今日は、国際局として実施したベトナム訪問の報告会を行いました。
ベトナムは中国と西沙諸島において領土問題を抱えています。特に5月2日、中国海洋石油のグループ会社が、中国、ベトナムがともに排他的経済水域(EEZ)を主張する海域で掘削作業を開始してからは、掘削中止を求めて派遣されたベトナム公船に対し、武装した中国の巡視船が何度も体当たりするなど、緊張が高まっていました。
ところが、掘削作業は7月15日に終了し、中国企業は撤退。当初は8月中旬まで継続する方針だったので、7月10日に米国上院議会が中国の拡張主義を非難する決議を採択するなど国際社会の圧力が中国の撤退理由とされています。
いずれにせよ、ベトナムは徹底して平和的手段を追求することで目的を果たしました。では、それはどのような戦略によって実現されたのか? また、紛争予防、紛争解決メカニズムの構築を行うにはどうすれば良いのか、日本との間でどのようなパートナーシップが構築し得るのか、このようなテーマでベトナム共産党、国防国際関係研究所、ベトナム外務省、ベトナム青年委員会、ベトナム退役軍人米国基金(NGO)でヒアリングを行いました。
下記は、ベトナムの立場からの分析、そして戦略です。平和的対応を貫くこと、中国の矛盾は国際社会に訴えること、相手のワナにはかからないよう慎重な対応を続けることなど、シビアな見方に基づいた現実的な対応を貫いたことが明らかになりました。
1.中国の戦略に対するベトナム側の基本認識
中国は紛争解決における国際的なルールや基準は無視し、二国間で交渉すると圧力をかけ中国の基準での解決を求めてくる。さらに国際裁判による解決を認めない。中国の南シナ海での領土の要求は一貫しておらず、核心的利益と言っているが歴史的根拠もないというのがベトナム側の基本認識である。西沙諸島は1974年、ベトナム戦争の間隙をぬって当時の南ベトナムから奪取。中国の要求に基づけば南シナ海の9割が中国の領土になる。最後のゴールは海上、空中の支配。今はコントロールする力を持たないが、最終的には100%コントロールすることを目指していると考える。
2.ベトナムの基本方針
このような状況を踏まえ、中国の行動の矛盾を認識した上で平和的措置による外交的解決を目指すことが国益にかなうと判断した。
西沙諸島において中国は武装した巡視船を配置。漁業監視船のみのベトナムに対し体当たりを続けるなどベトナム側の3倍の兵力を出動させ、体当たりを続けるなど暴力的な対応を続けた。象徴的な場面としては、2隻の中国船がベトナムの船を挟み込み、ベトナムが攻撃したように見せかけたとのこと。さらにベトナム船に突き当たり、救助しようとしたベトナム船を妨害した。
ベトナム側は中国とは紛争に至らないよう徹底的に配慮した。中国の報道官はベトナムが突っ込んで起きたと主張したが、証明できなかった。中国のワナにかからないように努力を続けた。中国の暴挙に対しベトナム世論は沸騰し、デモ、抗議声明、漁民への援助、海洋警察への支援が相次いだ。しかしベトナムは極端なナショナリズムは認めず、法律違反には厳正に処分した。一方で主体的に中国と交渉。全てのチャンネル、レベルで50回にわたって交渉した。
3.ベトナムの基本方針
① 国の主権は徹底して守る
② ベトナムのみならず地域全体のことも考慮し、徹底して平和的解決を目指すことで国際社会にベトナムの尊厳を示す
③ 中国との関係を決定的に破壊するような措置は取らない
4.ベトナムの戦略と「勝利」の分析
中国は当初、掘削装置は撤去しない、二国間で解決すべき問題との姿勢だった。しかし、5月2日に中国が掘削作業を開始してからの75日間、50回以上の交渉を含め、ベトナムは譲歩の姿勢を全く示さなかった。最大時、中国は140隻(4000tのものを含め平均1000t以上)、ベトナムは50隻(200~400t)であり、海上での実力は圧倒的に中国が優勢であったが、ベトナムの方に正当性があることを確信。国際社会で広く情報発信。フォーラム等でも発信し、支持を求めた。外国のマスコミを乗せて中国の行動を取材させた他、ロビー活動を活発に行った。
4.中国を撤退させた要因分析
① ベトナムの断固とした態度
② ASEANの団結
③ 日米を含む国際社会の支持(地域、海域、平和と安定の脅威との認識)
ベトナム側によると徹底した平和的解決を図り国際社会に支持を訴えたことが中国の『戦術的後退『』を導く要因になった。米国の強い関与(7月10日の上院における非難決議の採択)は、米国が中国の危険性を認識したあらわれと考えている。ベトナムは主権を守るための総合的外交を実施したのみ。全ては平和的処置だった。
重要なことは、ベトナムは西沙諸島における中国政府のやり方には徹底抗戦したが、中国国民とは今後とも友好関係を築いていきたいとの強い意志を持っていることである。
Ⅱ.日本側による質問とベトナム側の回答
1.中国の唐家セン元副首相は二国間の問題は二国間で解決すべきで、国際司法裁判所に訴えるべきではないとの事だったが、ベトナムの考えは? また紛争における人道的対応についての考え方は?
