tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

僕が旅に出る理由(3)

2007-09-20 19:51:41 | プチ放浪 海沿い編

9/16(日) ナズマド、底土、乙千代ヶ浜、  天候 晴ときどき曇り 水温 27℃ 透明度 15~25メートル

八丈島のところどころにある昔ながらの丸いポスト。民家の脇にある赤いアクセントが遠い思い出を覚醒させる。女性が引いた紅のよう。
早朝、三原山の写真を撮ろうと泊まっていた宿を一人で出て、ブラブラと島内を散歩するが、似たような石垣の家並みとゆるいカーブの組み合わせから迷路状態で、結局、迷子に。宿のすぐ近くにいることは間違いないのだが、帰れない。通りすがりに逢った島の人に助けられて無事に宿に帰還。地上で迷うようじゃあ、水中じゃあ、絶対に迷うはずだよなと悲しい納得をする。
底土港横のポイントには3方向に入り口のある「三つ叉アーチ」、ダイバーが多かったため濁っていたが、ツバメウオのシルエットがきれいに見えた。今日のナズマドは、西風がでて白波が立っており、透明度も10メートル程度に落ちていた。それでも、さすがに魚影は濃い。八丈島のダイビングポイントにはアーチがあるところが多い。そのアーチの中にレンテンヤッコやハリセンボン、ウミウシが豊富に揃っている。
アーチを抜けてしばらくして、バディの残圧をチェックするため彼のゲージを覗きに行くと、ぼくの方を指差して何か異常を知らせるサイン。たぶん、タンクの取り付けがゆるくてエアーが漏れているのかなあとまずは考えた。というのも、ぼくのゲージでは残圧が120kg/cm2を指しており、特に早くエアが無くなっているわけではないからだ。ところが、バディの彼はそばにいたガイド見習いのなつこさんに連絡。彼女がやってきて、なにやらぼくの背中でタンクを引っ張っている。何が起こっているのか、わけわかんなくて、それでも引っ張られて体がふらつかないように水底の岩にしがみつく。なつこさんは、うつぶせのぼくにのしかかり、足でぼくの足をはさむと、また、なにやらタンクを引っ張っている。そしてOKのサイン。何が起こっていたのかわからなかったけど、エキジット後に聞いたら、BCのベルトからタンクがずり落ちそうになっていたらしい。アルミのタンクって滑りがちなのだ。エキジットするや、BCを脱いでタンクをホールド。とりあえず、事なきを得る。でも、水中でタンクがはずれていたら、きっと、十数年前の教習を思い出してBCの水中脱着をするはめになっていた。
3本目は『乙千代ヶ浜』。そこでもなつこさんのすぐそばをウミガメが泳いで行ったらしい。彼女がカメを横目で見ながら僕にアイコンタクトを求めるも、彼女のすぐ横に居たぼくは、あらぬ方向を見ており、結局、カメを見逃してしまった。5人のパーティでウメガメを見ていないのは僕とバディだけ。ウミガメのウォッチングは僕にとって永遠のテーマなのかもしれない。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕が旅に出る理由(2)

