今日の安全保障特別委員会では、今井雅人政調会長が質疑を行いました。先日、紛争地域の現場の経験者としての視点をお話に行ったのですが、「今日は阪口君の代打として頑張ってくる!」と、再三私の名前を挙げて紛争地のリアリティへの問題意識の薄い安倍総理を追及しました。本来はこの場にいなければいけないのに・・・との無念の思いと、仲間が問題意識を共有して頑張ってくれる姿への感謝の思いを込めてテレビ中継に張り付きました。
さて、安倍総理は、昨年5月15日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告書について自ら説明。その中でカンボジアの平和のために活動中に襲撃されて命を落とした国連ボランティアの中田厚仁さんと文民警察官・高田晴行警視を例に挙げ、彼らが突然武装集団に襲われたとしても日本の自衛隊は彼らを救出できない。見捨てるしかない。と、PKO活動における駆け付け警護の必要性を訴えました。目の前の救える命を救うことは人として当然の思いであり、PKOにおける駆け付け警護について、あらゆる事態を想定して準備をする必要性は理解できます。しかし、実効性とリスクについての議論も必要です。。
まず、駆け付け警護は隊員及び、現場で働く邦人の危険を増大させる可能性があります。自衛隊員が救出のために突入することのリスクについても議論すべきです。私の経験では中途半端に武器を持つことが一番危険です。紛争地での経験の長いNGOは、軍事的行動と一線を引くことが安全確保の上で一番重要であるとしています。特殊部隊であっても救出作戦は難しいのです。
PKOにおける任務はミッションによって異なり、その都度合意文書で確認することになっています。米陸軍の規則(Operation Law Hand Book 2013)でもカナダ政府の軍の運用規則(Use of Force for CF Operation)でも、駆け付け警護は任務の中に入ってなければやらないことになっているとされており、「他の国はやっているのに日本だけがやらない」という安倍総理の説明は実は破綻しているのです。にもかかわらず「今のままでは見捨てるしかない」と国民に訴えるレトリックは非常に危険です。
私自身、1992~1993年にかけては、まさに中田厚仁さんの同僚としてカンボジアで国連のPKO活動に参加していました。中田厚仁さんはカンボジア内で一番危険なコンポントム州での活動を自ら志願し、村々をまわって過酷な活動を続けていました。安倍総理は「見捨てる」とエモーショナルな表現で説明していましたが、実際には駆け付けて間に合う位置で活動することはまずありません。
国連やNGOなどの文民要員は、危険が存在することは十分承知した上で、現地の言葉を覚え、地域住民と信頼関係を構築し、できる限りリスクを避けるように情報収集を行っています。現地の人々の中に飛び込んで信頼関係を構築することが、仕事上も安全対策としても一番重要なのです。
私自身も銃撃・襲撃された経験があります。相手は政府軍の制服を着た、実際には強盗団と化した元兵士でした。すなわち、外見だけでは正規軍なのか、民兵なのか、民間人なのか、あるいはテロリストなのか判別は不可能です。自分たちは丸腰であり反撃する意志はないこと、平和活動のために来ていることなどを現地の言葉で伝えることで何とか危機を脱することができましたが、本当に死と隣り合わせの瞬間でした。
当時自衛隊はタケオ州などでの道路補修が任務。中田さんがいたコンポントム州との間には数百キロの距離があるため、たとえ駆け付け警護が可能であっても現実に救出は不可能でした。また高田警視は活動中、オランダ軍の護衛があったにもかかわらず殺害されました。安倍総理はその状況を説明せずに、自衛隊が警護さえすれば日本人を守ることができるかのような説明をしましたが、住民との信頼構築が必要な平和構築活動中に重装備の自衛隊が同行していてはむしろ活動が困難になるケースが多いのです。戦場のリアリティに対する無知が露呈したと言えます。
もちろん、駆け付け警護が可能になることで目の前の日本人を助けられる状況は生まれ得ます。しかし、それは極めてまれなケースであり、襲撃してきた武装勢力に自衛的措置を行うことがたとえその場では「正義」であったとしても、相手は攻撃を受けたと解釈します。また、その結果、民間人に犠牲が生じる可能性も否定できません。PKO活動における駆け付け警護を可能にすることについて私は反対ではありませんが、自衛隊だけでなく、国連やNGOで活動する日本人も報復のターゲットになる可能性が生まれることについて、もっと議論が必要です。
国連ボランティアの宿舎前で中田厚仁さんと
任地コンポントム州へ向かう中田厚仁さんと最後の握手
安倍総理を追及する今井雅人政調会長
昨年は、私のこのテーマで政府を追及しました
中田厚仁さんが射殺された村(アツヒト村)にできた学校