
「打った、サードゴロ。サード捕って一塁へ送球。一塁アウト」
「打った。サード正面強い当たり。ツーバウンド。ヒザの所、両手ですくい上げて捕って一塁へ。速い球、一塁アウト!」
2つの文は「スポーツ放送あれこれ」と題したNHKアナウンサー・松本一路氏が、ラジオでの野球実況のダイゴ味の中で、伝え方の難しさを述べた一節。聞く側からすれば、前は平面、後は3D位ほどの違いが分かる。
氏は、100回のサードゴロがあったら100通りのサードゴロの描写があるはずと述べ、個々のサードゴロの特徴を摑んでどう表現するかが大事、という。スポーツ担当のアナはラジオの野球中継から入門する、と読んだことがある。勿論、電波にのらないが陰の積み重ねが必要なのだ。
ランナーが本塁へ突っ込む。キャッチャーがブロックしながらバックホームされた玉を摑んだ、タッチ。もうもうと立ち上がる土けむり。(ここで無言のヒトツ・フタツ・ミッツ)。「アウト!」と叫ぶ。
ラジオを聴くものはそこから、こんな光景を思い浮かべる。審判が腰を低くして交錯するプレーを見ている。見定めて「アウト!」と右手のこぶしを突き上げる。これが実況だと思う。
2010年W杯南アフリカ大会は11日から1ヵ月に渡って開催される。TV中継で観るサッカー、ハイライトは得点の瞬間。中継のアナはを絶叫しながら「ゴール」を長々と引き伸ばす。TV観戦者だから得点したことは分かっている。VTRが出るまでその短い時間、いかにその瞬間を描写するか、プロとして力を示して欲しい。
書くことにも同じだとは思うが、やはり難しい。
(写真:岩政大樹選手が通った高校の在る町に掛けられた応援の幕、頑張ってほしい)