先日、編集プロダクション時代の同僚だったAが亡くなったことを風の便りで聞いた。もう何年も会っていなかったから、亡くなったと聞いても実感は湧かないのだが、それ以来、時折彼のことを思い出すようになった。
Aはヨーロッパ系の映画や音楽全般、外国文学やB級グルメが好きだったので、ビム・ベンダース監督の『パリ・テキサス』(84)や、ジョン・アービング原作・トニー・リチャードソン監督の『ホテル・ニューハンプシャー』(84)、ベルトラン・タベルニエ監督の『ラウンド・ミッドナイト』(86)などを一緒に見たり、職場が築地だったので、仕事帰りに銀座の近藤書店(洋書のイエナ)や中古レコード屋のハンターをめぐったりもした。
酒癖が悪いのが玉にきずだったが、一つ年下だったので、やんちゃな弟のように思っていた。ジャズやファンクのこと、小津安二郎が贔屓にしていたという中華料理屋「東興園」の「とりそば」を教えてくれたのもAだった。
その東興園もハンターも近藤書店も今はない。銀座はどんどん変わっていく。年を取るとこうしたことが増えていくのは仕方ないのだろうが、やはり寂しいものがある。
小津の『早春』(56)のこのシーンは東興園でロケされたそうだが、自分が記憶している店内とは違う気がするのだが…。
All About おすすめ映画『ワン・フロム・ザ・ハート』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/bf1ee703a8c56e4563451d6b50e364c2
https://www.youtube.com/watch?v=iaUl8M5GZHE
ドリス・デイに続いて京マチ子が亡くなった。95歳というからこちらも大往生だろう。
『羅生門』(50)黒澤明、『雨月物語』(53)溝口健二、『あにいもうと』(53)成瀬巳喜男、『地獄門』(53)衣笠貞之助、『有楽町で逢いましょう』(58)島耕二、『忠臣蔵』(58)渡辺邦男、『鍵』(59)市川崑、『浮草』(59)小津安二郎、『女経』(60)吉村公三郎、『足にさわった女』(60)増村保造、『ぼんち』(60)市川崑、『小太刀を使う女』(61)池広一夫、『釈迦』(61)三隅研次、『女系家族』(63)三隅研次、『甘い汁』(64)豊田四郎、『小さい逃亡者』(66)衣笠貞之助、『華麗なる一族』(74)山本薩夫、『ある映画監督の生涯 溝口健二の記録』(75)新藤兼人、『金環蝕』(75)山本薩夫、『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』(76)山田洋次
こうして自分が見ている彼女の出演映画を並べてみると、改めてすごい女優だったことに気付かされる。個人的には『羅生門』や『雨月物語』はもちろん、『あにいもうと』と『甘い汁』の彼女も結構好きだ。
『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』では、マドンナの綾に扮したが、これはシリーズ中、唯一寅よりも年上のマドンナが死んでしまう回で、山田洋次の死生観がよく表れていたと思う。中にこんな印象的なセリフがあった。
綾「寅さん、人間はなぜ死ぬのでしょうねえ?」
寅「まぁ、こう人間がいつまでも生きていると、陸(おか)の上がね、人間ばっかりになっちゃう。で、うじゃうじゃ、うじゃうじゃ。面積が決まっているから。で、みんなでもって、こうやって満員になって押しくらまんじゅうしているうちに、ほら、足の置く場所がなくなっちゃって、で、隅っこにいるやつが、「お前どけよ」と言われて、「あーっ」なんて海の中へ、バシャンと落っこって、アップアップして「助けてくれー」なんてね、死んじゃうんです。結局、そういうことになるんじゃないんですか」