『古今集遠鏡 巻一』17 はしがき 八表 八裏 本居宣長
『古今集遠鏡』6冊。寛政5年(1793)頃成立。同9年刊行。
右は 八裏
はしがき 八表
◯「らし」ハ、「サウナ」と訳す、「サウナ」ハ、さまなるといふことなるを、春便りに「サウ」と
いひ、「る」をはぶける也、然れバ言の本のことを、「らしく」と同じおもむきに
あたる辞也、たとへば「物思ふらし」を、「物ヲモウサウナ」と訳すが如き、「らし」も
「サウナ」と共に、人の物思ふさまなるを見て、おしはかりたる春なれバ也、さてついで
はしがき 八裏
にいはむハ。業(ママ 世に)らんとたしとを。たゞ疑ひの重きと軽きとのたがひ」とのみ
心得て。みづからの歌にも。其こゝろもて、よむならハ。「時雨
ふるらん」ハ。「時雨ガフルデアラウ」也。「時雨ふるらし」は。「時雨ガフルサウナ」の言也。此俗言の
「アラウ」と「サウナ」との言を思ひて。そのたがひあることをまきまふべし。
はしがき 八表
◯「らし」は、「そうな」と訳す、「そうな」は、「様成(さまなる)」と言う事なるを、春便りに「そう」と
言い、「る」を省ける也、然れば、言(詞)の本の事を、「らしく」と同じ趣に
あたる辞也、例えば「物思うらし」を、「物を申すそうな」と訳すが如き、「らし」も
「そうな」と共に、人の物思ふ様成るを見て、推し量りたる春なれな也、扨、ついで
はしがき 八裏
に言わんは。業(ママ 世に)らんとたしとを。ただ疑ひの重きと軽きとの違い」とのみ
心得て。自らの歌にも。其心もて、読むならば。「時雨
降るらん」ハ。「時雨が降るであろう」也。「時雨降るらし」は。「時雨が降るそうな」の言也。此俗言の
「あろう」と「そうな」との言(詞)を思ひて。其違い有る事をまきまうべし。
言(ことば 詞 言葉)
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