危険な現場で働く人にはヘルメットや命綱の装着が義務づけられている。

 長時間労働の歯止めも同じではないか。

 月80時間の残業が「過労死」の危険ラインとされる。昨年度の労災認定の状況をみると、脳や心臓の病気で亡くなった123人のうち9割、うつ病など精神疾患による自殺や自殺未遂の93人のうち6割が、このライン以上、働いていた。

 こうした悲劇を防ごうと、「基本法」を制定する動きが国会で大詰めを迎えている。

 今年6月に発足した超党派の議員連盟には120人余りが参加する。遺族らが集めた約52万の署名を追い風に、ぜひ今国会で成立させて欲しい。

 この法案は「過労死はあってはならない」という理念のもと、国や自治体、使用者の責任の明確化を求める。

 強制力はないが、より正確な実態把握などをテコに、労働基準法の労働時間規制に「魂を入れ直す」出発点となろう。

 言うまでもなく、労働基準法では1日8時間、週40時間の労働が原則だ。

 ところが、30歳代の男性は2割近くが週に20時間以上、残業する。危険ラインである。

 こうなるのは、労使で協定を結べば、ほぼ無制限の長時間労働が可能になるからだ。割り増しの残業代の支払いが義務づけられることが、歯止めになっているに過ぎない。

 一方、安倍政権では、規制改革や競争力強化のため、この歯止めを緩め、時間に関係なく賃金を払う裁量労働制などを広げる検討が進む。

 であればなおさら、残業代の問題とは別に、命と健康を守るため、労働時間に物理的な上限を設けるべきだろう。

 欧州連合(EU)では、勤務の終了から翌日の勤務開始まで最低連続11時間の休息を義務づけている。参考になる。

 日本での大きな課題は、働く側にも「片付けるべき仕事があるのだから、労働時間に規制をかけて欲しくない」という意識が強いことである。

 仕事の目標が実労働時間とは無関係に決まることが多く、その達成度で評価されるからだ。責任感が強く、能力のある人ほど仕事が集中しやすい。

 労働時間を含めた仕事の量を労使が調整する。そんな現場の工夫が必要だ。

 労働者をひたすら長時間働かせるブラック企業は、社会を沈没させる。それを許さない仕組みを考えたい。

 きょうは、勤労感謝の日。