人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

「スーパー・コーラス・トーキョー」でモーツアルト「レクィエム」を聴く~ヴィンシャーマン指揮都響

2011年10月11日 06時30分21秒 | 日記

11日(火).昨日,初台の新国立劇場で「スーパー・コーラス・トーキョー」特別公演を聴いてきました「スーパー・コーラス・トーキョー」は合唱界の巨匠ロベルト・ガッビアーニを指導者に迎え,オーディションで選んだ精鋭と,東京のプロの合唱団の選り抜きのメンバーを揃えて結成した合唱団です.今回の公演は東京都が主催者となり,東京文化発信プロジェクトの一環として実施されるものです

新国立劇場には10年以上オペラに通っていますが,舞台の上でのオーケストラを聴くのは初めてです.開演30分前に会場に着くと,すでに長蛇の列.オペラのときは開演45分前から開場しているのでこんなことはないのですが.見たところ客層がオペラ公演と大分違います コーラス団員の家族・親戚・友人・知人などの関係者と一般客といった感じですが,会場は満席です 自席は2階1列9番で一見良さそうな席に思えます.2階の1番前はいいのですが,通路から入って真ん中の席なのです.「前を失礼します」といちいち断って自席に着かなければならないのは本当にイヤなのです.通路側が取れなかったので仕方ないのですが

指揮は1920年生まれの92歳,バッハ・宗教曲の大家ヘルムート・ヴィンシャーマン,オーケストラは東京都交響楽団です.プログラムにヴィンシャーマンのメッセージが載せられています.

「今年3月の大惨事と,その後もまだ収束のつかない福島の原発事故のため,長年積み重ねてきた苦労,幸せな家族との暮らしを奪われた被害者の方々のためにこのコンサートを捧げたいと思います」

そしてこの日のために選ばれたプログラムは①モーツアルト「レクイエム ニ短調K626〈レヴィン版〉」,②ブルックナー「テ・デウム ハ長調」の2曲です.ソリストは①が澤畑恵美(ソプラノ),加納悦子(メゾ・ソプラノ),福井敬(テノール),牧野正人(バリトン),②が高橋薫子(ソプラノ),坂本朱(メゾ・ソプラノ),中鉢聡(テノール),河野克典(バリトン)といった錚々たるメンバーです.1回のコンサートでソリストを全員入れ替えるとは相当贅沢なイベントですね

オーケストラは向かって左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ,その後ろにコントラバス.左サイドにファゴット,バゼット・ホルン,右サイドにトロンボーン,トランペット,ティンパニ,オルガンという配置.コーラスは左サイドに44名の女性,右サイドに36名の男性が陣取ります

オケとコーラスがスタンバイしてヴィンシャーマンが登場します.彼は背が高く1メートル80,あるいは90ぐらいはありそうな感じです.92歳とは思えない足取りで指揮台に立ち会場の拍手に応えます.指揮棒なし,両手によってモーツアルトの「レクイエム」が始まります.

今回は〈レヴィン版〉を採用して演奏するということです.モーツアルトの「レクイエム」は第1曲「レクイエム」,第2曲「キリエ」,第3曲「セクエンツィア」,第4曲「オッフェルトリウム」,第5曲「サンクトゥス」,第6曲「アニュス・ディ」,第7曲「コンム二オ」からなりますが,モーツアルトは第3曲の6番目「ラクリモーサ」の途中で作曲を断念しました.その後は弟子のジュスマイヤーが補完して完成したと言われています

ロバート・レヴィンは「ラクリモーサ」の後に,モーツアルトが1791年(死の年)に書いたフーガのスケッチが当てはまるという確証を得て,”アーメン・ホザンナ”を付け加えました.その新しい版によって演奏されるのです

ヴィンシャーマンの指揮は,とても92歳とは思えない明確でシャキットしたもので,オーケストラもソリストも合唱も,指揮者を信頼して演奏あるいは歌っていることが良くわかりました.結局,50分以上立ちっぱなしで指揮していたことになります.凄い

「ラクリモーサ」の後の補完部分は,いつも聴きなれているCDなどとは違うので,ちょっと戸惑いはありましたが,聞き続けるにしたがって違和感を感じることがなくなりました.〈レヴィン版)はそれなりに説得力があると思いました

「レクイエム」終演後,ソリストを迎えて握手,その後,女性コーラスのところに行って,1列目に割り込んで両脇の女性の手を取って上に持ち上げました すると,今度は舞台の前にやってきて,会場の一列目に座っている女性に声をかけて”握手をしよう”というのです.年配の女性は戸惑っているようでしたが,握手に応じてヴィンシャーマンとともに会場の拍手を受けていました.こうした一連の行動は,彼の被災国日本への連帯のメッセージと受け止めました

休憩後のオーケストラは,弦楽器は変わりませんが,管楽器にクラリネット,ホルン,チューバなどが加わりブルックナーの演奏に備えています.コーラスは,前2列が女性,後2列が男性という配置です.モーツアルトの時に左右に分けたのと違う配置です.これはヴィンシャーマンの指示によるものでしょうが,どういう意図があるのか素人にはわかりません

ブルックナーの「テ・デウム」(神であるあなたを,の意味)を生で聴くのは初めてです.というよりも,正直に言うと,予習のためにCDを探してみたのですが,1枚も見当たらないのです.それほど長い曲ではないので,他の宗教曲とカップリングされているのだと思いますが,誰のどの曲とのカップリングか検討もつきません.したがって,いきなり本番で「テ・デウム」を聴くことになりました

最初の第1曲「私たちは神であるあなたを褒め称えて」の冒頭を聴いてショックを受けました「これがブルックナーの”テ・デウム”か!」と圧倒されました.ブルックナーは神に音楽を捧げるために作曲したのだと思います.パイプオルガンの豊穣な響きが聴こえてくるようです.ソリストもコーラスも凄い迫力で歌います

終演後は,とブラボーの中,ヴィンシャーマンはコンマスの矢部達哉と握手したかと思ったら,そのまま矢部を指揮台の上に引き上げてしまいました.矢部は戸惑いながらヴィンシャーマンとともに会場に会釈をしていましたが,すぐにコンマス席に戻りました.居心地が悪かったのでしょう.次に,ソリストと握手,また,女性コーラスの真ん中に行って手をつないで持ち上げました そして,会場に向かって握手を求め,今度は2人が応じました.彼は手を振って舞台袖に引き上げていきましたが,こちらは最初から最後まで圧倒されっぱなしでした.ヴィンシャーマンはバッハの権威で通っていますが,今回のコンサートでモーツアルト,ブルックナーの権威でもあることを証明しました

 

     

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