田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『星のない男』

2019-05-13 14:12:44 | 1950年代小型パンフレット

『星のない男』(55)

 最近、植草甚一さんが監督のキング・ビダーについて書いた一文を読み、カーク・ダグラス主演の『ガンヒルの決斗』(59)を再見したことも重なって、この映画を再見してみた。

 

 ある町の牧場で働くことになった流れ者のデンプシー(ダグラス)と弟分のジェフ(ウィリアム・キャンベル)が、公共の牧草地をめぐる争いに巻き込まれていくさまを描いた西部劇。カークが、バンジョー片手に歌を披露し、曲芸まがいのガンプレーまで見せる。

 前半は、ビダーが余裕たっぷりで撮ったような感じで、喜劇調のところもあり、こちらも楽しく見られるのだが、その調子が最後まで続かないのが残念。

これは、極度に有刺鉄線を嫌うデンプシーの神経症的な性格を強調する半面、彼と対を成すべきジーン・クレイン演じる女牧場主の性格描写が中途半端で、荒くれ男たちの間で体を張って生きる彼女の存在が生きてこない人物描写のバランスの悪さに原因があると思われる。(サービスの入浴シーンは別として)。

 それ故、リチャード・ブーンのいかにもの敵役や、クレア・トレバー十八番の、酸いも甘いも噛み分けた酒場女という、脇役の方が際立って見えてしまうところがあるのだ。ただ、汽車を使って放浪するホーボーや、土地をめぐる有刺鉄線の存在を知るという意味では興味深い一作ではある。

パンフレット(55・日本映画宣伝社)の主な内容
解説・物語・スタア・アルバム(カーク・ダグラス、ジーン・クレイン、クレア・トレヴァ)・フランス通信

パンフレット(55・外国映画社)の主な内容
解説/この映画の監督キング・ヴィダー/物語/キング・ヴィダーの印象/カーク・ダグラス/ジーン・クレイン/クレア・トレヴァー/作品目録

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『ブラジルから来た少年』『ミクロの決死圏』

2019-05-13 10:33:49 | 映画いろいろ

 昨日のNHKスペシャルは人間の遺伝子について語っていた。で、今日のBS映画は遺伝子を扱った『ブラジルから来た少年』(78)。何だかタイミングが良過ぎると感じた。

   

 この映画は、ブラジルでアドルフ・ヒトラーのクローンを再生させようとする科学者(グレゴリー・ペック)と、それを阻止しようとするナチスハンター(ローレンス・オリビエ)との闘いを描いた異色作。

 ナチスの復興と遺伝子操作やクローンを結び付けるというタブーを描いたためか、日本では劇場公開されず、84年になって初めてテレビ放送されたといういわくがある。原作を書いたのが『ローズマリーの赤ちゃん』(68)『ステップフォードの妻たち』(75・04)などでも知られるアイラ・レビンだけに、SFサスペンスの形を借りてタブーに挑んでいる。ペックとオリビエがあえてイメージとは逆の役を演じていたのも衝撃的だった。

 ところで、遺伝子の説明で人体の内部を映像で見せられながら思いしたのが『ミクロの決死圏』(66)だった。以下、2010.8.15.TOHOシネマズ六本木ヒルズ「午前十時の映画祭」で見た際のメモを。

 

 脳に障害を負った科学者を治療するべく、科学者グループがミクロに縮小されて科学者の体に入る。1974年の「水曜ロードショー」での初見以来、何度かテレビで見ているが、この映画は一度映画館で見たかった。今から40年も前の映画だが、ミクロ化して人体に入ることはいまだにSFの世界だ。今なら全編がCG、へたをすれば3Dで作られるだろうが、チープな特撮がかえって手作りの良さを感じさせてくれる。

 監督はリチャード・フライシャー。父親が有名なアニメーターのマックス・フライシャーだからか、どこかアニメっぽいところもある。シュールな体内のデザインはサルバトーレ・ダリが関係しているらしいが、手塚治虫の漫画からアイデアをいただいたという説もある。

 俳優もアーサー・ケネディ、ドナルド・プリーゼンス、エドモンド・オブライエンなどクセ者揃いで楽しい。こういうタイプの俳優たちも今はいないなあ。紅一点は当時のグラマー女優ラクエル・ウエルチ。ぴちぴちのボディースーツ、着替え、藻を取るために彼女に触りまくる男たちなどのシーンはサービスだったのか。

 後に、この映画をコメディー化したような『インナー・スペース』(87)が作られたが、この映画のセリフに「インナー・スペース(抜け出せない泥沼)」があったことに今回初めて気づいた。そうか、両作はそこでつながるのか。

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