昨年末に見た映画の原作を読んでみた。600ページもの大作だが、数百万部のベストセラーとなっているらしい。
本屋に行くと、この永遠のゼロの他、作者百田氏の様々な著作が販売されている。それを見ていると、いろいろと政治的な主張をおもちの方のようだが、ここではそれは問わないし、永遠の0自体は、政治的な主張は出て来ない。ただ、戦争 指導をした士官たちを強く批判している。また、実在すると思われる新聞社の記者を登場させて、元特攻要員であった経営者と議論させている。
現代のストーリーは一応あるが、本文のほとんどは元将兵たちの独白による、戦争当時の証言で構成されている。内容は特定の人の実話、という訳ではないだろうが、なかなか真実味のある「証言」で、それを読んでいるうちに、ある程度戦争の経緯がわかるように、証言者に解説をさせている。他の小説等で同類の構成が試みられているのかもしれないが、これはなかなか新鮮で、勉強になる。僕も、これを読んではじめてわかったことがいくつもある。
この作品の目的として、若い人たちに先の大戦の経緯をコンパクトに説明したかった、ということがあることは間違いないと思う。(ただ、これはあくまでも創作なわけで、その点をどう解釈するかは議論の余地があるとは思う)。
もとより歴史というのは、その時代の無数の人たちの様々な思いと、それに裏付けられた行動が積み重なって構成されているものである。一人一人が、そのとき何を感じたか、何を思ってそういうことを言ったのかなど、その場にいなかった人にはわかりようがないし、誤った解釈が一人歩きしてしまうことも多い。僕は歴史の専門家ではないから、歴史学者がどういうスタンスで研究をしているのかわからないが、いわゆる歴史認識の違い、というのは、そういうところから来るのだろう。
いずれにしても、戦争を経験した人たちのお話を聞けなくなる時期が迫りつつある。お元気だった小野田寛郎氏も先日亡くなられたし、同じく戦争を経験された経験から発言をされていた、やなせたかしさんも、昨年亡くなられている。今日、あらためてあの時代を振り返ることは、意義のある事だと思う。
惜しむらくは、文学作品としてみると、文章構成に難があるというか、ちょっと書きすぎの感がある。これを原作とした映画版は、その点実に良くまとまっていると思う。