地下鉄サリン事件被害者の後遺症状について
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- 石松 伸一
- 聖路加国際病院 救急部・救命救急センター
書誌事項
- タイトル別名
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- Sequelae of victims from Tokyo Subway Sarin Attack
説明
【はじめに】1995年3月20日朝、発生した地下鉄サリン事件では死者13名、傷病者6000名を超えるテロ事件であった。
当院では当日だけで640名、その後1週間で1200名以上の傷病者が来院した。初期に見られた中毒症状も次第に軽減し、消失するものと思われたが、1年以上を経過しても症状の残存する事例を多数経験したので、継続的に症状の追跡調査を開始した。
【方法】事件後5年間は、当院を初診した被害者にアンケート用紙を郵送して記入後返信してもらった。6年以降は同様に被害者のケアを行なっていたNPO法人リカバリーサポートセンター(RSC)とともに調査を行ない、希望者には検診を実施した。症状アンケートは事件後、被害者の訴えの多かった33種類の症状について重症度を1〜5までのリカートスケールを用いた。
なお重症度の3〜5と回答したものを「症状あり」とした。
【結果】後遺症と認定されている眼症状、PTSDをはじめとする精神症状以外での身体症状では、「体がだるい」1年後7.3%、5年後16.0%、10年後43.4%、「体が疲れやすい」は1年後11.9%、5年後23.1%、10年後56.3%、「頭痛」は1年後8.6%、5年後12.5%、10年後44.7%、「下痢をしやすい」は1年後1.0%、5年後11.9%、10年後18.6%。
なお、アンケート調査開始時には項目になかった症状のうち「手足のしびれ」は13年後の時点で49.8%と実に半数近くが症状を訴えていた。
また受傷時未成年であった被害者への小児科による追跡調査では身体症状は遅発的に発生しており、精神健康度、不安尺度ともに正常域であった。
【考察】多くの身体症状で経年的に訴える頻度が増加していたことは、年齢の変化以外にアンケート回答者の特異性などの因子も関連していると思われるが、有機リン系毒物の遅発的障害に関しても否定できない。
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