『映画に愛をこめて アメリカの夜』(73)(1981.11.26.八重洲スター座)併映はゴダールの『勝手にしやがれ』
この映画は、巨大なセット撮影の場面から始まる。そこから『パメラを紹介します』という映画を作るスタッフ、キャスト、あるいは集まった報道陣の姿を追いながら、映画作りの実際を見せてくれる。
例えば、トリュフォー自らが演じる監督は現実の映画製作に忙しく追い回されながら、映画に夢を託していた少年時代に『市民ケーン』(41)のスチール写真を盗みに行った夢にうなされる。夢と現実の違いは苦い。
また、ハリウッドから来た主演女優(ジャクリーン・ビセット)は、フランスの男優(ジャン・ピエール・レオー)に同情し、思わず一夜を共にしてしまう。何日も自由を束縛され、苦労を共にしている俳優たちの間にこんなことが起きても不思議ではないし、役に成り切れば成り切るほど、映画の世界と現実がごっちゃになってしまうこともあるだろう。
他にも、停電で現像前のフィルムが駄目になり、ベテラン女優(バレンティナ・コルテーゼ)はセリフが覚えられず、スタントマンとスクリプターは駆け落ちし、ネコは芝居をしないなど、てんやわんやで、撮影は遅遅として進まない。
そんな中、女優と男優の情事を知ったスタッフの妻が叫ぶ「映画が何よ。やれ、誰かと誰かがくっ付いただの離れただのって、まるで精神病院じゃない」という一言が、映画製作の現場をズバリと言い当てているとも思える。
所詮映画なんて、現実から逃避して夢の中でしか生きられないような異常な人間が集まって、心のよりどころとして作っているだけなのかもしれない。そして、映画を見る側も、それが嘘の世界だと知りながら、一時現実を忘れたくてその世界に浸るのだ。『アメリカの夜』というタイトルが示す通り、映画は虚構以外の何物でもない。結局、映画なんて作る側と見る側のばかばかしい共同作業なのかもしれないのだ。
ただ、この映画の素晴らしさは、こうした数々のマイナスを超えて、映画を完成させる喜びを描き、それでも映画は生き続ける、それでも映画は素晴らしいと感じさせるところだ。また『パメラ~』の撮影開始から完成までが描かれるだけに、いっぺんに2本の映画を見たような不思議な気分にもなる。これは、まさに映画に対するトリュフォーの屈折に満ちたラブレターなのだ。
【今の一言】約40年前の、何とも支離滅裂な一文。当時の自分はこの映画を見て相当感動したはずなのに、それを素直に表現していない。それにしても、この頃のジャクリーン・ビセットは本当にきれいだったなあ。
『20世紀の映画』(2001)から
この映画は、巨大なセット撮影の場面から始まる。そこから『パメラを紹介します』という映画を作るスタッフ、キャスト、あるいは集まった報道陣の姿を追いながら、映画作りの実際を見せてくれる。
例えば、トリュフォー自らが演じる監督は現実の映画製作に忙しく追い回されながら、映画に夢を託していた少年時代に『市民ケーン』(41)のスチール写真を盗みに行った夢にうなされる。夢と現実の違いは苦い。
また、ハリウッドから来た主演女優(ジャクリーン・ビセット)は、フランスの男優(ジャン・ピエール・レオー)に同情し、思わず一夜を共にしてしまう。何日も自由を束縛され、苦労を共にしている俳優たちの間にこんなことが起きても不思議ではないし、役に成り切れば成り切るほど、映画の世界と現実がごっちゃになってしまうこともあるだろう。
他にも、停電で現像前のフィルムが駄目になり、ベテラン女優(バレンティナ・コルテーゼ)はセリフが覚えられず、スタントマンとスクリプターは駆け落ちし、ネコは芝居をしないなど、てんやわんやで、撮影は遅遅として進まない。
そんな中、女優と男優の情事を知ったスタッフの妻が叫ぶ「映画が何よ。やれ、誰かと誰かがくっ付いただの離れただのって、まるで精神病院じゃない」という一言が、映画製作の現場をズバリと言い当てているとも思える。
所詮映画なんて、現実から逃避して夢の中でしか生きられないような異常な人間が集まって、心のよりどころとして作っているだけなのかもしれない。そして、映画を見る側も、それが嘘の世界だと知りながら、一時現実を忘れたくてその世界に浸るのだ。『アメリカの夜』というタイトルが示す通り、映画は虚構以外の何物でもない。結局、映画なんて作る側と見る側のばかばかしい共同作業なのかもしれないのだ。
ただ、この映画の素晴らしさは、こうした数々のマイナスを超えて、映画を完成させる喜びを描き、それでも映画は生き続ける、それでも映画は素晴らしいと感じさせるところだ。また『パメラ~』の撮影開始から完成までが描かれるだけに、いっぺんに2本の映画を見たような不思議な気分にもなる。これは、まさに映画に対するトリュフォーの屈折に満ちたラブレターなのだ。
【今の一言】約40年前の、何とも支離滅裂な一文。当時の自分はこの映画を見て相当感動したはずなのに、それを素直に表現していない。それにしても、この頃のジャクリーン・ビセットは本当にきれいだったなあ。
『20世紀の映画』(2001)から