映画 ボルベール(帰郷)

2024年07月29日 12時27分15秒 | 社会・文化・政治・経済

 

母の人生を見ることで味わえる、人生の豊かさと濃密な時間

7月29日午前3時45分から観たが、父親に犯されて娘を生んだ過去の事実が重すぎる。

さらに、自分の娘も夫に犯されそうようになり、身を守るために娘は義父を包丁で殺害するのだ。ボルベール 帰郷 ポスター画像

では、その後、死体の処理は?

いきなり、死んだ男たちの墓掃除をする女たちの姿から始まるので、ちょっと驚く。

こんな大勢で墓掃除をするとは一体何事かと思う。

とにかくこの映画に映されるのは、ほとんどが女たちである。

数少ない男たちも町を出て行ったり、殺されたりと、世界は女たちによって堂々と動かされていくのである。

だがもちろん、それだけではちょっと寂しいし、私たちだっていずれ死ぬことになるだろうと、彼女たちも思い悩んでいて、いやほんとに年老いていくのは辛いなあと、この映画を見る誰もがそう思うだろう。

そして誰もがそう思い始めたころ、主人公たちの死んだはずの母親が、登場する。

彼女は幽霊なのか、現実なのか? と、いきなりサスペンス映画のような展開。

しかもその謎解きが、この映画にとって大きな問題ではないことが判明していくからさらに戸惑うかもしれない。

しかしそれでいいのだと、この映画は語る。

その謎解きの過程で、主人公たちが母の人生を見る=体験することこそが重要なのだと。

母の歴史が主人公たちの人生に重なると言ったらいいか。つまり、たったひとりで生きていくだけだったはずの自分自身の実人生が、死んだはず母親の存在によって厚みを増していく、その豊かさと濃密な時間。それを彼らは味わうのである。

もちろんその物語を見る私たちも。それこそ至福の時。私たちが映画を見ることの意味は、それ以外にあるだろうか。

樋口泰人

出演者

ペネロペ・クルスライムンダ

カルメン・マウライレーネ

ロラ・ドゥエニャスソーレ

ブランカ・ポルティージョアグスティーナ

ヨアンナ・コボパウラ

チュス・ランプレアベパウラ伯母さん

アントニオ・デ・ラ・トレパコ

レアンドロ・リヴェラ

ヨランダ・ラモス

  • 強くて美しい女性たちが魅力的
  • 親子の絆が強く描かれている
  • 色彩が美しく、監督の作風が光る
  • ペネロペ・クルスの演技が素晴らしい
  • スペインのロケーションや文化が魅力的に描かれている

死んだ父を隠す妹と生きてる母を隠す姉の対比が面白かったです。

絵画みたいに画が綺麗っていうのはアルモドバル作に共通してると思うけど、中でも本作でお母さんがラインムダを抱きしめるシーンの綺麗さはずば抜けてると思う

娘と失業中の夫とマドリードで暮らすライムンド。娘のパウラが養父を殺してまって、その隠蔽工作をしたり、死んだはずの母が生きているという噂といろいろ大変な話。

解説

ペドロ・アルモドバル監督の“女性賛歌3部作”最終章。娘に注ぐ母性と母に寄せる複雑な愛情を強く繊細に体現したペネロペ・クルスら、3世代の出演女優6人がカンヌ国際映画祭女優賞を獲得。他に脚本賞も受賞。

ストーリー

スペインのマドリードで家族と暮らすライムンダは、失業中の夫に襲われた娘パウラが抵抗した末に刺殺したことを知る。

たまたま以前働いていたレストランの経営者から店の鍵を預かったライムンダは、夫の遺体をレストランの冷凍庫に隠すことに。

その頃、故郷のラ・マンチャで伯母が急死し、ライムンダの姉ソーレが葬儀に参列する。亡き母イレーネの幽霊が出たという噂を耳にしたソーレは、思いがけない形で母との再会を果たす。

 
キャスト
ペネロペ・クルス
ペネロペ・クルス
ライムンダ
カルメン・マウラ
カルメン・マウラ
アイリーン
ロラ・ドゥエニャス
ロラ・ドゥエニャス
ソール
ブランカ・ポルティーリョ
ブランカ・ポルティーリョ
アグスティナ
 

アルモドバル作品に宿る「女性の強さ」

あらすじからクライムサスペンスを想像したが、映画は想像と違う方向へ二転三転する。

コメディかと思ったらしっかりしたドラマ映画の一面を見せたりと、映画の空気感を上手にスイッチするので親子三世代の因果に絡め取られた重たい物語を中和し、押し付けがましくない程よい感動をお届けするよいバランスに仕上がっている。

すっかりスペインの巨匠となったペドロ・アルモドバルの代表作として初心者にも断然おすすめ。

ペネロペ・クルスはスペイン映画に出ている時が一番映えてるが、この監督の映画では特に美しい。

カンヌで受賞したのも脚本賞と女優賞。

理由は観ればきっとご納得いただけるだろう。

 

アルモドバル監督は何十年も前から女性の強い魂や生き様を描く物語を紡ぎ、カメラに収め映画として伝えてきた。

昨今の映画業界にはポリコレの流れに便乗した粗悪な映画が溢れている。

某D社のように人種を混ぜたりバランスをとることに意識が奪われて肝心の映画の質が落ちてるくらいならいいのだが、何かを履き違えて男にも女にも失礼な思想強めの映画すら存在し、時に評価を得てしまうこともある。

だがそんな事を過剰に意識しなくても、女性を中心に据えて性別関係なく誰の心にも届くメッセージを描いた素晴らしい映画はすでに世の中に溢れている。

ハリウッドの映画産業に関わる人には、先人の知からもう少し学んでから映画を作ってほしいと思うことが多々ある。

たくさんの映画が答えのひとつとして、いつでも観られるところに存在しているのだから。

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