東京多摩借地借家人組合

アパート・賃貸マンション、店舗、事務所等の賃貸のトラブルのご相談を受付けます。

賃料滞納の場合に、賃貸人が貸室へ無断立入りできるとする特約が無効とされた事例

2008年11月12日 | 最高裁と判例集
マンションの1室の賃貸借契約において「賃借人が賃料を滞納した場合、賃貸人は、賃借人の承諾を得ずに建物に立ち入り、適当な処置をとることができる」旨の特約は、公序良俗に反して無効であるとして争われた事案において、賃貸人から委任を受けたマンションの管理会社が賃料を滞納した賃借人の部屋に立入る等したことが不法行為にあたるとされた事例(東京地裁 平成18年5月30日判決 一部認容・一部棄却 確定 判例時報1954号80頁)

1 事案の概要
平成15年12月、賃借人Xは、不動産会社Y2からマンションの一室(以下「本件建物」という。)を賃料月額11万円、期間を1年とする約定で借り受けた(以下「本件賃貸借契約」という。)。なお、本件賃貸借契約書には次の趣旨の特約(以下「本件特約」という。)がある。

① 賃借人が賃料を滞納した場合、賃貸人は賃借人の承諾を得ずに本件建物に立ち
入り適当な処置をとることができる。
② 賃借人が賃料を2カ月分以上滞納した場合は、賃貸人は賃借人に対して何らの
通知・催告を要することなく直ちに本件賃貸借契約を解除することができる。
③ 賃借人は賃貸借契約が終了した場合、破損・汚損箇所の修復費用を負担する。
また、XはY2に対し、本件特約を承諾する旨の書面(以下「本件承諾書」という。)を差し入れている。

Xが2カ月分の賃料を滞納したため、平成17年7月、Y2から本件賃貸借契約に基づく未納賃料の請求及び契約解除に関する事項の委任を受けていた管理会社Y1は、Xに対し「賃料の滞納が2カ月に及んでおり、本件賃貸借契約を直ちに解除する」旨の内容証明郵便を送付した。同年8月29日にY1の従業員はXの不在中に本件建物の扉に施錠具を取り付け、8月30日には本件建物に立ち入り、窓の内側に施錠具を取り付けた。Xは、その後9月10日に本件建物を明け渡した。

Xは、賃借人の承諾を得ずに本件建物内に立ち入ったり、その玄関扉を施錠したりすることは違法な私生活の侵害であり、本件特約及び本件承諾書は公序良俗に反して無効であると主張し、Y1に対し慰謝料100万円を請求した。これに対しY1、本件特約及び本件承諾書には合理性があり立ち入りは適法であり、Xは内容証明郵便を無視し悪質な占有を継続していたと主張した。Y2はXに対し平成17年9月分の未払い賃料と汚損修復費用を請求した。

2 判決の要旨
裁判所は以下のように判示し、Xの請求を一部認容した。 Y1が本件建物に立ち入ったり、施錠具を取り付けたりしたことがXの平穏に生活最近の判例から
賃料滞納の場合に、賃貸人が貸室へ無断立入りできるとする特約が無効とされた事例(東京地判 平18・5・30 判時1954-80)する権利を侵害するものであることは明らかである。

 本件特約の文言は、賃料を滞納した賃借人に対して賃料債務の履行や本件建物からの退去を間接的に強制することを意図したものである。そうすると、本件特約はY2がXに対して賃料の支払や本件建物からの退去を強制するために、法的手続きによらずにXの平穏に生活する権利を侵害することを許容するものというべきであり、緊急等特別の事情がある場合以外は原則として許されないというべきである。したがって本件特約は、特別の事情があるとはいえない場合に適用される時は、公序良俗に反して無効である。

 XがY1からの連絡に応答せず、本件賃貸借契約の解除が有効であるとしても、Y1が法的手続きを経ることなく賃料債務の履行や本件建物からの退去を強制できる特別の事情とはいえない。
 以上によれば、Y1の従業員が本件建物に立ち入り等したことはXの権利を侵害する違法な行為であり、Y1は民法715条に基づき生じた損害を賠償する責任があるというべきである。Xの精神的苦痛に対する慰謝料の額は5万円と認めるのが相当である。

 Y2は本件建物の汚損回復費用を請求するが、Y2が示した写真からは本件建物の汚損が通常の損耗の範囲を超えていると認めることはできない。よってY2の請求は、Xが本件建物を退去した月の日割り賃料の
限度で理由がある。

3 まとめ
自力救済について最高裁判所は「法律に定める手段によったのでは、権利に対する違法な侵害に対して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない必要な限度の範囲内で、例外的に許される。」(昭40・12・7)と判示している。

