田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『クレイジー・ハート』スコット・クーパー

2019-05-26 12:45:14 | 映画いろいろ
『クレイジー・ハート』(09)(2010.6.18.日比谷シャンテ)



 ジェフ・ブリッジスが、アル中で落ち目のカントリーシンガーを演じて念願のアカデミー主演男優賞を得た映画。茫々たる岩山の広がるアリゾナの風景が映されるオープニングは、それだけで主人公の孤独や、旅の暮らしを想像させる。まるで西部劇の流れ者を見るようで一気に引き込まれる。監督は俳優出身のスコット・クーパー。

 かっては売れっ子だったが、今は旅から旅のドサ回り。もはや半ば人生を諦めかけているが、ミュージシャンとしての意地もあり、燃えかすが残っている。舞台が日本ならさしずめドサ回りの演歌歌手といったところか。そんな男を、歌やギター演奏も含めてブリッジスが好演している。

 父のロイド、兄のボーに囲まれて育った彼は、サラブレッド俳優だから、どんな汚れ役を演じても、そのどこかに品の良さを感じさせるところがある。そこが彼の長所でもあり、短所でもあるのだが、そのために今までは過小評価されてきたところもある。今回の役はそんな彼の個性が十分に生かされており、アカデミー賞はアル中や難病ものには甘いという点を差し引いても受賞は妥当かと思わせてくれる。

 ところでこの映画は、ミッキー・ローク主演の『レスラー』(08)と驚くほど似ている。主人公は老境を向かえつつある孤独な男。かつての栄光、ドサ回り、人生への悔い、最後の恋、仕事へのこだわり、再起への思いという構図がそっくりだ。これは、男が男として生きにくい今の時代だからこそ、その反作用としてこうした映画が生まれてくるということなのだろうか。

 また、ブリッジスもさることながら、かつての弟子を演じたコリン・ファレルが意外な好演を見せる。今は立場が逆転した両者だが、それでもきちんと相手に敬意を払っているところに好感が持てる。これも先輩・後輩について男が勝手に抱く理想像なのかもしれないが。
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『Hostiles』→『荒野の誓い』

2019-05-26 08:08:57 | 新作映画を見てみた

(原題)『Hostiles=(敵対)』→『荒野の誓い』(9月6日公開)



 やっと日本公開が決まった西部劇の新作だが製作は2017年。監督は『クレイジー・ハート』(09)『ブラック・スキャンダル』(15)『ファーナス/訣別の朝』(13)と、骨太でニューシネマっぽい映画を撮ってきたスコット・クーパー。撮影は『スポットライト 世紀のスクープ』(15)などのマサノブ・タカヤナギ。『ジェロニモ』(93)に主演したウェス・ステュディが再びインディアンの族長役で存在感を示す。ニューシネマからの名脇役スコット・ウィルソンの遺作でもある。

 1892年、ニューメキシコ州。インディアン戦争で名を上げた騎兵隊大尉ジョセフ・ブロッカー(クリスチャン・ベイル)は、退役前の最後の任務として、少数の部下と共に、かつての宿敵で、死期が迫ったシャイアン族の族長イエロー・ホーク(ステュディ)とその家族を、部族の所有地があるモンタナ州へ護送することになる。途中、コマンチ族の襲撃で家族を失ったロザリー・クエイド(ロザムンド・パイク)も旅に加わる。さまざまな困難に襲われる中、彼らは互いの協力なくしては生き残れないことに気付くが…。

 ファーストシーンでインディアン、白人、それぞれの残虐性や暴力性を見せ、この映画が善悪を超越したところで展開していくことを予感させる。ここら辺りがやはり今風の西部劇だ。また、銃の音がリアルで思わずドキッとさせられるのも、今の時代の西部劇の立場を象徴しているように感じた。ロードムービーの中に広がる西部の風景が見どころではあるが、テーマが暗過ぎて、最後にすっきりしない気持ちが残るのは否めない。ベールの悩む姿もいささか食傷気味なところがある。

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