5日(月).わが家に来てから708日目を迎え,久々にでかい顔を見せるモコタロです
いつも言ってるけど でかい顔じゃなくて カメラが近すぎるの!
閑話休題
昨日,上野の東京文化会館小ホールで「東京文化会館オペラBOX~モーツアルトの歌劇『魔笛』」を観ました これは上野中央通り商店会が主催して毎年開いているオペラ公演です.出演者は,東京文化会館主催の『東京音楽コンクール』で優秀な成績を収めた若手演奏家が中心です また,この公演では「オペラをつくろう!」という企画をやっていて,オペラの登場人物(童子)になる,合唱に加わる,舞台の工作物を作る,演出・美術・衣装・照明を学ぶなど,広く応募者を募って公演に参加させています
自席はQ列7番,会場左サイドの最後列です.会場は9割以上埋まっている感じです 出演者の家族などが少なくないと思われます.舞台は極めてシンプルです.背景はいつもの小ホールそのままで,左サイドにピアノ,キーボード,弦楽四重奏がスタンバイします 弦楽四重奏は第12回東京音楽コンクール第1位の坪井夏美のヴァイオリンをはじめ,第4回横浜国際音楽コンクール第1位の上野明子(Vn),第9回東京音楽コンクール第3位の鈴村大樹(Va),第8回同コンクール第2位の加藤文枝から成ります ピアノは高橋裕子,キーボードは大町彩乃,指揮は須藤桂司,演出は恵川智美です
歌手陣はタミーノに日本トスティ歌曲コンクール2015で第3位入賞の黄木透,パミーナに藤原歌劇団を代表するソプラノ砂川涼子,夜の女王に第11回東京音楽コンクール第3位の中江早希,パパゲーノに第5回東京音楽コンクール入選の瀧進一郎,パパゲーナに第7回東京音楽コンクール第2位の鷲尾麻衣,ザラストロに岸本大,モノスタトスに岸浪愛学ほかです
最初にフリーアナウンサーの朝岡聡が登場し,オペラとはどんなものか,魔笛はどんなオペラか,といった「オペラ入門編」を解説しました 随分長い時間 話したな,と思って時計を見ると,たったの5分しか経っていませんでした.プロは凄いと思いました
指揮者・須藤桂司が登場し,小編成オケを指揮して序曲の演奏に入ります オーケストラにおける管楽器(フルートなど)の演奏はキーボードで代用します.このオペラでは幕開きにタミーノが登場し,大蛇に襲われますが,3人の侍女が出てきて退治します 3人の侍女は髪をカラーに染め,ギンギラのサングラスをかけ,自動小銃を構えて登場するのでビックリします もっとビックリしたのは3人のはずの童子が5人出てきたことです 「これは事実誤認か?あるいは事実5人か?」と,よく見ていると,このうち3人が歌手で,後の2人はオーディションで選ばれた女子でした
パパゲーノが愉快な歌を歌うと鳥たちが気持ちよさそうに空を舞うわけですが,ここでは,子供たちが手作りの鳥を操っていました おそらく事前のワークショップで作ったのだと思います.この公演が「参加型」であることが分かります 歌手陣のアリアやセリフを聴いていると,基本的にアリアがドイツ語でセリフが日本語です 演出上これが日本人に分かり易いとして採用されたやり方だと思います 逆説的に言うと,日本語によるドイツ語オペラは非常に聴き取りにくいのですが,今回の公演は比較的分かり易かったと思います
演出は恵川智美ですが,この人は2006年に新国立劇場で上演された瀬戸内寂聴原作のオペラ「愛怨」を演出した人です 10年前,あのオペラの初日公演を観ましたが,素晴らしい演出でした 自席の2つ前の席に原作者・瀬戸内寂聴さんが座っておられたことを思い出します 恵川智美は今回の公演では,演出のほか台本翻訳と日本語訳詞も手掛けていますが,パパゲーノが気絶から覚めたときの字幕が「ここは誰?わたしはどこ?」と逆になっていたり,3人の侍女がパパゲーノに声を掛けるときの字幕が「パパちゃん,教えて!」になっていたり,細かいところに遊び心が溢れていました
演出上では,舞台右サイドに設置したトタン屋根を立てかけたような大道具を揺らして稲妻 の音を出すという工夫がなされ,また,タミーノとパミーナが手を携えて火の試練,水の試練を潜り抜けるシーンでは,赤と青の照明を有効に使っていました
歌手陣の中ではタミーノを歌った黄木透とパミーナを歌った砂川涼子が文句の付けようのない素晴らしい歌を披露してくれました また,パパゲーナを歌った鷲尾麻衣は歌に深みと伸びがあり,声がよく通りました そして,今回予想以上に良かったのは夜の女王を歌った中江早希の超絶技巧コロラチューラ・ソプラノです 「夜の女王のアリア」は2つありますが,2回とも 迫力ある演技力と相まって素晴らしい歌唱でした また3人の侍女のアンサンブルも良かったです
「魔笛」はモーツアルト最後の歌劇で,生涯最後の年=1791年に作曲されました.この作品の台本作者シカネーダーとモーツアルトは旧知で,彼の依頼によって作曲されました 映画「アマデウス」をご覧になった方は分かると思いますが,この曲の初演は,モーツアルト自身が指揮をとり,シカネーダーがパパゲーノに扮し,モーツアルトの義妹(妻コンスタンツェの妹のヨゼファ・ホーファー)が夜の女王を歌いました 映画で観る「魔笛」は,大衆受けする演出で聴衆が楽しそうでした 今回のシンプルで手作り感溢れる公演を観ていて思ったのは,案外「魔笛」の初演の時もこんな風だったのかも知れないな,ということです
豪華な舞台装置もありません オーケストラ・ピットに入るような立派なプロのオーケストラが用意されている訳ではありません 日本中どこに行っても名の知れた歌手ばかりを揃えている訳でもありません しかし,この公演は,モーツアルトの作曲当時の原点に帰るような,シンプルで手作り感に満ちた魅力に溢れています 入場料も全席指定で3,000円と良心的です.演出・舞台作りが素晴らしければ,豪華な舞台装置も,フル・オーケストラも,超一流の歌手陣もいらないのです モーツアルトの音楽の力が素晴らしいパフォーマンスを約束してくれるのです 今回の公演はそのことを教えてくれました.演出家の恵川智美さんをはじめ,歌手・合唱の皆さん,演奏家の皆さん,舞台の表と裏でオペラを支えてくれた皆さんに大きな拍手とブラボーを送ります