例外的に許される場合は厳格に限定されており、これに反する特約は無効とされる。賃貸人が賃借人不在中に建物に立入り、鍵を取替え、賃借人の使用を妨害することは、賃借人の生活の拠点を強制的に奪うことになり、違法な行為として許されない。自力救済に関する契約条項が否定された事例として、実務上、参考となる。



借地借家の賃貸トラブルのご相談は

東京多摩借地借家人組合

一人で悩まず  042(526)1094 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

国連人権委員会の強制立ち退きに関する決議

2008年11月12日 | 明渡しと地上げ問題
国連人権委員会は,

「差別防止及び少数者保護」小委員会による 1991 年 8 月 26 日の決議 1991/12 号(強制立ち退き)を想起し,

さらにまた,同小委員会による 1992 年 2 月 2 日の決議 1992/10 号が,1991 年 12 月 12 日に「経済社会文化的権利」部会委員会第6総会が採択した「適切な住宅への権利に関する一般見解」第 4 号 (1991) およびそこで再確認された人間の尊厳と非差別の原則を尊重する重要性について,強く銘記していることも想起し,

すべての女,男,および子供が,平和と尊厳のうちに生活できる安全な場への権利を持つことを再び明言し,

しかしながら,国連統計によれば全世界で十億を越える人々がホームレスあるいは適切な住居を持たぬ状況にあり,しかもその数は増加していることを憂慮し,

強制立ち退きなる行為は,人や家族や集団を無理失理に家族やコミュニティから連れさることによってホームレス状態を悪化させ,住宅と生活条件を劣悪にするものであることを認識し,

また強制立ち退きとホームレス問題は社会的な対立と不平等を尖鋭化し,常に社会の中で最も貧しくまた社会的経済的に環境的政治的に最も不遇で弱い立場にある人々に対して影響するものであることを懸念し,

強制立ち退きは,様々な主体によって実施され,裁可され,要請され,提案され,開始され,黙認されうる,ということに目をむけ,

強制立ち退きを未然に防ぐ究極の法的責任は政府にあることを強調し,

国家機関は適切な保護や補償のないまま人々を大規模に追い立てたり移転させたりする事業に関わるのを慎重に避けるべきである,と述べたところの「経済社会文化的権利」部会委員会第4総会採択の「国際技術援助施策に関する一般見解」第 2 号 (1990) を想起し,

「経済社会文化的権利に関する国際条約」第 16 条および第 17 条に対応して提出された国別報告のためのガイドラインにある強制立ち退きに関わる質問事項に留意し,

強制立ち退きの諸例が「経済社会文化的権利に関する国際条約」の要請に違反していることはまず明らかであり,それが正当化されうるのはごく例外的な場合に限られ,かつ国際法の関連する原理に則ってなされなければならない,と判定した「経済社会文化的権利」部会委員会「一般見解」第 4 号を高く評価し,

「経済社会文化的権利」部会委員会の第 5 総会 (1990) および第6総会 (1991) における強制立ち退きに関する見解を銘記し,

ラジンダール・サチャール氏によって作成された「適切な住宅への権利」についてのワーキングペーパーの中で,強制立ち退きが国際的に住宅危機の主要な原因の一つであるとして指摘されていることも銘記し,

さらに,1992 年 8 月 27 日に採択された小委員会決議 1992/14 号 (「強制立ち退き」) をも銘記したうえで,

1. 強制立ち退き行為は,人権なかんずく適切な住宅への権利に対する重大な違反であることを明言する;

2. 強制立ち退き行為をなくするためにあらゆるレベルで直ちに対策をとることを各国政府に要請する;

3. また,現在強制立ち退きの脅威にさらされているすべての人々に対して,影響をこうむる当の人々の効果的な参加や彼らとの協議,交渉に基づいて,保有条件の法的保障を授与すること,強制立ち退きに対するまったき保障を与えるためのあらゆる必要な措置を講ずること,をも政府に要請する;

4. 強制的に追い立てられた人々やコミュニティに対しては,彼らの願いや必要に見合って,原状回復,補償,および/もしくは適切で十分な代替住宅や土地を,影響をこうむった当の人々やグループとの相互に満足のゆく交渉をへた後に,直ちに与えることを,すべての政府に勧告する.

5. 本決議を,すべての政府,「国連人間居住センター」を含む関連国連機関・国連専門機関,国際地域・政府間機関,NGO,住民組織に送付し,彼らの見解とコメントを求めることを,国連事務総長に要求する;

6. さらにまた,国際法と法制,および前項に則って提出される情報の文責に基づいて,強制立ち退き行為についての分析的報告をまとめ,本委員会第 15 総会に提出することをも,国連事務総長に要求する;

7. 第 60 会総会では第 7 議題「経済社会文化的権利の実現」のもとでその分析的報告を論議し,強制立ち退き問題を引き続き検討するための最も有効な方法について定める;

ことを決定するものである.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする