tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

我が国の経常黒字体質の背景

2020年02月10日 22時29分41秒 | 経済
我が国の経常黒字体質の背景
 前回は、リーマン・ショックによる円高で、日本の国際競争力がダウンし貿易赤字になったものの、第一次所得収支の大幅黒字のお蔭で経常収支の黒字が維持された状況をグラフで見ました。

 日銀がアメリカのFRBに倣い、ゼロ金利・異次元金融緩和をやることで、異常な円高は解消しましたが、今でも「何かあると円高」という傾向は残っています。これは、日本が常に経常黒字を維持している国だという事に起因するものでしょう。

 そして経常黒字の原因は、第一次所得収支(海外からの利子・配当などの純収入)が年20兆円、GDPの3~4%という巨額にのぼっていることが背景にあるからです。ではその大きな黒字の原因は何か、ですが、今回はその辺を見てみましょう。

 プラザ合意以降の円高で、日本の企業にとって、国内生産は大幅にコスト高となり、製造業中心に工場などの海外移転が進みました。海外に工場・事業場をつくるための企業の海外への投資が、国際収支統計でいう「(海外)直接投資」です。

   図1 直接投資と第一次所得収支 (財務省、単位:1億円、暦年)


 日本企業のこの動きは、図1のように、円高に苦しんだ2000年頃(年2~3兆円)から急速に増え、リーマン・ショック前には10兆円近くになっています。リーマン・ショックで一時停滞しましたが、その後は一層の増加です。
この勢いは円レート正常化後もとまらず年15兆円水準から20兆円に達してきています。

 国内に投資するより、広く海外を見て投資する方が、あるいは海外の企業を買収する方が、手っ取り早く収益につながるといった企業行動の変化がこのところ顕著です。
 企業活動の国際化という視点からは望ましいことでしょう。しかし研究開発や教育投資なども含めた国内投資がて些かおろそかにされていると言いう問題もあるようです。
 
 こうした状況から、茶色の柱の第一次所得収支は快調です。このグラフで見ると、第一次所得収支のかなりの部分は、また海外へ投資されているようです。ですからさらに海外の工場や営業拠点が増え、それが第一次氏所得収支の黒字を増やすという形で、付加価値生産(GDP)が海外を中心に回っているという事になります。

 第一次所得収支を生んでいる「海外への「直接投資の残高」は、図2で、2000年あたりから急速に増え、最近の伸びは顕著という状態です、2018年、投資残高は1.6兆ドル(160兆円、1ドル=100円として)が、第一次所得収支の源泉です。

   図2 直截投資残高の推移(JETRO,単位:億円、暦年)


 こうした現象をどう読めばいいのでしょうか。経済成長の源泉は技術革新で、技術革新の源泉は教育投資と研究開発投資でしょう。こうした投資が、今、日本国内では停滞してしまっているのです。

 アメリカも第一次所得収支は常に黒字です。サービス収支も(日本はやっと黒字になったようですが)アメリカは常に大幅黒字です。アメリカの経常収支の万年赤字の原因は、国内需要が大きすぎるための貿易収支の赤字が原因です。

 日本は今内需不振で、その原因は、消費需要が伸びないことです。そしてその原因は、国民が将来不安から消費を節約、貯蓄に励んでいるからです。
 日本人には、今のアメリカのような借金してでも消費するといった態度は真似できないようですが、ずっとアメリカにくっついていくようですと、アメリカが日本の将来像になるのかもしれないなどと考えたりします。

リーマン・ショックと日本の国際競争力

2020年02月10日 22時29分41秒 | 経済
リーマン・ショックと日本の国際競争力
 今日、財務省から2019年12月の国際収支統計が発表になりました。それで、2019年(暦年)の数字がまとまったわけです。
、この機会に、リーマン・ショック以来の我が国の国際収支構造の変化の状況を見ておきたいと思います。

 このブログでは、繰り返し、リーマン・ショックが日本経済社会に与えた影響を見てきていますが、それを国際収支面から眺めてみようというのが狙いです。

 企業ならその競争力や収益性は、経常利益水準に最も素直に反映されると思いますが、一国経済の場合はそれに相当するのは矢張り「経常収支」だと思います。
 これは経済の実力で、経常収支が黒なら対外債権が増加し(ドイツや日本など)、赤字なら外国からの借金が増える(アメリカなど)ということになるわけです。

国際収支の構成要素の主なものは、貿易・サービス収支、それに第一次所得収支です。ここでは経常収支と第一次所得収支をグラフにしました。

経常収支と第一次所得収支の推移(財務省、単位:億円)


 第一次所得収支というのは、言葉としてはわかりにくいですが、企業でいえば、P/Lで営業収支の次に来る経常収支、利子・配当などの収支に当たります。

 グラフに見ますように、日本の近年は経常収支(青い柱)の大幅黒字国で、その規模は年間約20兆円、GDPの3~4%に達する大きさです。

 国際収支の基本は、トランプさんが気にするように貿易収支で、これにサービス収支を加除したもの、つまりモノとサービスの取引の収支が、企業なら営業収支に相当する部分で、それに、さらに第一次所得収支を加除したものが、経常収支になるとみていいでしょう。
 
 という眼でこのグラフで見てみますと、最近10年間で、日本経済がリーマン・ショックを受けた時期には、経常黒字が大きく落ち込んでいることが解ります。
 ということは、この時期は日本の貿易は輸出減、輸入増で赤字化し、(第一次所得収支は頑張りましたが)経常収支を大きく減らしているということです。

 その理由はといいますと最大の要因は円高です。リーマン・ショック前の2007年には120円弱だった円レートは2012年には70円を割り込んでします。これは、アメリカのゼロ金利政策でドル安に誘導したことの裏返しです。

日本も数年遅れてそれに倣い 円レートが120円に戻った2015年には経常収支はほぼ第一次所得収支に追いつき、その後は、両者はほぼ平行です。つまり、このところ、貿易。サービス収支は、プラス・マイナスを繰り返しで、輸出入は均衡状態であることを反映しています。(この数年の遅れが日本経済に大きな歪みを残しました)

 ここから解ることは、円レートが70円とか80円では日本輸出競争力は壊滅的で、海外からの観光客も来ない(日本は物価の高い国だから)といいうことでしょう。
 替為レートが$1=110~120円になって、初めて日本経済は国際競争を回復、観光客も増えて、国際競争の中で安定状態になるというのが現実ではないでしょうか。
 
 関連した問題はこのブログでは折に触れて取り上げていますが、今トランプさんの御意向はドル安(つまりは円高)ということのようです。

 為替は操作するものではなく、安定させるもの(出来るなら固定相場制)という考え方が、最も健全な国際経済関係のベースだと改めて考えることも大事なように思っています。 
 (「 為替レートとゴルフのハンディ」をご参照ください)