<けぶの妄想・1980年7月15日>
東京警視庁七曲署・署長・西山は、昼食にざるそばを軽くとり、
各課から回覧されてくる書類の山に眼を通していた。
夏も本番、古い署内は昨年改装したものの蒸しており、署長室は扇風機が稼働しているが、それも熱風に感じる。
西山はちょっと溜息をつきながら、書類に認印を押している。
昨日は殉職した署員の告別式があり、今日は本庁にその署員の事情説明と後任人事を相談してきた。
今回は新人人事ではないので、西山の頭を悩ませた。
何人か七曲署転属を志願している人間がいるが、西山が欲しい人材は殉職者が多い七曲署を毛嫌いしており、本庁では志願者の配属の方針であるため、人事に明るい徳田警視に一任してきた。
書類処理に手を止め、何か思いついたように電話に手を伸ばす・・・・。
数分後、捜査一係長の藤堂俊介が姿を表した。
西山はゆっくりと、「今日本庁に行って来たんだが、島の後任人事だが、徳田警視に任せてきた。君がなにも云わんもんだけら、勝手に話を進めて来たぞ。」と言って藤堂を見た。
藤堂は何も言わず、頷きもせず、西山を真直ぐに見つめている。
西山は怪訝そうに、「本庁に任せてきたのが不服なのか?藤堂君。」と投げかけたが、藤堂は何も言わない。
西山は不機嫌になり、「いつもは君が直接人事に根回しをするじゃないか、なんで今回は動かないんだ?」と全て言い切らないうちに、藤堂は西山の机にそっと封書を置いた。
=辞職願=
西山はその封書を見てギョッとなったが、藤堂が構わず続けて・・・
「島刑事殉職の責任は私に全てあります。それに島以外にもこれまでに4人の部下を亡くしてしまいました。これ以上、今の職に就いている自身がありません。」
と、冷静だけれども毅然と言い放った。
西山は慌てて、「島の件は業務上とはいえ交通事故だ、なにも君が責任を取らなくとも・・・」
藤堂は黙っている。
西山はいつになく神妙に切り出した。
「確かに以前の4人は君の指揮に行きとどかなかった点があったかもしれんが、それはワシにも責任がある。それに今までワシ達の首が繋がっていたのは、この街にワシらが必要だという本庁に方針の表れだとは思わんか?」
西山を真直ぐ見ていた藤堂の眼が少し動いたが、
また元に戻った。
動じない藤堂に業を煮やした西山は、
「ワシとしてはこの辞表は受け取れん、これは・・・」と何かを言いかけた時に、電話が鳴る。
捜査一係の山村から、藤堂への内線だった。
仕方なさそうに「君にだ」と受話器を藤堂に向ける西山。
藤堂が取り「解った」とだけ言って電話を切る。
「富士見町で強盗傷害事件です、戻ります。」
西山は慌てて封書を藤堂の前に掲げ「これはどうするんだ!?」
藤堂はただ、「お預けします。」とだけ言い残し、早々と署長室を出て行った。
立ちあがって「藤堂!!!・・・・勝手な男だ・・・」と西山は苦虫を噛んだ。
そのまましばらく考え込んだ後、電話をとった。
数時間後。
藤堂から預かった封書を持って、本庁・徳田警視と面談している西山。
「そうか、彼が辞表を出したか・・・」としみじみと徳田が言うと、
「奴は極端なんですよ・・・それに思いこんだら頑として変えませんから・・・。」威勢はいいものの困り果てている感じの西山。
「ただ、徳田さんであれば、藤堂を説得できると思うのですが・・・。」
徳田は少し笑って、
「確かに、藤堂君は本庁時代から知っているが、それは君だって同じじゃないのか。」
西山の動きが止まって何も言わない。
徳田は続けて、「まあ、確かにあの頃の君らはライバルだったわけだから、その相手に刑事を辞めるななんて言い辛いな。」と笑った。
「徳田さん・・・」西山が参ったという顔をする。
「よかろう、私が藤堂君に話をしてみよう。それに後任人事の方も固まったから、明日にでも藤堂君にここへ来るように伝えてくれたまえ。」と笑った。
西山は立って徳田に深々と礼をして、徳田の部屋を去った。
西山を見送った後、また藤堂の辞表を感慨深気に眺める徳田。
(この文章はけぶの妄想であり、実際に設定された物語ではありません。)
