今春闘では労働サイドの要求基準が単産レベル、単組レベルで昨年の水準より高めの所が多くなっています。
その背後には、昨年の賃上げ率が、33年ぶりの高さになったとっても、ボーナス月以外は実質賃金がプラスにならないといった現実があります。
それと同時に、このところ労働分配率が下がって来ていたという実態も指摘されている事もご承知の通りです。
今回は、このうちの労働分配率の問題について、経営、経済の議論の中で、労働分配率についての2つの視点について、些か本質的な問題として取り上げてみたいと思っています。
既に皆様ご存じと思いますが労働分配率とは、企業や国民経済が、その生産活動で生み出した「付加価値」の中から「労働の対価」として支払う、企業でいえば「総額人件費」、国民経済でいえば「雇用者報酬」が「何%」かという数字です。
労働分配率=人件費/付加価値×100(%表示)が一般的な計算式です。
国民経済レベルでは通常「雇用者報酬/GDP」という形で計算されることが多いようです。
ここでは国民経済レベルを中心に論争点を見ていきたいと思います。
労働分配率の分子になるのは「雇用者報酬」です。日本国内で雇用されて働く人(含経営者)に支払われる「人件費の総額」です。
分母は通常GDP(国内総生産)ですが、実はもう1つGNI(国民総所得)があります。GNIはGDPに第一次所得収支を加えたものです。(資料:GDP統計)
第一次所得収支は海外投資から得られた利子・配当収入(海外で発生した付加価値の資本帰属分の分配)です。日本企業の多くは国内が長期不況なので、海外に投資し、収益を確保してきた結果、これが年間20~30兆円といった大きな額になり国際経常収支のいわゆる万年黒字に貢献しています。
上の図は、GDPとGNIで労働分配率を計算したものです。GNIを分母にした場合(青線)は当然労働分配率は低くなります。
それだけではなく、ご覧頂きますと、この所、傾向的に第一次所得収支が増えて来て、2020年あたりから青線の低下が早く、その差が開きつつあります。つまり第一次所得収支分は労働に分配されにくいという事になりそうです。
第一次所得収支は、海外で発生した付加価値の分配ですから、人件費は海外の雇用者に支払われています。日本に入ってくるのは、海外で計上された利益の分配金(利子・配当)です。
さて、問題は、この分配金は資本に帰属(日本企業の利益)とするべきか、それとも、それも加えたGNI全体を、日本国内の労働への分配の対象(原資)にすべきか、という問題が、ここで出て来る事になるのです。
平たく言えば、海外投資の収益金は、企業の利益に加算されるべきものと考えるか、それも国内の雇用者への分配の対象に入れるべきと考えるかです。
経営サイドでは前者が正しいという意見が多いでしょうか。労働サイドでは、企業の、あるいは「国民の総所得」の一部として、改めて国内の労働分配の対象に入れるべきとの考え方が多いでしょうか。
お読みいただいた皆様方はどうお考えでしょうか。その点を次回考えてみたいと思います。