阿部和義
2006年08月25日 (アサヒコム)
豊かな住生活を目指すという「住生活基本法」が06年6月に施行された。昨春、国土交通省の山本繁太郎・住宅局長(現総務審議官)が「住宅基本法」を作るかどうか、で悩んでいるという記事をこのコラムで書いた。それから1年がたって、この法律は国会で成立した。名前に「生活」が入り、国土交通省の北側大臣はご機嫌である。公明党の出身だけに住生活という言葉が気に入ったようだ。
8月には日経新聞で大々的に広告を打った。北側大臣が、見城美枝子・青森大学教授とこの法律が成立したことで対談をしている。異例のことである。この中で北側大臣は「住宅は量から質の時代に入り、住宅の全般について施策の対象にする」と話している。具体的には基本計画を作っており、項目ごとに目標値を作る。例えば新耐震適合率を03年現在の75%から15年には90%、省エネ対策率を同18%から同40%にする。老齢化にあわせるために共同住宅の道路から玄関までのバリアフリー化率を同10%から25%に目標を定める。
住宅の質の向上は国民の要望でもある。しかし、公的な住宅政策で一番必要なことは人生の負け組に対してどのような支援の手を差し伸べるかである。戦後の住宅政策では「住宅金融公庫」が安い金利で金を貸し、住宅公団(元都市機構)が安い住宅を提供し、地方自治体は安い価格で公営住宅を提供した。小泉改革で住宅金融公庫は06年度末で廃止され、「住宅金融支援機構」になる。地方自治体の公的な住宅供給も三位一体改革による財政難で減る事が予想される。こうした中で小泉改革で格差は開くばかりであり、負け組に対する住宅政策はどのようになるのかが、北側大臣からは聞こえてこない。本来ならば公明党の大臣だけにこうした負け組に対する温かい配慮があってしかるべきではないだろうか。
住宅生産者の集まりである「住宅生産団体連合会」(会長・和田勇積水ハウス社長)はこの住生活基本法の理念に基づき「倫理憲章」を制定した。この憲章では「環境への配慮」「地域社会への貢献」など7つの原則を決めた。住宅メーカーに対してもいろいろな批判が出ている。環境に配慮しない住宅を作っているとか、老人に対して配慮が無いなどである。今回の住生活基本法の精神に基づきこうした批判が無いように倫理憲章を守って欲しいものである。