乱鳥の書きなぐり

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『身毒丸 』 折口信夫  20  あけの日は、東が白みかけると、あちらでもこちらでも蝉が鳴き立てた。昨日の暑さで、一晩のうちに生れたのだらう、と話しあうた。

2024-09-07 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫

『身毒丸 』 折口信夫  20  あけの日は、東が白みかけると、あちらでもこちらでも蝉が鳴き立てた。昨日の暑さで、一晩のうちに生れたのだらう、と話しあうた。

 

 





   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月

 


 おまへも、やつぱり、父の子ぢやつたなう。

 信吉房の血が、まだ一代きりの捨身では、をさまらなかつたものと見える。

 

 

 かういふ語が、分別男や身毒には、無意味ながら悲しい語らしく響いて語り終へられた。

 深いと息が、師匠の腹の底から出た。

 

 

 分別男は、疳癖づよい師匠にも似あはぬことゝ思うて、拍子抜けのした顔でゐた。

 師匠ももうとる年で、よつぽど箝が弛んだやうだと笑ひ話のやうにして制多迦(せいたか)を慰めた。

 

 

 あけの日は、東が白みかけると、あちらでもこちらでも蝉が鳴き立てた。

 昨日の暑さで、一晩のうちに生れたのだらう、と話しあうた。

 

 草の上に、露のある頃から、金襴の前垂を輝かす源内法師を先に、白帷子に赤い頬かぶりをして、綾藺笠を其上にかづいた一行が、仄暗い郷士の家から、照り充ちた朝日の中に出た。

 

 さうして、だら/\坂を静かに練つておりた。

 

 制多迦(せいいたか)は、二丈あまりの花竿を竪てながら、師匠のすぐ後に従うた。

 



 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。

『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

『身毒丸 』 折口信夫  10  accident

『身毒丸 』 折口信夫  11  そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。

『身毒丸 』 折口信夫  12  住吉の神の御田に、五月処女の笠の動く、五月の青空の下を、二十人あまりの菅笠に黒い腰衣を着けた姿が、ゆら/\と陽炎うて、一行は旅に上つた

『身毒丸 』 折口信夫  13  其処は、非御家人の隠れ里といつた富裕な郷であつた。瓜生野の一座は、その郷士の家で手あついもてなしを受けた。

『身毒丸 』 折口信夫  14  accident

『身毒丸 』 折口信夫  15  氷上で育てた弟子のうちにも、さういふ風に、房主になりたい/\言ひづめで、とゞのつまりが、蓮池へはまつて死んだ男があつたといふぜ。

『身毒丸 』 折口信夫  16  おまへらは、なんともないのかい、住吉へ還らんでも、かうしてゐても、おんなじ旅だもの。

「身毒丸」 折口信夫  17  田楽法師は、高足や刀玉見事に出来さいすりや、仏さまへの御奉公は十分に出来てるんぢや、と師匠が言はしつたぞ。

『身毒丸 』 折口信夫  18  頼んで来ても伝授さつしやらなんだ師匠が、われだけにや伝へられた揺拍子を持ち込みや、春日あたりでは大喜びで、一返に脇役者ぐらゐにや、とり立てゝくれるぢやろ。

『身毒丸 』 折口信夫  19  分別男や身毒の予期した語は、その脣からは洩れないで、劬る様な語が、身毒のさゝくれ立つた心持ちを和げた。

『身毒丸 』 折口信夫  20  あけの日は、東が白みかけると、あちらでもこちらでも蝉が鳴き立てた。昨日の暑さで、一晩のうちに生れたのだらう、と話しあうた。

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