東京警視庁七曲署・署長・西山は、昼食にざるそばを軽くとり、
各課から回覧されてくる書類の山に眼を通していた。
夏も本番、古い署内は昨年改装したものの蒸しており、署長室は扇風機が稼働しているが、それも熱風に感じる。
西山はちょっと溜息をつきながら、書類に認印を押している。
昨日は殉職した署員の告別式があり、今日は本庁にその署員の事情説明と後任人事を相談してきた。
今回は新人人事ではないので、西山の頭を悩ませた。
何人か七曲署転属を志願している人間がいるが、西山が欲しい人材は殉職者が多い七曲署を毛嫌いしており、本庁では志願者の配属の方針であるため、人事に明るい徳田警視に一任してきた。
書類処理に手を止め、何か思いついたように電話に手を伸ばす・・・・。
数分後、捜査一係長の藤堂俊介が姿を表した。
西山はゆっくりと、「今日本庁に行って来たんだが、島の後任人事だが、徳田警視に任せてきた。君がなにも云わんもんだけら、勝手に話を進めて来たぞ。」と言って藤堂を見た。
藤堂は何も言わず、頷きもせず、西山を真直ぐに見つめている。
西山は怪訝そうに、「本庁に任せてきたのが不服なのか?藤堂君。」と投げかけたが、藤堂は何も言わない。
西山は不機嫌になり、「いつもは君が直接人事に根回しをするじゃないか、なんで今回は動かないんだ?」と全て言い切らないうちに、藤堂は西山の机にそっと封書を置いた。
=辞職願=
西山はその封書を見てギョッとなったが、藤堂が構わず続けて・・・
「島刑事殉職の責任は私に全てあります。それに島以外にもこれまでに4人の部下を亡くしてしまいました。これ以上、今の職に就いている自身がありません。」
と、冷静だけれども毅然と言い放った。
西山は慌てて、「島の件は業務上とはいえ交通事故だ、なにも君が責任を取らなくとも・・・」
藤堂は黙っている。
西山はいつになく神妙に切り出した。
「確かに以前の4人は君の指揮に行きとどかなかった点があったかもしれんが、それはワシにも責任がある。それに今までワシ達の首が繋がっていたのは、この街にワシらが必要だという本庁に方針の表れだとは思わんか?」
西山を真直ぐ見ていた藤堂の眼が少し動いたが、
また元に戻った。
動じない藤堂に業を煮やした西山は、
「ワシとしてはこの辞表は受け取れん、これは・・・」と何かを言いかけた時に、電話が鳴る。
捜査一係の山村から、藤堂への内線だった。
仕方なさそうに「君にだ」と受話器を藤堂に向ける西山。
藤堂が取り「解った」とだけ言って電話を切る。
「富士見町で強盗傷害事件です、戻ります。」
西山は慌てて封書を藤堂の前に掲げ「これはどうするんだ!?」
藤堂はただ、「お預けします。」とだけ言い残し、早々と署長室を出て行った。
立ちあがって「藤堂!!!・・・・勝手な男だ・・・」と西山は苦虫を噛んだ。
そのまましばらく考え込んだ後、電話をとった。
数時間後。
藤堂から預かった封書を持って、本庁・徳田警視と面談している西山。
「そうか、彼が辞表を出したか・・・」としみじみと徳田が言うと、
「奴は極端なんですよ・・・それに思いこんだら頑として変えませんから・・・。」威勢はいいものの困り果てている感じの西山。
「ただ、徳田さんであれば、藤堂を説得できると思うのですが・・・。」
徳田は少し笑って、
「確かに、藤堂君は本庁時代から知っているが、それは君だって同じじゃないのか。」
西山の動きが止まって何も言わない。
徳田は続けて、「まあ、確かにあの頃の君らはライバルだったわけだから、その相手に刑事を辞めるななんて言い辛いな。」と笑った。
「徳田さん・・・」西山が参ったという顔をする。
「よかろう、私が藤堂君に話をしてみよう。それに後任人事の方も固まったから、明日にでも藤堂君にここへ来るように伝えてくれたまえ。」と笑った。
西山は立って徳田に深々と礼をして、徳田の部屋を去った。
西山を見送った後、また藤堂の辞表を感慨深気に眺める徳田。
(この文章はけぶの妄想であり、実際に設定された物語ではありません。)