オーストリアのザルツブルブからミラノ、ローマへと走る国際特急列車インターシティ号にのった人々の3枚のチケットにまつわる3つの物語。いつか同じ旅をしてみようと、ネットでヨーロッパ鉄道の時刻表を調べてみたが、直通便をなかなか見つけることができなかった。ヴィラハ乗り継ぎで終点のローマまで約12時間かかる道のり。夜の9時にザルツブルクを出発すれば、翌朝9時にローマに到着するようだ。
この映画で出てくる列車(インターシティ)は、座席に1等と2等の区別がある。JRのグリーン車と普通席といった違いだ。1等席のある車両は、列車の中に細い廊下と6人座れる部屋(3人ずつの向かい合わせ)がいくつかある。部屋の入り口にどこの席がどこからどこまで誰が座るかという座席指定の札がある。この映画でも出てくるが、特にイタリアを走る列車では、席を予約しても自分の席に他人が座っている場合も多いので、切符を見せて移動してもらうことが度々ある。日本の鉄道とは異なる部分も多く、例えば、チケットは、乗車する前に検札機に差し込んで日付を刻印する。これはヨーロッパ各国共通。そして改札はない。客車のドアはボタンを押して開ける。車内の検札は必ず車掌が回ってくる。車内で切符を買うとか乗り越しの精算は割高になり、無賃乗車を疑われると40ユーロもの高額な罰金を払うことになる。罰金が払えなければ、警察に突き出されることに。
最初の物語は、初老教授の淡い初恋と、出張先の企業の女性秘書への恋情を幻想的に描いたものだ。女性秘書のヴァレリア・ブルーニ・テデスキの輝くような笑顔は、我々観客の目をも釘付けにする。どんなに年老いても、異性を恋する気持ちはなくならない。交通機関のトラブルで予定変更を余儀なくされるとついついイライラしてしまうのが普通だが、彼女の笑顔にふれた教授はやさしい気持ちであふれてくる。彼女への礼状をしたため、ノートパソコンを立ち上げると文章を書いては消し、書いては消し・・・・・・。
そして、だれもが注目する中、揺れる車内をミルクの入ったグラスをアルバニアの難民のために運んで行く。その教授の姿に、ぼくらは胸がいっぱいになってしまう。満ち足りた人のやさしい気持ちに、人間って捨てたモンではないよなと思わず嬉しくなってしまうのだ。恋は誰をもを優しくする魔法なのかもしれない。
2番目の物語は、ちょっと突き放したようなストーリー。超横暴な将軍未亡人と、その世話をすることになった青年の話だ。
予約を持たずに列車の予約席に座る人々は結構いる。これがイタリアンスタイル。しかし、その未亡人の徹底した傲慢な態度はあまりにも強烈だった。置いてあった他人の携帯電話を勝手に使うのもイタリアンスタイルだ。もっとも、単純な勘違いで携帯を盗んだとオバサンを責める男も悪い。傲慢オバサンに罵倒されこき使われてきた青年は初々しい同郷の少女と出会い、その語らいの中で自分を見つめ直す。あの横暴な未亡人が、途中下車して一人ホームに残るシーンは印象的だ。彼女はどうやってローマにいくのだろうか。彼女のこれからの人生には何が待ち受けているのだろうか。明らかに、なにかか変わりそうな印象を残して、列車は駅を後にする。
最後は、セルティックサポーターたちの若さ溢れるハツラツとしたストーリーだ。バカンス旅行中の彼らが、突然、社会問題とぶつかり一気に盛り上がる。大量のサンドイッチを夕食にと、列車に乗り込んできたセルティックサポーターたち。彼らはスーパーの店員仲間だ。好物のチキンサンドイッチを先に食べてしまい、残った野菜サンドイッチを処分しようとマンチェスター・ユナイテッドのユニフォームを着たアルバニア難民の少年にプレゼントする。実際に、イタリアを旅行すれば、列車の中で隣の席の乗客たちから、いろいろな食べ物を勧められる。
その一つのサンドイッチを家族全員で分け合って食べていた少年の家族に同情し、さらに手元に残ったサンドイッチを自然に分けてあげる彼らの姿に嬉しくなってくる。2等席に乗った彼らは決して裕福ではなく、コツコツと貯めたお金を使っての念願のフットボールの観戦旅行なのだ。しかし、世の中には、後には引けずに人生を掛けてローマに向かうアルバニアの難民の人々の世界があるという現実に突き当たる。
彼らは、そうした現実に直面して、いろいろ考えることにより、彼らなりに成長を遂げていくのだ。
旅行中に、チケットを盗まれて無賃乗車で罰金を課せられたり、警察に突き出されるというのは真にピンチだ。しかし、強硬な態度で盗まれたチケットの回収にかかった若者の一人が、最後に見せてくれた彼の勇気には感動を覚える。そしてフットボールは世界を結ぶ。セルティックサポーターの若者たちもまた、大勢のASローマのサポートたちに助けられて、まさにはちきれんばかりの笑顔で窮地を脱出する。ローマでも、いろいろな人生の出逢いが待っている。さあ、若者達よ、荷物をバッグにつめてドアから一歩踏み出そう。輝く明日が待っている。