早梅とは、早咲きの梅のことで、俳句では、「冬の梅」「梅早し」などと使われる。
週刊朝日がかって連載した“季に寄せる”(昭和50年代の主な俳句結社が1ヶ月ずつ担当)で、中村汀女「風花」に次いで2月を担当した“飯田龍太と「雲母」”の句を紹介したい。
早梅の空剛の嶺柔の山 飯田龍太
私の在所は、富士山の外縁のような御坂山系の麓のあたり。
眼前に甲府盆地が展け、盆地の西空に赤石山系から白根三山、ついで甲斐駒ケ岳から八ヶ岳が並ぶ。
すべて3000m前後で、頂は白雪に覆われているが、背後の山は穏やかな傾斜を持った雑木山ばかり。
早梅のころは、まだ眠りから覚めない。
しかし、日がさすと、ふと薄目をあけて、南アルプスの嶺々をまぶし気に見るように思われた。
早梅や南都北嶺みづみづし 金子青銅
金子氏の句にある南都は南方にある都、つまり奈良の称。
北嶺は北方の嶺だが、南都北嶺と続くと、奈良の興福寺と京都鎮護の延暦寺をさす。
あるいは奈良六宗と天台宗を並称する場合もあるようであるが、ともかく両古都を手づかみしたような、
いいリズムの言葉である。
奈良ではたっぷりと早梅を見かけたが、ここ京都でも、もう梅が咲いているではないか。
まこと古都にふさわしい景かな。
それに、あのやさしい若草山の眺めもいいが、東方に屹立する比叡山、これまた早梅に適った大景ではないか。(龍太)
早梅に雲遊ぶ空ありにけり 河野友人
早梅の花ほつほつと涛の音 細田寿郎
山火もゆ夜の早梅の二三輪 飯野燦雨
新生児室見て早梅の徑かへる 窪田玲女
早梅に湾岸道路灯りぬ 丸山哲郎
早梅のひかりに聡き四十雀 浅原尚嗣
早梅やをわかつ野川べり 鬼塚梵丹
早梅や煌と現はる天守閣 倉橋弘躬