2007-09-19 20:14:28 | プチ放浪 海沿い編

9/15(土) ナズマド、底土、乙千代ヶ浜、藍ヶ江港  天候 晴れ 水温 27℃ 透明度 15~25メートル

たくさんの夢を乗せた「ひょっこりひょうたん島」は、波をチャプチャプかきわけ太平洋を漂流中。らしい。
“苦しいこともあるだろさ、悲しいこともあるだろさ、だけどぼく等はくじけない~ぃ、泣くのは嫌だっ笑っちゃおっ、進めぇ~っ!”歌うと元気がもらえる歌だ。秋雨前線が北上したお陰で、今日の八丈島は晴。三原山、八丈富士がくっきりと見える。島の空は広い。どこの島でもそうだけど、おんなじ空とは思えない。
前日までは水温が低く、沖では18℃とのことだったが、黒潮も北上しており海は結構暖かだった。今回のツアーは、すべてビーチエントリー。ロープを掴んでだったり、岸壁からジャイアントストライドだったり。見ることができた生物は、タテジマキンチャクダイyg、アデヤカミノウミウシなど。結構、魚影が濃く、パーティによってはアオウミガメにも遭遇できたらしい。最初のエントリーで、ウェートに勘違いがあり、アルミタンクだったことから軽すぎて潜れない。必死になって水底まで行き、大きめの石を3つほど拾って中性浮力を取る。インストラクターがマスク越しにあきれた目で見ている。彼の前での失態はこれで何度目だろう。
エキジットの際に、ガイド見習いのなつこさんからオクトパスをもらえとの指示。この時に、抱えていた石の一つを落っことしてしまい、身体の浮上を止められない。身体が安定しなければオクトパスブリージングは難しいのでなつこさんの差し出すオクトパスを拒否すると、インストラクターからダメだしのサイン。たしかにウェート不足からエアの消費が多かったけど、残圧40kg/cm2あるから大丈夫と思っていたがエキジットの際のリスクを考えてのことなのだろう。でも、ぼくの命よりも若い女性の命を大切にすべきと思うのだが・・・・・・。結局、なつこさんにBCの胸ぐらをつかまれながら、安全停止。空いている左手で彼女につかまろうとするが、どうしても彼女を抱きしめる形になるのでやめる。きっと、他のアングルからは、吹き上がっている僕を下から小柄な彼女が引っ張っているので、まるで凧揚げをしているようにでも見えたかもしれない。
そして抱えていた石を捨てて浮上。石を捨てたついでにカメラを落っことし、またもや、なつこさんに回収してもらってエキジット。この日はおとなしく、バディにくっついて自重。
ナイトで潜った藍ヶ江は、なつこさんのフィンの後にできる夜光虫の光の渦にしばし見とれる。いつまでも見ていたいような群青の幻想的なながめだった。ナイトのあとに露天の温泉でゆっくり。空を見上げると大きくはばたいた白鳥座の大十字が輝いていた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

僕が旅に出る理由(1)

2007-09-18 22:39:54 | プチ放浪 海沿い編

「僕が旅に出る理由は、だいたい100個くらいあって・・・・・・」
くるりの「ハイウェイ」という曲の出だしだ。
突然、八丈島のダイビングを思いついたのは、今となっては何がきっかけだったかわからない。メタメタに破れた心を修復するためだろうか。それとも、もうどうにもならないんじゃないかというわけのわからない恐怖からなのか。難しく考えてはじめたらきりがないことを難しく考えてしまう。後悔することなんて山ほどあり、過去は決して変えることが出来ないのに・・・・・・。

ラブ・コメ映画の『Holiday』でキャメロン・ディアスが泣けない女を演じていた。耐えるケイト・ウィンスレットと比較して、キャメロンはどちらかと言えば苦手なオンナだなあと思っていたが、ふと、実生活で泣けない自分がいることに気がついた。DVDなど絵空事では、それこそ涙が止まらなくなるものの、自分のことになると涙が乾ききって何にも出てこない。なんて嫌なオトナになってしまったのだろうか。それとも、自分の気持ちが整理できずに感情を失くしてしまったのだろうか?

旅に出る理由。しかしほんとは、理由なんてどうでもいい。
「僕には旅に出る理由なんて何一つない」
つまり、色々な事があったけれど、それがいい事であったのか、悪い事であったのかはわからない。 なんでかはわからないけれども、泣くことのできない嫌な男いて、旅に出ることに決めたから出かけてみる、ということだ。

9月14日、 船はこの日の夜の10時30分に竹芝桟橋を出航した。さすがに3連休の前夜ということで、桟橋はサーフボードを担いだ若者達や、大きなクーラーボックスに釣竿をぶら下げた男たち、そしてダイビングのキャリーバッグを抱えたダイバー達でごった返していた。東海汽船のカメリア丸は関東を目指して北上中の秋雨前線をくぐり抜けて行ったが、航海中の揺れはほとんどなかった。僕の眠りは浅く、船底に近い2等船室の和室のスペースで、毛布に包まりながらたびたび目を覚ました。ぼくのとなりで、ツアー同行のダイビングインストラクターのなつこさんが熟睡中。彼女はガイドの見習い中だ。かわいい寝顔の彼女を起こさないように、翌朝の8時過ぎにデッキに出てみる。外は晴だ。透き通るような青い大空だった。すでに前方に島が見えている。あれが、八丈島だ。八丈島のインディゴブルーの海を見て一気に目が覚める。

<はるかな はるかな 見知らぬ国へ 一人で行く時は 船の旅がいい>
by 井上揚水

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

晩鐘の鳴る里(9)

