tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

企業の「内部留保」過去最高は当たり前

2018年09月04日 15時10分19秒 | 経営
企業の「内部留保」過去最高は当たり前
昨9月3日、財務省から、平成29年度の「法人企業統計年報(概要)」が発表になりました。昨年度は、我が国の企業経営は総じて好調で、それに支えられて、消費不振という問題は抱えながらも日本経済は何とか順調に推移してきました。

 ご承知のように、「法人企業統計」には年報と四半期報があり、速報性のある四半期報と、企業経営の中身が確りみられる年報で、日本の企業経営の状況は適切に把握できる優れた統計です。

 報道では、主にその中で「企業の内部留保」を取り上げたものが多く、「内部留保史上最高」とか「安倍政権発足以来毎年増加」などというのもありましたが、何か、安倍政権の賃上げ奨励を意識してでしょうか、企業が儲け貯めこんでいるといったトーンが感じられるものが多かったように思います。

 マスコミが内部留保と言っているのは、法人企業統計の「資産・負債の部」(B/S)の中の「自己資本の中にある「利益剰余金」のことで、企業経営の基本から言えば、企業は(資本金で経営しているのではなく)過去の経営実績で積み上げた利益剰余金で経営が成り立っているというのが常識でしょう。

 つまり、資本金1千万円で会社を設立しても、1千万円では大した仕事はできませんから、最初は借金して資金量を増やし、年々の利益を蓄積して(内部留保)、利益剰余金を増やし、それで借金を返済して、出来るだけ自己資本で経営するようにし、強靭な財務体質の企業に成長していくという事でしょう。

 というわけで、多くの皆様はとうにご存知でしょうが、利益剰余金というのは、剰余金と言っても遊んでいるカネではなくて、企業経営の基幹的な資金として運用しているカネなのです。その増加は企業の成長の原動力の増加ということでしょう。

 法人企業統計の数字を表にして見ました。
     
     過去11年の利益金処分と利益剰余金・自己資本(単位:千億円)

      資料:財務省「法人企業統計年報」

 右端の自己資本は年々増加しています。長期不況の中で、自己資本充実は日本企業にとっては必須で、リーマンショックで大幅減益の時も、増資その他で何とかしのぎ、増加を維持しています。
 本来自己資本は、表の左端の当期純利益から配当を支払った残りの内部留保が利益剰余金の形で積み増されて増加していくのですが、流石にリーマンショックの時は2年にわたって内部留保はマイナスになり、利益剰余金を取り崩して配当もやり、結果、21年には利益剰余金は減少しています。

 これは企業経営としては異常事態で、その後の順調な増加は喜ぶべきことですが、剰余金の増加に兎角の批判があるのは、賃金をあまり上げずに利益を出す企業、利益をため込んでもイマイチ投資に積極的でない企業といった見方が原因でしょう。

 経済は投資と消費で成り立っていますが、今の日本では最も慎重なのは消費者でしょう。この所の 消費性向を見ますと、可処分所得は増えても消費支出は減ることが多いようです。
 それに比べれば企業の方はいくらか 積極性があるようです。

 というようなことで、企業が内部留保(利益剰余金)をため込んでいるという批判があるすれば、それは何が起こるか解らない状況に何とか対応できるようにと、企業・消費者共に経営・生活の態度が慎重になっているという事でしょう。
 その原因には、種々の波乱含みの国際情勢もあるでしょうが、政府・日銀の経済・金融政策の先行きが見えないといういわゆる将来不安も大きいでしょう。

 本当に論ずべきはそちらの問題ではないかと私は思っています。アメリカや中国の身勝手な行動、それに対して国民を安心させることの出来ない政府・日銀の対応でしょう。
 民間が将来に希望を見出しその気になれば、日本経済はもっともっと伸びる力があると思っています。