スパイ ゾルゲ事件80年目の真実

2024年12月01日 09時33分48秒 | 事件・事故

名越 健郎 (著)

処刑から80周年――機密解除資料が明かす「史上最高のスパイ」の闇

戦前の東京で暗躍した旧ソ連の大物スパイ、リヒャルト・ゾルゲ(1895~1944)の処刑から2024年11月で80年となる。近年、ロシアではゾルゲの再評価が進み、未公開資料も続々と表に出てきている。
本書は近代ロシア研究の第一人者である名越健郎氏がそうした機密解除資料をもとに、ゾルゲのスパイとしての活躍を臨場感たっぷりに描き出した作品である。
オートバイを駆って上海や東京の街を疾走し、夜の社交界で巧みな話術で権力者たちに食い込み、ドイツ大使夫人、シーメンス社支店長夫人、ルフトハンザ航空幹部の夫人、VIPの女性秘書、アグネス・スメドレーほか手当たり次第に女性と不倫関係になり(なおかつ女性たちを情報源とし)、本国で進むスターリン粛清に脅える――そうしたゾルゲの日常が生々しく甦り、まるでスパイ映画のようである。

ドイツ紙特派員を隠れ蓑に日本社会上層部に食い込んだゾルゲは、日本の国家機密および同盟国のドイツからもたらされた外交機密をことごとくキャッチし、モスクワに伝達した。
おもなものだけでも、日独防共協定、ドイツ軍のソ連侵攻計画、ノモンハン事件の詳細、御前会議での日本軍の南進政策決定、大本営の設置など、超ド級の機密情報が筒抜けになっていた。

さらに、日本が対ソ開戦を回避するように各方面から働きかけていた。
ゾルゲの情報工作のおかげで、ソ連はヒトラーのドイツとの戦いにリソースを集中することができた。

結果として、第二次大戦の帰趨にゾルゲは決定的な影響を与えたと言われている。
だが、それほど大きな仕事を成し遂げたにもかかわらず、いまだにゾルゲの活動の全容は謎に包まれている。

ゾルゲがソ連に送信した暗号電報・書簡、コミンテルンからの指示などは、その多くが機密指定されていたからだ。
しかも当時のソ連は独裁者スターリンによる粛清が猛威を振るっていた。

猜疑心のかたまりのようなスターリンは、ゾルゲの上官らを次々に処刑し、ゾルゲにまで疑いの目を向けていた。

ゾルゲに名誉回復がなされたのはスターリンの死後、フルシチョフ時代になってからだった。
ところが今、ゾルゲを英雄として顕彰する動きがロシアで高まっている。

背景には、KGB出身のプーチン大統領の意向がある。プーチンは「高校生の頃、ゾルゲのようなスパイになりたかった」とテレビ番組で告白。

その言葉を受けてか、ロシア各地にゾルゲ像が乱立し、50都市に「ゾルゲ通り」があるほか、「ゾルゲ・アパート」「ゾルゲ公園」なども各地にできている。同時に、ゾルゲに関する未公開資料の機密解除がなされたのだ。
日本で知られていない情報が盛りだくさん。
2025年は「昭和100年」という節目の年でもあるが、あらためて昭和の闇を照らす作品である。

出版社より

ゾルゲ事件80年目の真実
ゾルゲ事件80年目の真実
ゾルゲ事件80年目の真実
 

ドイツの父、ロシア人の母との間で生まれたゾルゲがスパイになった経緯が記されている。

来日前の上海での活動が興味深い。

朝日新聞記者で近衛文麿のブレーンともなった尾崎秀美ら日本人の協力をゾルゲは得る。

ナチスのソ連侵攻を警告し、日本軍の南進の見通しなど重要な情報をソ連に送った。

摘発に至った詳細な捜査資料は見つかっていない。

発見が期待される。

ゾルゲの評価の変遷は、ソ連・ロシアの政治体制を映す鏡とも言える。

 

 

 

 

  • 出版社 ‏ : ‎ 文藝春秋 (2024/11/20)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2024/11/20
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • 新書 ‏ : ‎ 272ページ
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4166614770
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4166614776
  • 寸法 ‏ : ‎ 11 x 1.4 x 17.3 cm

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