2007-09-13 20:23:52 | 日記

久美子が、さきに立ち上がったタツヤに声をかけた。
「あのね、教えて欲しいことがあるの」
「ん?」
目を合わせないときは、真面目な話。それは久美子の昔からの癖だ。それを知っているから、タツヤは何も聞かず頷く。
「東京で1人暮らしって大変なの?」
「・・・・・・」
一瞬、タツヤは何を言い出すのかと、彼女を見る。久美子は、やはり視線は合わさないで、まっすぐ前を見ていた。
「私も東京に住もうかな」
「・・・・・・うん」
なんとなく、久美子を見つめるのがつらくなって、タツヤも前を見る。夜の闇にのって、祭の音が流れてくる。手に持った金魚の入ったビニール袋を振ると、中で金魚たちが大慌てで身を翻した。
「タツヤは何も聞かないんだね」
「そうか?」
「『どうしてそんなこと?』 なんて聞かないの?」
「……どうしてそんなことを?」
手に持った金魚の袋をつっつきながら久美子に聞く。袋の中で、つつかれた金魚たちがあわてている。
「東京の方がいろいろ刺激があって面白そうじゃない」
そういって、彼女はまたエヘヘと笑う。久美子が東京へ行ったら、もうタツヤの手の届かないどこかに行ってしまうのだろう。
たまに田舎に帰ってきても、もう、こうして逢う事はできないかもしれない。
「・・・・・・でも、もう、決めてんだろう?」
「うん」
用意されていた解答に、タツヤは頷いた。
タツヤの返事に満足したのか、久美子は勢い良く階段を数段飛び降りる。
そして、途中で振り返り、
「東京で会えるといいね。それとね」
一瞬、口ごもり、久美子は視線をそらす。タツヤは久美子を見つめたまま、無言で続きを待つ。
「タツヤのこと、――だったよ!」
同時に、祭の最後を飾る花火のヒューと風を切る打ち上げの音がした。その音に打ち消され、彼女の声はタツヤに届かなかった。
「え?」
<聞こえない>そう言おうとしたときには、既に久美子は背を向け走り出していた。
<バーン>
花火が夜空を焦がし、爆裂音が夜気を引き裂いた。
久美子の走り出したその背中は、中学校時代にいきなりキスされて怒って駆けていったその背中だった。
<どうすんだよ、この金魚>
境内に取り残されたタツヤは、手にした金魚の袋を指で突っついた。突付かれた金魚たちは、また袋の中で暴れた。
秋はどんどん深まっていく。境内には虫の声が響いていた。

おわり (みどりさんにささぐ)

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

晩鐘の鳴る里(8)

2007-09-12 20:42:13 | 日記

「なによ、よけなさいよ。大丈夫?」
「よけろって、おまえ。現役はとっくに卒業したし。っていうか、お前のパンチ、中学校の時よりも数倍早くなってるし」
「大丈夫?」
久美子はタツヤの頭に手をあてて、タツヤの目を覗き込む。こんなに近くに久美子の顔を見たのは、中学と時に彼女とキスした時以来だった。久美子のキラキラと輝く瞳がすぐ目の前にあって、タツヤの心臓がドキっとなった。あと数センチ顔を前に移動させれば、久美子の唇にふれる。手を少しだけ伸ばせば、柔らかな久美子のからだを両手で抱きしめることができるだろう・・・・・・。
「早く冷やさないとあざになっちゃうわよ」
「・・・・・・」
うつむくタツヤの目に気付いて、久美子もあわてて下を向いた。
「・・・・・・」

わずかな時間だったが、そんな気まずい沈黙を破ったのは久美子だった。
「金魚どうするの?」
「ああ、金魚屋に返そうかな」
「なによ。せっかく獲ったのに」
「久美子は、どうする?」
「鳥居のところで、ちっちゃな子に配ろうかな」
「じゃあ、オレのも配ってよ。情けは人のためならず」
「また、意味わかんないこと言ってる」
「将来の日本を背負って立つ子供達だろう。情けをかけとけば、なんか良いことがあるかも」
「うーん。諺の意味はあってると言えばあってる」
「だろ?」
「うん。で、いつ帰る?」
「あさって」
「おばさんによろしくね」
「ああ」
「目は大丈夫?」
「うん」
「じゃあ、もう帰るね。目を早く冷やしてね」
「ああ。気をつけて帰れよ」
「・・・・・・」
「やっぱ、おれも金魚配るのを一緒に・・・・・・。子供たちに顔を覚えておいてもらわないと、忘れられちゃうから」
「うん」
二人は座っていた階段から立ち上がった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする