HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

見えづらい消費者利点。

2016-02-10 07:22:33 | Weblog
 ECが浸透するに従って、配送時間の短縮化が加速しているが、「速さより重要なこと」があるのか。The FLAGから依頼を受けたので、論じてみたい。

 すでにアマゾンジャパンは配達時間、方法の指定、GPS機能による確認をできるようにし、楽天もスマホ専用アプリで最短20分配送、24時間受け取りを可能としている。

 ネット通販事業者がこうしたサービスを充実させる一方、宅配業者の中には配送料の値下げ圧力から扱いを拒否するところも現れている。だから、通販業者は自前での配送を余儀なくされているのだ。

 ただ、受取人が不在で再配送が生じると、その分がコスト増になる。通販事業者としては、なるべく受取人が配送先にいる間に確実に届けたい。それが配送時間の短縮を生み出した一因でもあるだろう。

 つまり、配送時間の短縮は受取人の事情だけではなく、通販事業者の都合もかなりの部分を占めているということである。

 だいたい配送の時間短縮と言ったところで、注文者はあくまで配送側の管理下におかれる。「配送時間最短30分」が売りであろうと、その間、消費者はネット通販事業者によって行動が制限されるわけだ。

 ECでは「24時間、どこでも買い物ができる」が消費者メリットだとすれば、「受け取りだって消費者の自由にさせてほしい」。個人的にはそう思う。

 だから、筆者は速さより重要なことでは、自ら24時間受け取りにいける「拠点の整備」を望む。ECを利用するのは、買い物行動が制約されないわけだから、受け取る自由だって制限されたくはないのは、当然である。

 注文する商品にはサイズの大小、温度管理の必要の有無、プライバシーの保護などの条件があるので、それに見合った拠点が整備されれば十分である。コンビニの他に大型の商品は都市部の郵便局なんかが24時間対応してくれればいいと思う。

 受取自由については、知り合いの薬店経営者から、聞いた話がある。

 関東圏のドラッグストアが全国展開の攻勢をかけていた時期に、その経営者は迎え撃つ対策として「ネットによる調剤サービス」の充実を挙げた。

 「都心部で働くビジネスマンは、自社が入居するビルに大概クリニックがあるので診寮は受けやすい。しかし、仕事が多忙な時に処方箋をもって調剤を受け取りにいくのは非常に不便。だから、インターネットでどこでも薬が受け取れるようなシステムを導入した」

 つまり、医師から処方箋データを指定の薬局にメールで送ってもらい、そこで調剤できるようにする仕組みだ。実際、東京・丸の内のビジネスマンが地元で診寮のみを受け、出張先の福岡で薬を受け取るケースがあったという。

 まさに受け取り場所の整備とは、こんなことではないかと思う。

 他の事例では、アマゾンがプリンターのインク残量をセンサーが感知し、自動注文する仕組みを充実させたケースがある。

 ファッション業界では、ゾゾタウンがだいぶ前から同社限定の商品などをネット予約商品として、消費者が注文できるようにしている。

 ただ、これらはともに時間短縮とは別の価値を訴えたものだが、消費者、事業者にとってどこまでのメリットがあるのかである。

 アマゾンの場合、自社ではなるべく在庫を抱えないようにしたいので、「購買希望時点」管理の精度をあげて配送できるように、またメーカーの生産体制までシンクロさせるために、このような仕組みを導入した面があるのではないか。

 これは米国の流通システムが際立つ事例だ。第一の目的は問屋、中間にいる事業者を省いてコストダウンするためであって、消費者にとってどこまでのメリットがあるかはわからない。

 ゾゾタウンのケースは、ファッションビジネスが関わるので詳しく分析してみよう。

 デザイナーズ系のブランドなどお客の好き嫌いの激しい商品は、ゾゾタウンのバイヤーとしても仕入れに二の足を踏んでしまう。だから、商品サンプルをネットで公開し、予約販売にした面もあるだろう。

 もっとも、中小のアパレル事業者は、従来から展示会でサンプルをバイヤーに見せ、オーダーを取って生産するスタイルをとって来ている。いわゆる受注生産だ。

 こうした仕組みにゾゾタウンが加わることで、消費者とアパレルメーカーをつなぎ、受注、生産、納品がよりスムーズになるのは確かである。

 アパレルメーカー側も受注量が確実に把握できるので、生産はしやすくなる。しかし、納品までにリードタイムがあることに変わりはない。

 つまり、商品を注文者に届けるまでの時間はかかるが予約商品が売れるのだから、それは「速さより重要なことだ」のロジックで捉えるのは、ナンセンスだ。 論点がズレている。

