tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

労働時間問題を少し深掘りすれば-4

2017年06月13日 10時20分31秒 | 労働
労働時間問題を少し深掘りすれば-4
 このシリーズの最後に、少し、労働時間問題に関する、いわゆる日本的な側面の問題点を考えておきたいと思います。

 長時間労働→過労死の問題は、労災保険などでは特に脳・心臓疾患として捉えられていましたが、これは本人と企業の健康管理が中心で、適切な健康診断によってかなり防げるのではないでしょうか。

 より深刻な問題として最近注目されるのが「過労自殺」です。仕事や人生に行き詰まりを感じ、自死するといったケースは、古くは、アメリカアの作家、アーサー・ミラーの「セールスマンの死」でも取り上げられ大きな幅広い反響を呼びましたが、今の日本の過労自殺は、これとは少しく違うように思われます。

 通常では、元気で仕事をこなしているだろうと思われるような人が、仕事の悩みからうつ病などの精神疾患に苦しみ、果てに自死、という結果になるのです。
 メンタルヘルス問題が言われるようになり、企業でうつ病が目立つようになって、言われたのが、「うつ病の前兆は『朝起きて会社に行きたくない』と考えるようになった時」といった経験や解説です。

 過労自殺は、体の不調、うつ病と進み、人間として行き詰まるところまでいった挙句に起きるのでしょう。そして、そのはじまりは「会社に行きたくない」・・・・・。
 これは学校で見られる「いじめ」の「学校に行きたくない」と酷似しています。これを労働時間だけの問題として取り扱うのは、どうも不適切のようです。
 「残業月100時間で過労死なんてありえない」と言って非難された評論家もいましたが、楽しい仕事で残業100時間なら私も自殺はしないでしょう。

 社会人の場合の「いじめ」は、最近の言葉でいえば「ハラスメント」でしょう。セクハラの場合は「受けたものがセクハラと感じたら、即犯罪」という意識が徹底していますが、パワーハラスメントの方は、「厳しく育てようとしただけなのに」などの言い訳も成り立ちます。

 この辺りで、日本的なものが出て来ます。日本では「就職」でなく「就社」だと言われますように、企業に正規採用されることは、「人間として」その企業のメンバーとして認められることです。そこで、上司に「お前はダメだ」と否定されることは、日本人にとっては、時に人格否定、人間否定のように受け取られます。特に仕事熱心で真面目な若い社員にそういう場合が多いようです。

 かつて日本の管理職は、部下の面倒を見る教育を受け、あるいは企業文化、会社の雰囲気の中で、そういう感覚を身に着けていたのではないでしょうか。企業で一番大事なのは「人」は日本企業の常識でした。

 人間性豊かな日本的人事管理が、長期不況の中で失われ、人員削減の一般化、非正規社員の著増、仕事・利益優先といった企業風土を生み、一方、真面目な社員ほど、日本的な企業観を持っているのが現状です。このギャップが問題の根源にあるようです。

 日本の経営管理者が、もう一度、日本の企業と社員の人間中心で濃密な関係に思いを致し、法律だけでは実現出来ない大切な「人間を生かす経営管理」という重要な役割を改めて確りと果たしていただきたいと思う所です。
 それが 企業の長期安定成長のベースでしょう。