秋ドラマがスタートして一月。開始が早かったものは四回目の放送も終えて中盤に差し掛かろうとしている。夏が貧弱だった反動か、観ている5本はどれもが水準以上で粒ぞろいのラインナップだ
朝ドラも終了するのでそちらの感想と、今年評判が良かった夜ドラマ2本をプライムビデオで観たのでそちらも忘れず記しておこう
「恋です!ヤンキー君と白杖ガール」
失敗しちゃう典型的なドラマだと思っていたが、視覚障碍者の不自由さを24時間テレビっぽく演出していないので、恋する二人の気持ちを素直に感じることができるのが良い。社会環境の無理解や家族たちの葛藤もくどくならない程度にまぶされている脚本にも感心している。主人公役の杉咲花はこの手の女の子をやらせたら随一だし、岸谷五朗の父親も映画「タイヨウのうた」で難病を抱える娘を持つ親を好演していたので違和感ない。そしてやっぱり褒めたくなっちゃうのは主人公ユキコの姉役を演じる奈緒だ。彼女の存在がこのドラマの潤滑油になっている。もう一人ユキコのクラスメイト役の女の子を演じているのがドラマ「ゆるキャン△」で目立ってた田辺桃子だった。あまりにキャラも見栄えも違うから最初気が付かなかったけど声は変えようがない。視覚障碍者の目の動きとかかなりリアルに演じているのでビックリした。今後も期待しておこう
「日本沈没」
あの大仕掛けを今この時代にテレビドラマで観せることの意義って何だろう?スペクタクルならやっぱり映画にはかなわないし、それだってアメリカはもとより中国や韓国にさえ敵わないだろう見世物的映像芝居が作れるわけでもない。三話終わったところなので、日本が壊れてゆくのはこれからだろうから早計なことは言えないが、何となく庵野ゴジラが描いた内閣官房(政治家と官僚)の日本沈没版の臭いもする。ベタベタなお涙頂戴ドラマにされるよりよっぽど良いし、チャチなCGでお茶お濁すような破壊シーンも観たくないから、TBS日曜劇場風な味付けで料理されるのも面白いかもしれない。内閣官房の布陣は若干若すぎたり曲者的なキャラ不足が気に入らないけどまあ良しとして、リークしようとする報道側の手薄さはどうにかならないものか。若い女性記者一人で奮闘したって勝敗は明確すぎるだろうに
香川照之の田所博士が浮きまくっているのも気に掛かるところだ
「最愛」
タイトルをもう少し捻れなかったものかと思うけど、最後になって効いてくる場合もあるので今のところは見守るしかない。脚本は信頼のおける奥寺佐渡子だから気持ちだけでは動かしがたい人間の業みたいなものまでみせてくれると期待している。謎解きも下手に引き延ばしたりせず序盤でアッサリと明白にしてゆくあたりは小気味いいし、単なるミステリじゃなく人を描くんだと宣言しているようだ。新井順子P塚原あゆ子Dの布陣も万全の態勢だと言えよう
飛騨合掌造りの風景は美しくずっと舞台であればいいのに、テレビドラマではそうとはいかず結局東京が舞台になってしまう。いつか往年の名作ドラマが描いたような地方に住む人々の姿を観たいものだ
吉高由里子は個人的には映画で活躍して欲しい女優だけど、毎年主要ドラマの主役として起用されているのだからテレビ向きなのかもしれない。田舎の女子校生は少し無理があったけど、歳相応の化粧と服を纏えば頗る美人に変身するところも伏線として捉えれば仕掛けとしては成功している
「婚姻届けに判を捺しただけですが」
面白いんだけど、何しろ偽装結婚とか疑似同棲生活とかの設定が既視感ありすぎてもろ手を挙げて応援できない感じ。「逃げ恥」「義母と娘」「私の家政夫ナギサ」路線での美味しいどころ取りを目論んでいるのがあからさまで、清野菜名のガサツなキャラ設定が魅力的なのに今ひとつワクワク感が持てない
