この漫画の連載が始まったのは20年も前のことだが、今でも人気があるようだ。独特の世界観に対する、解釈を巡って様々な議論があるようで、そのあたりから作品にはまり込んでしまう人も多いらしい。
僕はこの作品、リアルタイムでは全く知らなかった。最初に「ヨコハマ-」のことを知った時期ははっきり覚えている。
ニュースでまもなく「あべのハルカス」がオープンする、と報道されていた、数年前の夏のことだ。
ニュースではこれまで最も高いビルはヨコハマのランドマークタワーだった、と報じていた。ランドマークタワーをウィキで調べたところ、ランドマークが出てくる作品として「ヨコハマ-」が紹介されていた。タブレットを使い始めた頃で、koboで検索して、第1巻を購入した。そこから作品にのめり込むまでに余り時間はかからなかった。
作品の感想というか、思いついたことをメモしておく(基本的に、読んでいること前提ですので、ネタばれ注意)。
- とてもセンチメンタルなおはなしだ。よく言われるのは、人類が衰退の方向に向かっている(ように思われる。人口が減少しつつあり、インフラや科学技術の継承も難しくなっている)設定なのに、不思議と人々は明るく長閑に暮らしているように描かれている、ということ。
温暖化が進み、植物などの生育は良いようで食べるに困っていないらしい。今の過疎集落が全国に広がったような感じだ。 - かつての住宅地などが、草に覆われ自然に還りつつある、と言う風景が良く描かれている。そうした風景が、何となく心地よく感じられるというのが、自分でも不思議に感じられるのだ。よく、廃墟を訪ねるのが趣味という人がいるが・・。
- 登場人物達は、社会がしだいに衰えていくことにはなんの感想も抱いていないように思える。すこし不自然な感じもするが。。
その代わりというか、ロボットであるはずのアルファさんは、時としてとても感傷的だ。
- アルファさんは、タカヒロ(や、マッキ)の成長過程を、少し過剰に思えるくらい、いとおしむ・・。
少しずつ背丈が伸びていき、やがてアルファさんを追い越すことにも、アルファさんは寂しさを感じるらしい。
カフェで居眠りをしているマッキに、タカヒロを投影して「早いなあ、早すぎるよ・・」と涙を流す。 - 「みんなの船」というタイトルのエピソードがある。
このタイトルは、初めてマッキと出会ったアルファさんが、彼女に語りかけた言葉に由来する。
ロボットであるアルファさんは、タカヒロたちとは時間の流れ方が違う。
アルファさんは、人類にくらべずっと寿命が長い?のか、いつまでも若い姿で活動できるらしい。
タカヒロやマッキは「同じ船」に乗って、人生を流れに乗っていく。アルファさんは、それを「岸から見ているだけかも知れない」という。 - かつては自分にすがりついていた子供達は、やがて成長して手を離れていく。
それは自然なことだが、ともに同じ時代を生きてきたはずの大人達も、しだいにアルファさんの目の前から姿を消していくというのは、たしかに残酷なことなのかも知れない。
人は不老長寿を願うが、それが実現したとして、本当に幸せをもたらしてくれるものなのか。
最終回で、アルファさんが横浜に行く途上、草むしたガソリンスタンドや医院が描かれていたのを見つけたときは、ちょっとショックだった・。 - 作者の芦菜野氏は僕とは同世代だ。同じ時代をくぐり抜けて来た氏が、(高度成長からバブル経済、そしてその後に訪れた長くてゆったりした時代をくぐり抜けて来たもの同士として)、このような作品世界を作り上げたことに、特別な感慨を覚える。
なにも限界集落云々まで行かないまでも、郊外の街がシャッター街と化していることすら、僕等の子供の頃にはなかったのだ。
僕自身は特別なマニアでもなんでもない。ただタブレットに保存された「ヨコハマ-」を、ときおり読み返しては、その世界に浸っている・・。