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第一次所得収支の著増と内需停滞の悪循環

2019年11月12日 16時59分56秒 | 経済
第一次所得収支の著増と内需停滞の悪循環
前回、経常収支黒字の太宗は第一次所得収支の増加が原因と指摘しましたが、まずその辺りをグラフにしてみました。

     経常収支と第一次所得収支の推移 (単位千億円)

           財務省「国際収支統計」

 経常収支の黒字は2002年からの「好況感なき上昇」いわゆる「いざなぎ超え」の期間に急増し、リーマンショックで急減、黒田日銀の異次元金融緩和・円安政策でまた急増というパターンです。

 一方、第一次所得収支(海外からの利子・配当収入など)は、「いざなぎ超え」期も増加しましたが、今回の景気回復期に至って著増という形です。

 背後にあるのは貿易収支で、「いざなぎ超え」期には貿易黒字は増加しましたが、最近はほぼ均衡で、黒字になったり赤字になったりといった状態です。
 という事は、経常黒字の原因は、貿易収支から第一次所得収支、つまり海外の企業(進出企業や買収企業など)からの利益配分に切り替わってきているのです。

 そしてその背後には、日本がGDPという形で稼いで、その結果国民所得として使える分、家計でいえば可処分所得に当たるものを 使い残して海外に貯金しているという日本人(法人も含む)の行動パターンがあるのです。

 つまり、厳しく長い不況を経験し、高齢化もあって将来に不安を持つ日本人が、その「アリ型」(キリギリス型の逆・勤倹貯蓄型)の性格を発揮してゼロ金利でも銀行に預金をします。異次元金融緩和で国内はお金が余っています。企業は安い金利で資金調達し、国内では需要が少ないので、賃金水準の低い海外に工場を作ったり、収益性の見込める海外企業を買収します。

 国民は貯蓄に励み、政府は異次元金融緩和で国内はカネ余りです。しかし企業の生産活動は、そうした金を利用して、どんどん海外に移転していきます。
 重要な生産活動は海外で行われ、企業の収入としては海外からの利子・配当が増えることになります。

 国内に投資すれば、そこでの生産はGDPを増やし、雇用を増やし、付加価値を生み、その付加価値は、国内の労使の間で分配され、賃金と利益になるのですが、そのプロセスは海外で行われ、日本の企業には、海外の投資先企業の利益の配分である利子・配当だけが入ることになります。

 国内で増える雇用は、介護、配送、警備、などの単純業務が多くなってしまうのもその結果でしょう。

 こうしたプロセスをたどった先輩はやはりアメリカでしょう。アメリカの第一次所得収支は黒字です。しかし、 GMの車もiPhoneも中国で作られていると過日書きましたように、貿易収支の赤字が第一次資本収支の黒字よりどんどん大きくなり、鉄鋼でも自動車でも、製造を担当する中堅労働者の雇用は消滅、今の姿になっているのでしょう。

 アメリカはまさに「前車の轍」を見せてくれているのでしょうか。日本人は根が真面目だから、そうはならないと私は思いたいのですが、「政策よろしきを得なければ」、そうなる可能性も無きにしも非ずです。

 株が上がっても庶民には関係ありません。上場企業は多少の減益ですが、まだ一般的には高水準です好業績に企業は沢山あります。
一方、大企業での人減らし、地方中小企業の倒産や廃業も少なくありません。

文科相から、ついつい身の丈発言も出てしまうように、和を尊ぶ日本社会でも、格差化が確実に進展しているのが現状ではないでしょうか。

1980年前後ですが、アメリカで、若者が、「我々は、親の代のような豊かな暮らしは出来ない」といっていた時期がありました。
私も、最近それを思い出して、今の日本はどうだろうかなどと考えてしまいます。

 企業が、真面目で勤勉な日本人を積極的に活用して、より生産性の高い優れた企業活動、・生産活動を目指すような産業社会にならなければ、日本も決して安心ではないのではないでしょうか。

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