こうも同じような題材で恋愛ドラマが作られてゆくと、日本の男女はもう普通の恋愛は出来ないんじゃないかと心配になる。ある程度のシチュエーションが存在しないと恋愛感情が芽生えないなら、お見合いドラマが復活してもしいのかもしれない。結局夫婦なんてものも日々の馴れ合いの中で発見を繰り返し馴染んでゆくのだから
「二月の勝者」
中学受験を題材にしたことで舞台を塾にしたところは新機軸かな。今夏久しぶりに続編が放送された「ドラゴン桜」みたいな受験HOW TOも楽しみだけど、先生と生徒がゴールに向かって一生懸命努力するドラマは観ていて応援し甲斐があるというもんだ。それにしても井上真央がオバサンになったなと実感する。負けず嫌いで根性のある元気な女の子というイメージが出来上がっているものだから、教師役は彼女の真っ直ぐな佇まいに合っているけど、ややもすれば生徒のお母さんの年齢だろう
主演の柳楽優弥はその風貌からテレビドラマ向きじゃないと思っていたが、今回の役は不気味な雰囲気がよく合っていて彼じゃなければハマらないと感じる
「おかえりモネ」
春からの長丁場が終わった
安達奈緒子脚本の雰囲気はモネとみーちゃん姉妹や内野聖陽と浅野忠信の不器用な友情に見て取れるが、国民的ドラマではあまり強烈な色を醸し出すのは難しかったとみえ無難な着地となった
あまり恋相手である先生との絡みに時間を割かず、家族と故郷中心のドラマにしたところは潔しと褒めたい
清原果耶、蒔田彩珠の抜群な安定感が光るドラマだった
ドラマのように来年の夏はマスク無しでハグできる世の中になって欲しい
「八月は夜のバッティングセンターで。」
最近の日本プロ野球に全く興味がないため、レジェンドと言われる登場人物の半分は知らなかったしその功績も理解してない。だから主人公の野球少女が大声でレジェンド選手の名前を叫び感激する姿にいまひとつ乗れなかったのは残念だった。それでも古田や山本昌、上原と言ったビッグネームは解説なしでも凄さはわかる。特に山本昌の退き際の美学みたいなものは、野球のみならずどんな世界にも通用する格言を含んでいて感動的だった
真夏の夜、バッティングセンターでバットを振る女性たちの心を紐解く仕掛けが、元プロ野球選手のオジサンが語る野球論だというのが面白い発想。全然関係ない繋がりのようでいて最後は納得できるように作られているところも素晴らしい
仲村トオルと関水渚のコンビも現実でありえないだろうけど、野球場の妄想世界が不思議と心地良いようになんとなく馴染んでいた
「生きるとか 死ぬとか 父親とか」
序盤の軽妙な父娘話が続いていくのかと思っていたら、中盤以降は亡き母の思い出とリンクした重みのある家族ドラマに変質して行く。上記した作品もそうだけど、テレビ東京の夜ドラマは本当に質が高く侮れないな。アマゾンで観られて良かった。今年を代表する一本になるのは間違いない
わたくしも娘を持つ父親のひとり。世の中の父親が娘に寄せる情愛を同程度持っていると思うが、嫁に行くときも寂しさより安堵感の方が強かった。ベタベタした父娘関係も微笑ましいとは思うけど自分に置き換えることはない
原作者ジェーンスーの父親はドラマで描かれたよりもっと強烈らしいが、あまりアクがありすぎると可愛げなくなってドラマ上はいただけないからこの辺の匙加減が丁度いい。國村準がチャーミングに演じているので、困ったチャンだけど憎めない父親像ができている
ドラマの核は、奔放に生きる父親に愛人がいることを知りながら、平穏な日常を過ごしているかに見えた母親が隠し持っていた高価なミンクのコートを発見するところだ。母親が見せることのなかった悋気や寂しさの裏返しが、ミンクのコートになって観ているわたくしの涙腺を刺激する
上手いとは思っていたが吉田羊には参った。ラジオのパーソナリティーとしてサバサバ悩み相談に回答する姿と、過去の母親への想い許せなかった父親への感情をこれ以上ない質感で演じている
原作を読んでみたくなるドラマだった