映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

思い馳せる8月の慟哭

2016-08-11 22:30:33 | 旧作映画、TVドラマ
今上天皇の生前退位を2016年には語れるけれど、71年前の夏は未だ現人神だった。
そんな日本人の頭上に降り注いだ熱く眩し過ぎた光は、71年経っても脳裏から消える事なく鮮明で残酷な記憶として生々しい。

黒木監督&原田芳雄&宮沢りえ
渾身のぶつかり合いが産み出した広島被爆映画の傑作を紹介する。

「父と暮らせば」

ほとんどが舞台劇のような二人芝居。軽妙な、会話劇でもある。
娘が心配で黄泉から現れる原田芳雄の飄々とした存在感が素晴らしい。
父を死なせたことに罪の意識を捨てきれない宮沢りえの広島弁が可愛らしい。
直接的な原爆の悲劇を描くわけではないのに、胸に染み入る切なさとは何だろう。

この作品が優れているのは父娘の思いやる心遣いが、わたくし達に始終問いかけてくる演出をされているところだ。声高に反戦を語るのではなく、つましい小家族の心の温かさを見せることで、失われた幸せな時間の決して取り戻すことのできないかけがえのない情愛をきらめかせることに成功した。だからこそ戦争を憎む気持ちをわたくしに投げかける。