 在庫を持たずに予約だけで商売したいのなら、ネット事業者なんかの介在を許すのではなく、アパレルメーカーの展示会に消費者が直接参加できるようにすれば良いだけの話である。

 ゾゾタウンが行っている予約商品の販売システムとて、展示会による受注・生産、卸(納品)後に小売店が販売することと大して変わらないのだから、別に新しく何ともない。

 確かにアパレル事業者には小売りのノウハウはないから、展示会販売は難しいのではとの言い分もあるだろう。

 しかし、ディスプレイも什器展開も無いWebデザインだけで十分に売れるのだから、販売力でアパレルメーカーの展示会が通販サイトより引けをとるとは思わない。

 一方、ゾゾタウンの予約販売では、お客が予約と同時に代金決済するだろうが、ゾゾタウン側がアパレル事業者に対し、タイムラグなく「卸商品の代金」を支払うかどうかはわからない。

 支払ってくれるのなら、参加するメーカーは増えるのかもしれないが、多くの消費者にとっては大したメリットにはならない。むしろ現物を見ず試着なしで、商品を予約し購入するのは、「失敗した」と感じるリスクの方が高い。

 だから、ゾゾタウンが予約販売を押すのは、別の理由があるように思えてならない。穿った言い方をすれば、現物よりバーチャルの方が消費者は「衝動買い」を起こしやすいと、踏んでいるかもしれないからだ。

 とにかくまずは売れればいい。お客が失敗したと思う場合には、ユーズドサイトという受け皿を作っているから十分だ。こう考えると、消費者利益、アパレルメーカー利益というより、ネット事業者の一方的な論理でしかないと思う。

 アパレルメーカーの展示会に消費者が参加できれば、現物の商品サンプルを直に見て試着もできるので、失敗のリスクはまずない。気に入らなければ、買わなきゃいいだけの話である。

 ましてアパレル側は消費者の商品に対する反応を直に得られるし、「着心地が悪い」「質感が今イチ」「サイズが合わない」「ここのデザインを変えてくれれば」等々を企画部門にフィードバックでき、より売り易い商品づくりにつなげられるはずである。

 消費者参加型の合同展示会を全国キャラバンで行ってはどうか。実際、筆者が懇意にするアパレルメーカーでは、顧客が参加できる展示会を開催し、そこで直に注文できるようにして大盛況だという。

 予約商品で購入するか、しないかだけの判断しかできないゾゾタウンよりも、はるかに先を行っているのである。

 まあ、ゾゾタウンも一度アパレルを集めたリアルな予約販売会を開催している。でも、その後の継続がないところをみると、ノウハウ不足は否めないのだろうが。

 さらに速さより重要な可能性を考えると、「カスタム」だろうか。

 あるシャツメーカーでは、スマホで撮影した自分の画像をネットで送ると、首周りや腰回りなど詳細な?オーダーサイズを教えてくれる無料の自動採寸サービスを始めている。

 メールにタイトやレギュラーなど希望シルエットを書いておくだけで、数日後にはメーカー側からなで肩や胸板の厚さなど体型に合わせたオーダーサイズが届くという。注文者はこれを参考にシャツをオーダーすることができるのだ。

 ついにここまで来たのかと感じる反面、サルトリア(直にオーダーメードの採寸を行うスタッフ)の技術にどこまで近づけるのかと、懐疑的でもある。

 その程度のレベルでもOKと感じる消費者はいるだろうから、これが今後、スーツや靴と広がっていく可能性は無きにしもあらずだ。まあシャツのケースを含め浸透するには、価格とのバランスが合えばの話ではあるが。

 ECがすでに成熟の域に入りつつあるとすれば、EC次元だけで、消費者、事業者のメリットを云々してもあまり意味は無いと思う。

 システムやプログラムに左右されるECにおいて、消費者が配送時間の速さ以外にどれほどのメリットを享受できるのか。それさえ疑わしく感じている。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ECは到達点ではない。 | トップ | 名前を残す意味とは。 »
最新の画像もっと見る

Weblog」カテゴリの最新記事