●ネット右翼の終わりが鮮明に。田母神事務所強制捜査の衝撃
ブロゴス 古谷経衡 2016年03月07日
・共闘から埋めがたい亀裂へ
「―やっぱり(捜査が)入ると思っていた。特段の驚きはない」
3月7日昼過ぎ、元航空幕僚長の田母神俊雄氏の事務所や自宅を、東京地検特捜部が強制捜査(業務上横領容疑)したという衝撃的なニュースが入った直後、筆者の電話取材に対し、田母神選対に深く関わった元関係者のA氏は冷静にこう答えた。
2014年2月、猪瀬都知事(当時)の辞任に伴う東京都知事選挙で、独自候補として擁立された田母神俊雄氏は、主要四候補のうち最下位の4位に終わったものの、約61万票の得票を受けておおむね健闘した。その際、最大の支持母体は衛星放送番組制作会社・日本文化チャンネル桜(以下チャンネル桜)と、同局と一体となっている傘下の政治団体などであった。
非自民で強固な保守層(自民党より右)に訴えた田母神氏は、当時チャンネル桜やそれを包摂した保守界隈が一丸となった応援によって、インターネット上で保守的、右派的な言説を採る「ネット右翼層(ネット保守とも)」から絶大な人気を集めた。ネット上のアンケートやハッシュタグで、「田母神旋風」が吹き荒れた。
選挙結果は既に述べたとおりだったが、選挙後しばらくして、かつて「同じ釜の飯を食った」同志であるチャンネル桜と田母神氏との間に埋めがたい亀裂が表面化した。田母神氏が選挙時に集めた(寄付)約1億3200万円の内、5000万円にも及ぶ巨額の使途不明金疑惑が浮かび上がったのだった(この上で、昨年、田母神氏は秘書による私的流用を一部認めている)。
田母神氏を「東京だけではなく日本の救世主」として候補に祭り上げたチャンネル桜自体が、一転して田母神氏の資金疑惑を追求する、という展開になった。今回の強制捜査は、こうした一連の使途不明金疑惑を受け、地検が本格的に動いたものだ。無論、田母神氏は起訴されたわけでもなく、よって裁判になっているわけでもない。現時点(本稿執筆の2016年3月7日現在)では無罪だ。が、地検による強制捜査という今回の報道は、疑惑に蓋然性があるのではないかという憶測に火が付き、各方面に衝撃が走っている。
・ネット右翼の象徴としての田母神氏 ・・・・・・・・(略)・・・
・権威としての「田母神」 ・・・・・・・・(略)・・・
・都知事選立候補 ・・・・・・・・(略)・・・
・「田母神を支持せぬ者は保守に非ず」 ・・・・・・・・(略)・・・
・「あの金はどこへ行った」
選対から何度も何度も「応援演説に来るように」という矢のような催促があったが、私は1回だけ参加した以外は全て断った。そうして選挙が終わり、田母神氏が負けると「敗戦処理」のような状況になり、選挙に貢献しなかった人物が徐々に疎まれるようになった。私は名指しで説教をされ、田母神ガールズの人々からも徹底的に嫌われてしまった。
頑なに田母神氏の応援を拒否した私も人付き合いが下手だったのだろう。もう少し柔軟であれば、現在でも彼らと酒を酌み交わすくらいの仲で在り続けたかもしれない。が、過ぎた日は帰らない。私がこの後、彼らと行動を分かった直接の遠因はこの選挙だった。そして彼らの異論を許さない異様な同調圧力に精神が耐えかねたのもこの選挙だった。その後、チャンネル桜と田母神氏も前述のように離反して、現在に至っている。
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ネット右翼の象徴として君臨し、そして君臨し続けた田母神氏への疑惑が強制捜査となったのは、単にいち候補の選挙資金の使途不明疑惑という枠を超えた意味合いを見つけることができる。
「年金生活者の老人たちが、苦しい生活の中から一万円、二万円を(田母神氏の政治資金管理団体に)寄付していた事実を知っているだけに、やるせない思い」(前述A氏)
「都知事選挙でボランティア、手弁当で参加、協力したのに、裏切られた思い。事実ならお金を返して欲しい」(匿名のB氏)
・「原罪」を背負った保守
都知事選挙の時、田母神氏の応援賛同人にあらゆる保守界隈の人々がこぞって名を連ねた。或いは田母神氏の理論の誤謬を見つけながらスターとして祭り上げた。分かってはいるが、知ってはいるが、「保守全体の利益」だの云々、或いは「東京のため、国家のため」を大義として、彼をスターに祭り上げたのは他でもない保守自身だった。これは保守にとって「原罪」として記憶されることになるのではないか。
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支援者からの浄罪、つまり寄付金が私的に使われたという大きな疑惑に、いっときでもお墨付きを与えてしまった保守界隈は、果たして無実でいられるのだろうか。あらゆる意味で田母神氏を利用し、祭り上げ、そしてネット右翼に力を与えてきた保守界隈に、罪なき人など居ないのである。今後の状況は捜査の進展次第になろうが、すまし顔で「私は関係ない」としているのならば、それは潜在的共犯であろう。
私は、氏の政治資金団体に1万5千円の寄付(決起集会参加費)をしたのを、今でも後悔している。
ネット右翼の象徴としての田母神氏は、ネット右翼を映す鏡でもある。氏の言動はネット右翼の集合知そのものであり、またそれはネット右翼に転写され影響力を持つ「合わせ鏡」だ。氏の権力の衰微は、そのまま保守界隈とネット右翼の減衰に直するのは言うまでもない。保守政権下、ただでさえ安倍政権から疎んじられている保守界隈とネット右翼の、本格的終焉が近づいている。
そうならないためにも、保守界隈は「私は関係ない」では済まされない。 |