人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ユベール・スダーン+東響でベルリオーズ「劇的物語『ファウストの劫罰』」を聴く

2016年09月25日 08時15分43秒 | 日記

25日(日).わが家に来てから今日で727日目を迎え,久しぶりに”わが家”に不法侵入した不審者を問い詰めるモコタロです

 

          

             この辺でレアなポケモンが出ると聞いたって? それは ぼく モコタロンだよ

 

  閑話休題  

 

昨夕,サントリーホールで東京交響楽団 第644回定期演奏会を聴きました プログラムはベルリオーズの劇的物語「ファウストの劫罰」です ソリストは,ファウストにマイケル・スパイアーズ(テノール),メフィストフェレスにミハイル・ぺトレンコ(バス),マルグリートにソフィー・コッシュ(メゾ・ソプラノ),ブランデルに北川辰彦(バス・バリトン),混声合唱は東響コーラス,児童合唱は東京少年少女合唱隊,指揮は東響桂冠指揮者ユベール・スダーンです

 

          

 

私が「ファウストの劫罰」を聴くのは,1999年9月3日(金)にサイトウ・キネン・フェスティバル松本の公演以来17年ぶりです 元の職場(社団法人)に小澤征爾フリークのA君がいて「一緒に行きませんか?」と誘われたのです.彼の車で東京から松本まで日帰りコンサート旅行を決行したのでした.往復を運転してオペラもしっかり観たA君は大変だったと思います

その時の公演は,ファウストにジョルダーノ・サバティー二,メフィストフェレスにジョセ・ヴァン・ダム,マルグリートにスーザン・グラハムといった当時 世界の第一線で活躍する歌手陣を配し,小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ,ロベール・ルパージュの演出によってオペラ形式で上演されました オーケストラ・ピットに入った精鋭による演奏もさることながら,特に印象に残っているのはロベール・ルパージュによる斬新な演出です 舞台上空から垂れ下がったロープに何人もの人がぶら下がり,まるでシルク・ドゥ・ソレイユのようなパフォーマンスを見せていました ルパージュは最近の米メトロポリタン歌劇場で上演されたワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」で,時代の最先端を行く斬新な演出を施し,世界中のオペラ界に話題を巻き起こしました

もう一つ印象に残っているのは,最後のマルグリ―トの昇天の場面で,マルグリートを演じるスーザン・グラハムが舞台中央に設置された上空に伸びる長いハシゴを登っていくシーンです 足を踏み外さないかと,ハラハラドキドキしながら見守っていたのを思い出します

今回の公演に先立って「事前に予習を!」と思い,まさか持っていないだろうとダメ元で探してみたら,ありました 「ファウストの劫罰」のCDです ファウストにニコライ・ゲッダ,マルグリートにリタ・ゴール,メフィストフェレスにジェラール・スゼーという歌手陣,アンドレ・クリュイタンス指揮パリ国立歌劇場管弦楽団&合唱団によるハイライト版です ハイライト版とは言え,これを少なくとも8回は聴いたので大体の物語と音楽の流れは頭に入りました

 

          

 

ゲーテの劇詩「ファウスト」に基づく劇的物語「ファウストの劫罰」は1846年に書き上げられました 彼の代表的な作品「幻想交響曲」,「イタリアのハロルド」「ロメオとジュリエット」などは国内よりも国外での評価が高かったため,ベルリオーズは自作を指揮しながらヨーロッパ中を放浪していましたが,その時期にこの曲が着手されたのでした.彼は「回想録」の中で次のように振り返っています

「私は他の自作品ではめったに経験したことのないような容易さでこの曲を作曲した 私はあらゆる時,あらゆる場所でそれを書いた.馬車の中で,汽車や汽船の中で,それから街の中でさえも

こうして夢中で作曲した作品は1846年12月6日,パリのオペラ・コミークで初演されましたが,上演は惨憺たる結果に終わり,結局1万フランの借金が残っただけでした この曲の真価が認められたのは彼の死後8年目の1877年2月に行われたコンサートでした

 

          

 

