9日(月)。わが家に来てから135日目を迎えた控えめなモコタロです
ご主人さま 久々にゲージュツ狙ってない?
閑話休題
昨日、新宿ピカデリーでMETライブビューイング、ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を観ました これは昨年12月13日、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演された公演のライブ録画映像です
キャストはハンス・ザックス=ミヒャエル・フォレ(バリトン)、ヴァルター=ヨハン・ボータ(テノール)、エヴァ=アネッテ・ダッシュ(ソプラノ)、ベックメッサー=ヨハネス・マルティン・ワレンツレ(バリトン)、ダフィト=ポール・アップルビー(テノール)、マグダレーネ=カレン・カーギル(メゾソプラノ)、ポークナー=ハンス=ペーター・ケーニヒ(バス)、コートナー=マルティン・ガントナー(バリトン)ほか
演奏はジェイムズ・レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団、演出はオットー・シェンクです
「マイスタージンガ-」というのは中世のドイツで優れた詩人兼音楽家に与えられたマイスターの称号です マイスターとは「親方」、ジンガ-とは「歌手」を意味します。15世紀から16世紀にかけて、南ドイツの諸都市で手工業者の組合を中心に、親方や職人や徒弟たちが教会などに集い、詩作と歌の腕を競い合ったのでした
ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は、そうした背景のもと、若き騎士ヴァルターがニュルンベルクにやってきて、歌合戦に挑戦して金細工師の娘エファを獲得するまでを描いたものです
この作品の主役は靴屋の親方ハンス・ザックスですが、宗教改革に身を投じた同名の実在人物をモデルにしています
この楽劇はMET音楽監督ジェイムス・レヴァイン自らがタクトを振ります 彼は足が不自由なので指揮台は車椅子使用の特注品です。途中で2回の休憩があるとはいえ、椅子に座ったまま6時間近く指揮をするのですから健常者でさえ大変です
レヴァインはこの作品が大好きだと言うことですが、ただ好きなだけでは最後まで振り続けられないでしょう。この公演に懸ける彼の意気込みが伝わってきます
さて物語は
「ある日、ニュルンベルクに騎士ヴァルターがやってきて金細工師ポークナーの娘エファに一目ぼれする 翌日催される歌合戦の勝者をエファが花婿に迎えることを知ったヴァルターは出場資格試験を受けることになる。しかし、『記録係』を務めた市の書記官ベックメッサーは失格の結論を出す。実は彼もエファを狙っていた
靴屋の親方ザックスだけがヴァルターの歌を『懐かしくも新しい響き』として受け入れる
ザックスはエファに思いを寄せつつも彼女のためにヴァルターを支援することを決心する
歌合戦の時、ベックメッサーはザックスの仕掛けた巧妙な罠にひっかかり、急ごしらえの準備で歌合戦に挑み、大失態を犯す
一方、ヴァルターは見事にエファを想う気持ちを歌に託して歌い上げエファを獲得する
勝者にはマイスターの称号も与えられることになっていたが、誇り高いヴァルターは拒否する。これに対し、ザックスは『マイスターを甘く見るな。神聖なるドイツ芸術を讃えよ
』と説いてヴァルターを納得させる
」
この作品の主役、靴屋の親方ハンス・ザックスを歌ったミヒャエル・フォレは1960年ドイツ生まれのバリトンですが、ワーグナーを歌うのに相応しい力強さを備えており、演技も素晴らしい人です 騎士のヴァルターを歌ったヨハン・ボータは南アフリカ出身でオーストリア国籍の歌手ですが、まさに”輝くテノール”です
上の写真のように恵まれた体格から発する高音はまったくムリがありません。ビロードのような歌声です
エファを歌ったアネッテ・ダッシュは1976年ベルリン生まれのソプラノですが、美しい歌声とともに、初々しい乙女エファを見事に演じていました ザックスの弟子ダフィトを歌ったテノールのポール・アップルビー、その恋人マグダレーネを歌ったメゾ・ソプラノのカレン・カーギルは、ともにまだ若い歌手ですが、将来を嘱望される逸材でしょう
さて、この楽劇はワーグナーの歌劇・楽劇の中で異彩を放っています。他の作品は悲劇、少なくともシリアスな内容ですが、この「マイスタージンガー」はワーグナー唯一の喜劇です
それを歌と演技で見事に成し遂げていたのがベックメッサーを歌ったヨハネス・マルティン・クレンツレです 1962年ドイツ生まれのバリトンです。この人はどこかで見たことがあると思ったら、2009年1月に新国立オペラ、ヨハン・シュトラウスのオペレッタ「こうもり」でアイゼンシュタインを歌った歌手です
あの時も素晴らしい歌と演技でしたが、この人は悲劇よりも喜劇の方があるいは向いているのかもしれません
演出面では優れたところが多々ありましたが、最後にエファがザックスの頭にオリーブの王冠を被せるシーンは熱くなりました
舞台は美術のギュンター・シュナイダー=ジームセンによるものですが、その写実的な舞台は素晴らしく、”見もの”です フランコ・ゼッフィエルリの「ラ・ボエーム」に匹敵するほどのレベルの高さです
幕間に歌手や舞台の裏方へのインタビューがありますが、「今回の上演に当たって何人の人が働いているのでしょうか?」というMETのディーヴァ、ルネ・フレミングのインタビューに、MET制作統括のJ・セラーズは「大道具、小道具、照明等を含めて約100人です。実はこの後、夜の部で『ラ・ボエーム』があるのでそちらの準備もあるのです」と答えていました。それは大変でしょう 1日のうちに「ニュルンベルク」と「ラ・ボエーム」を上演するのですから裏方さんのご苦労は計り知れません
2回の休憩、歌手等へのインタビューを含めて上映時間は5時間34分 勇気のある人は挑戦してみてはいかがでしょうか