『緒方拳からの手紙』、年の初めに心和らぐ本に出会うことができた
私の信頼する友人は、緒方拳の大ファンだった。岡山市の西川アイプラザで公演があったサミュエル・ベケット 作『ゴドーを待ちながら』の舞台で、目の前で緒方拳が演じるのを観た際の興奮は、いつもは冷静な友人にしては尋常ではなかった。
その友人と緒方拳と三人の記念写真が、今手許にある。山田洋次監督作品の「隠し剣鬼の爪」の撮影を見学に行った際に、カツラを着けたまま休憩中の緒方拳さんにお写真をお願いすると、快くお引き受けをしていただいた。その記念の一枚だ。
さて、その緒方拳はガンで、2008年10月に71歳でその人生の幕を閉じている。そして最後の連続テレビドラマは、倉本聰作の「風のガーデン」で、役は皮肉にも中井貴一扮する息子が末期ガンと言う設定だった。どんな思いで演じたのか、その役者魂を見た思いがする。
さて、その緒方拳の死から二年経った昨年10月発刊された『緒方拳からの手紙』(学校法人文化学園 文化出版局刊)を、お正月に読んだ。
緒方拳は「書家」としても有名だった。この本は、「季刊『銀河』愛読者カード」で寄せられた、緒方拳からのハガキを中心に構成されたものだ。
この本には、独特の緒方拳ワールドが展開されている。何とも味わい深い字が展開されていて、心が揺さぶられる。そしてまた、独特の言葉もまた、私を惹きつける。「無他岐(ほかにみちなし)」とか「宿福」、そして「座辺師友(身の回りにあるものが師であり友である)」などだ。
この本を監修した絵手紙作家・小池邦男さんとのハガキを通した交友も素敵だし、小池さんの文章も愛情に満ちていて素晴らしい。
それにしても、緒方拳が実名で雑誌「銀河」の読書カードを寄せていたことには、いささか驚きもした。ともあれ、緒方拳の生き様から心地よく学ばせてただいた。年の初めに、心和らぐ本に出会うことができた。感謝、感謝だ。