ったと思われる。
楽天側は「裁判所の手続きに適切に対応する」としつつも、「本施策(送料無料)に関しては法令上の問題はないと考えている」と弁明した。ただ、この施策で楽天市場からの退店を検討する店舗には出店料の返金を実施し、出店継続の店舗にも支援策を講じるというが、その内容がどの程度のものかはわからない。
確かに送料無料はお客には魅力的だ。しかし、それを出店者が負担するとなると、コストになってしまう。そのツケは結局、お客に回る。楽天市場のようなECモールに出店すれば、他にもシステム利用料(楽天は5%で、Yahoo!の3.5%より高い)が徴収される。さらにお客がスマホ決済を利用すると、追加の手数料が取られる。出店者にとっては、利益がどんどん削られていくのだ。
さらに楽天は一方的に規約を改正し、送料なども追加手数料を課している。とにかく、「取れるところから取れ」という考えなのだろう。ここまでがめつくなると、出店者との共存共栄の精神は微塵もなく、「誰のお陰で商売できているのか」という横柄な態度さえ感じられる。仮に三木谷社長がそんな意識なら、ゾゾタウンの前澤友作元社長が呟いた「タダで届くと思うんじゃねえよ」と、大して変わらないレベルだ。
今やECを取り巻く環境は激変している。競合他社が次々と参入し、サイトの機能や利便性、使い勝手を顧客目線で工夫している。Amazonがブランド力、規模ともに世界ダントツなのは変わりないし、国内でも自社ECに切り替えるところが出てきている。ここまで来ると、楽天市場は単なる「場所貸し」に過ぎず、自社でECを整備できない零細事業者の集まりでしかない。公取委はそうした出店弱者の立場を見過ごすわけにはいないのだ。
今回の措置に対して「経済・企業が成長する過程で、そんなものを横車で通してよいわけが無い」「優越的地位の濫用と言っても、出店者が依存しまくったからその地位を得たわけだ」という批判的な意見がある。しかし、プラットフォーマーは楽天のような出店者数だけでは優位になれず、競争力も持てない段階に移っている。加盟店の売上げを向上させるための画期的な施策も打ち出せず、送料無料でしか勝負できない無策ぶりの方が問題なのだ。
語弊がないように敢て利用者の立場で言えば、最近の楽天市場は出店者を増やすためか、新品も中古品もごちゃ混ぜてアップしている。知り合いの出店者の話では、サイトにアップする商品画像の背景を「白にするように」という一方的な要求までされたという。Amazonや他社に対抗するために画像も統一したいのだろうが、ならばゾゾのように「フルフィルメント型」に移行し、自社で「ささげ業務」もこなせばいいだけの話だ。
また、店舗ごとのデザインが整理されておらず、統一感がない。キーワードで検索すれば、必要でない商品までアップされて、かえって探しにくい。「商品は何でもあるが、肝心な欲しいものが見つからない」。「場末のGMSかよ」って突っ込んでやりたくなる。サイトのデザインが見にくく商品が探せないのは、ネット通販戦国時代では致命傷ではないのか。
ファッションに特化した「Rakuten Fashion(https://brandavenue.rakuten.co.jp/?scid=s_kwo_2014test_test)」は、2016年にスタイライフを統合してブランドのバリエーションが増え、人気は上がっているようだ。でも、利用者からすればゾゾや各ブランドサイトがあるから別にこれでなくてもいい。逆に楽天市場から移動した出店者がいて、本体の人気が落ちているのは全く皮肉な話である。
赤字のしわ寄せがネット事業に
楽天は2月13日、2019年12月期連結決算を発表した。売上収益は1兆2639億3200万円(14.7%増)に対し、営業利益は727億4500万円(対前年比57.3%減)の増収減益となった。内訳は、インターネットサービス事業が売上収益7925億1200万円(対前年比17.1%増)で、利益907億3800万円(同15.8%減)。フィンテック事業が同4863億7200万円(同14.6%増)で、同693億600万円(同2.1%増)。モバイル事業が同1198億800万円(同33.3%増)で、同マイナス600億5100万円だった。
結局、モバイル事業が足を引っ張り、楽天は8年ぶりに最終損益が約319億円の連結赤字に転落した。日本で4番目の通信キャリアを目指してはいるが、基地局の数は携帯各社が20万局規模を誇るのに、楽天はこの3月末でやっと4400局になる程度。東京や大阪、名古屋以外はKDDIの回線を借りているので、状況次第で通話に支障が出る。
しかも、キャリア各社がこの3月から次世代通信規格の5Gサービスを開始する予定なのに、楽天は速度で100分の1、容量で1000分の1と大きく劣る4G止まり。いくら月額2980円の格安携帯を謳っても、どれだけのユーザーが乗り換えるかは懐疑的だ。にも関わらず、今後も通信分野には6000億円を投資をするというから呆れてしまう。その分の原資をインターネットサービスの売上げ増で賄うために、送料を無料にする意図がありありなのだ。
Amazonは自ら商品を抱えてお客に直販している。ネットの先には世界中のコンシューマーがいるとの意識だから、積極的にニーズを収集してサービスを充実させている。それでも、他社との差別化が難しくなったため、米国内ではレジレスで商品代金が自動計算されるコンビニ「Amazon Go」を展開するなど、デジタル技術を生かした実店舗に移行中だ。
それに対し、楽天は画期的なビジネスモデルを生み出しているのだろうか。事業はインターネット、金融、通信の他には信販、旅行、球団、海外でのEC、デジタルコンテンツなどだ。それらも新規事業をゼロから立ち上げたわけではなく、カネにものを言わせてM&Aなどで傘下に収めただけ。しかも、すべてが順調に売上げを伸ばしているとは言いきれない。総売上高の6割を稼ぐインターネット事業ですら、送料無料で出店者の反発を招いた挙げ句にお上に楯突くようでは、三木谷社長の経営手法も限界にすら見えてしまう。
ECに限って言えば、成熟期に入ったことから、お客は「現物を確認してから購入したい」、宅配料が値上げされたため「店舗またはお試し拠点で受け取りたい」という意識に変わってきている。つまり、C&C(クリック&コレクト)サービス、受取&お試し拠点を拡充する段階に入っているのだ。手っ取り早く送料を無料にすれば、売上げが増えると考える方がECの変化を全く理解していないことになる。
Amazonですらマーケットプレイスで1円の中古本を購する時、プライム会員でなければ送料が400円かかり、代金は401円となる。ところが、「Book Offオンライン」は店舗受取が可能なので、送料はかからない。中古本がAmazonでは最低400円以上かかるのに、その半額の200円くらいから購入できる。これは店舗ネットワークや物流網が整備されているから可能なのだ。利用者が学習してどんどん賢くなっていることを考えると、プラットフォーマーには出店者に負担を強いる送料無料より、物流を改革する施策が求められるのではないのか。
価格の不当表示?は以前にも
思えば、今から20年ほど前のEC勃興期には、筆者も楽天市場をよく利用した。しかし、ある経験をきっかけに楽天を信用しなくなってしまった。一つは、2006年くらいに知り合いのデザイナーから聞いた「詐欺まがい」の一件である。
彼は当時、出始めたSONYの「一眼レフデジタルカメラ」を、楽天出店の某店が安かったため購入し代金を振り込んだ。楽天に出店しているので、安心したわけだ。ところが、商品は送られてはこなかったという。その後、同時期に同じ店舗で購入したお客が同じ状況をネット上で呟いたことで、いつの間にか被害者の輪ができていった。個々で楽天に問い合わせたが、「お客の自己責任で、一切補償はしない」と、楽天から突っぱねられたことも共通した。
出店者管理の杜撰さに業を煮やしたお客たちはネット上で被害者団体を結成し、泣きに入りせずに楽天側と交渉を開始した。そして、「楽天市場に出店する店舗が先に商品代金を振り込ませたのに、お客に商品を送付しない詐欺まがい事件が発生」という情報がネットで拡散。そのため、楽天側がブランドの毀損や信用不安を怖れて折れ、お客はみな被害額を補償してもらえたという。被害者となったデザイナーが「Yahoo!なら難なく補償してくれるのに」と語っていたのが印象的だった。
二つ目は、筆者が閉口した姑息なビジネス手法だ。2013年に楽天イーグルスが優勝した時のセールでは、商品の割引率を高くして安さを訴えたが、元の価格を吊り上げるという独占禁止法に抵触する問題が発生した。おそらく、担当営業が考えた稚拙な手段だったと思うが、三木谷社長は記者会見で「一部の店舗が行った行為」と、我関せずの釈明に終始した。だが、筆者はそれ以前にこのケースを目の当たりにしていた。
2008年頃、事務所のある備品を買い替えるため、ネットで調べるとどの店もプロパー価格はほぼ一緒なのに、楽天は同じ額を「セール価格」として打ち出し、60%OFFの表示をしていた。まったくセコい商売しているなと感じた。三木谷社長が優勝セールでの釈明をした時も、モール運営者自らが「確信犯じゃないのか」と思ったものだ。そんなこんなで、楽天では過去10年ほど全く買い物していない。
ECは「マーケットプレイス」「受注・宅配委託」「フルフィルメント」と、いろんなタイプが登場している。出店者はこれを機に販売や発送に関わる業務の分担、手数料などを冷静に考えて、自店が進むべきECの方向性に合わせて修正していくことが重要だ。送料無料程度の施策しか打ち出せない場所貸しの楽天を選択続ける理由も、乏しいのではないかと思う。
「経済成長のためには誰かが痛みを味わっていかなくてはいけない」。それは強者のプラットフォーマーによる弱者の出店者への一方的な押し付けでしかない。行為の性質それ自体が抑圧的でもあることから、社会的に非難されて当然と言える。Amazonとまともに対峙できない楽天が何おか言わんやである。赤字決算、高々320億円程度のフリーキャッシュフロー、これからの事業の行方を見れば、楽天の化けの皮が剥がれることは無きにしもあらずと思う。