ベトナムの過去の全ての戦争は侵略への対応だった。平和的解決がベストの方法と確信している。主権が侵害された時は、最後の手段として武力行使も有り得るが、最後まで平和的手段を選択する。二国間で解決するのがベストだが、国際司法裁判所もひとつの方法。領土問題はどちらかが譲歩するのは難しい。国際司法裁判所は中国も参加しており、紛争解決の場としては合理性があるはず。
2.中国が再びアクションを起こす可能性もある。紛争を未然に防ぐために日本を含む国際社会にできることは何か?
中国はこちらの小さな誤りを利用して何倍もの行動を取る。また、自ら紛争を作りだす。フィリピンの南沙諸島もそのひとつ。中国が介入するきっかけを与えないことが重要。国際社会が大きな声で反対するなど中国が不利な時は行動しない。従って国際社会が協力して対応することが重要。一方、中国は内政の不満をそらすために紛争を自ら作り出すこともある。ベトナムは忍耐強く対応したがひとつでも間違っていたら口実を与えていた。長期的な解決方法は、紛争解決のメカニズムを構築すること、また共通の利益体制を確立することである。社会・経済的な相互依存関係があると戦争には突入しにくい。
3.中国とベトナムの党外交の在り方について
ベトナムも中国も政策は党がリードし、政府が交渉の主体となる。党と政府は一体化しており、違いはあり得ない。また、共産主義という共通の思想を持っており、交流の歴史も長い。しかし、領土問題のような「核心的利益」を争う問題については二国間だけでの解決は難しいため、国際司法裁判所などによる解決を目指すことも選択肢になると考える。
Ⅲ.ベトナムの戦略からの学びと今後の連携について
ベトナムは今回の紛争について中国側に矛盾点があることを踏まえ、徹底した平和的解決の姿勢を追求することが国際社会の支持につながると確信しての行動を貫きました。中国の問題行動に対して国際社会に訴える作戦を徹底しました。その結果、中国による掘削中止、西沙諸島からの撤退という当初の目的を果たしただけでなく、ASEAN諸国の結束と、ベトナム戦争以来複雑な関係にあった米国との関係強化という果実も手にすることができました
「平和的解決」を戦略の中心に据え、徹底追求することで「力による現状変更」を行おうとする中国の行動の矛盾をあぶり出し、国際社会を味方にするベトナムの戦略に合理性があることは、今回の結果において証明されたと言えます。
ベトナム戦争の最激戦地の一つメコンデルタの町、クチには手堀りのスコップで掘った250キロにも及ぶ地下都市があります。学校や病院、司令部などもあり、農業にはあまり適さない土地を逆利用し徹底抗戦を行ったベトナムの不屈の精神を象徴する場所と言われています。「ベトナム兵はどこを探しても見つからないけれど、どこからでも現れた!」と徹底したゲリラ戦法で米兵を恐怖に陥れ、精神的に不安定になった米兵に麻薬を常用させて米国社会を根底から破壊する作戦は、持たざる者が主権と国土を守るためにあらゆる手段を尽くすベトナムのしたたかさを感じました。「我々は米国と21年、フランスとは70年、中国とは1000年。圧倒的に強大な敵との主権を巡る闘いに勝ち抜いてきたのです」そんな国民性が今回も発揮されたと考えればベトナムの強さにも納得できます。
ベトナムは中国が今後も南シナ海を支配する強い意志を持っていると分析しており、『紛争予防・解決のメカニズム』を構築する上での重要なパートナーとして、日本と連携する意志を持っています。日本とベトナムの社会体制は異なりますが、社会、経済において共通の利益を追求する体制の構築は可能です。また、中国との関係において共通の正当性を持っており、それが日本との連携強化の基盤となるでしょう。どのような連携があり得るのか、今後、有識者も交えて共同しての戦略構築を行うべきと考えます。
維新の党・国際局としても、ベトナムとの対話を継続するとともに対話のネットワークを世界に広げて行きます。その一環として特にベトナム青年委員会の幹部との交流を継続したいと考えています。700万人の会員を擁する青年組織であり『紛争予防・解決のメカニズム』構築について、官僚組織とは違う視点、より柔軟な考え方を持っていると感じました。紛争の平和的解決の在り方について今後も継続的に意見交換をすべく覚書を交換する方針です。