音楽評論家の宇野功芳さんは、独特な語り口の文章で人気があった。
「宇宙が雪崩を打って落下するような第一主題、その後の32音符の下降音型が何という苦しみを訴えかけることか。第二主題への移行部における意味深いリタルダンドと、その後のものものしい神秘感、暗黒内でのまさぐり、すべてフルトヴェングラーならではの表現だ」(フルトヴェングラー ベートーヴェン「合唱」のライナーノートより)
いわゆる美文調だが、昔のクラシックレコードのライナーはこういうスタイルのものが珍しくなかったようだ。ともあれ、僕が宇野功芳と言う名前を知ったのはこのライナーからだ。
自著などでの過激な発言(この曲の演奏録音はこの1枚だけあれば、後はいらない、とか、誰それ指揮の演奏など、聞く方が悪い、など)は、「語録」としてすっかり有名になっている。ので、僕がここで繰り返すことはないだろうけど、個人的には大いに楽しんだ。もっとも、演奏の好みは違っていたけど。
単なる毒舌なわけではなく、その文章の随所に音楽への愛情や少年っぽい純粋さがあふれていて、それゆえに多くの人から愛されたのだと思う。音楽家としても合唱の指揮、交響曲の指揮などをされていたが、好きなことをやれるだけやれた、幸せな人生だったのではないか。
10日に86歳で亡くなられたそうだ。ご冥福をお祈りします。