満席近い会場です.P席に東京コーラスの面々が配置に着きます.左サイドに女声陣が,右サイドに男声陣がスタンバイしますが,女声対男声の比率はほぼ3対2で,総勢約150人です 次いでオーケストラのメンバーが入場し配置に着きます.左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ,その後ろにコントラバスというシフトを取ります 東響がこのシフトをとるのは珍しいことで,恐らくスダーンだけではないかと思います コンマスは水谷晃です.そして,メフィストフェレス役のぺトレンコ,ファウスト役のスパイアーズ,ブランデル役の北川が入場しオケの後方にスタンバイします 驚いたのは,スパイアーズだけが譜面台がありません あらためてプログラムに掲載されたプロフィールを見ると,ファウスト役はベルギー,ブラジル,フランス,ポーランド,アメリカ等で何度も歌っているとのことで,楽譜など見る必要がない”当たり役”ということでした

スダーンが指揮台に上がりますが,脚か腰が辛いのでしょう.椅子に座って指揮をとります 

「ファウストの劫罰」は4部構成ですが,第1部はゲーテの原作にはないハンガリーの平原が舞台になっています これは,フランス国内で認められなかったベルリオーズが国外に演奏旅行に出たときに,ハンガリーの国民歌「ラコッツィ行進曲」に出合い,これを管弦楽に編曲したものを,この劇的物語に無理やりはめ込んだのです

2階のパイプオルガンの左右の壁に日本語の字幕スーパーが映し出され,歌の理解を助けます

第1部では冒頭,ファウストのアリア「春になって」が歌われますが,アメリカ・ミズーリ州出身のテノール,マイケル・スパイアーズの伸びのある美しい歌を聴いた途端,この日の公演の成功を確信しました 第1部の終盤はラコッツィ行進曲です.17年前のサイトウ・キネンで聴いた時は,オケがオーケストラ・ピットに入っていたことから,イマイチ迫力がありませんでしたが,スダーンのメリハリのある指揮による大管弦楽で聴くそれは大迫力で迫ってきました

第2部では,メフィストフェレスによる「のみの歌」が歌われますが,世界的に活躍するぺトレンコは身振りを交えながらユーモアたっぷりに「身分の高い蚤」の歌を歌い上げました

第2部が終わったところで20分の休憩に入りました ここで東響のプログラム冊子について一言

東響のプログラムでは,その日の演奏曲目が順番に掲げられているだけで,どこで休憩が入るのかが明示されていません 特に今回のように1曲のみで2時間20分近くかかる曲の時は,途中で休憩が入るのか入らないのかでトイレ対策も違ってきます 私が定期会員になっている読売日響にしても,新日本フィルにしても休憩が入る場合はプログラムにその旨明示されています 東響事務当局に改善を要望します

 

          

 

ここで,ぺトレンコ,スパイアーズと共にマルグリートを歌うメゾ・ソプラノのソフィー・コッシュが登場し配置に着きます

第3部ではマルグリートがバラード「トゥーレの王様」を歌いますが,ヴィオラ首席の青木篤子が抒情的な演奏でマルグリートのアリアを導き入れます フランス出身で今年3月からオーストリア宮廷歌手の称号を得たソフィー・コッシュの歌うバラードはエキゾチックな世界を彷彿とさせます

第4部では冒頭,マルグリートが熱烈なロマンス「燃ゆる恋の想いに」を歌いますが,抒情的なイングリッシュホルンの調べに乗せて歌われるコッシュの歌うロマンスは,バラード「トゥーレの王様」よりも感情移入が激しく,マルグリートその人に成り切って歌い上げました

最後のエピローグ(地上にて,天国にて,マルグリートの神化)では,女声合唱に被せて児童合唱の無垢な歌声が会場に響き渡りました

スダーンがタクトを降ろすと,一瞬のしじまの後,大きな拍手とブラボーがステージに押し寄せました 何度もカーテンコールがありましたが,今回は,オペラのようにソリストが一人一人舞台中央に出てきて拍手を受けるスタイルが取られました 中でもファウストを歌ったスパイアーズには ひと際大きな拍手が寄せられました もちろん最後は全員でカーテンコールです

休憩時間を含めて2時間半を超えるロング・コンサートでしたが,個人的には かつて東響を13年間率いてきたスダーンの統率力はまったく衰えていないと感じたコンサートでした

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