阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

再び政権交代を可能にした若者との連携―台湾・民進党の躍進を考える

2016年01月28日 16時32分50秒 | 政治

 1月16日、台湾では選挙が行われ、総統選挙では民進党の蔡英文候補がダブルスコアに近い大差で圧勝。立法院(国会)選挙でも、定数113議席のうち民進党が40議席から68議席へと躍進し、8年ぶりの民進党政権へと政権交代が実現した。

 民進党の勝利は、中国への接近を強める国民党・馬英九政権に対して台湾のアイデンティティ、主体性を守ろうと訴えたことが主な要因だったと分析されている。また、2014年3月には、馬政権が中国とのサービス貿易協定について国民への丁寧な説明と国会での十分な議論もなく審議を打ち切り、国会を通そうとしたことに国民の怒りが爆発。学生が立法府を占拠して異議申し立てをした『ひまわり学生運動』を国民が一致結束して応援した。民進党がその思いを受け止める役割を果たしたことも大きな要因だ。

若いハートが変える社会ー台湾の『ひまわり学生運動』から改めて学ぶ 
 
 私は50万人の大集会で運動が頂点に達した3月30日に、民進党前立法委員・陳瑩氏の案内で学生が占拠した立法院周辺を視察し、対話する機会に恵まれた。また、今回の立法委員選挙に際しては、再び立候補した陳瑩氏を激励に行くとともに、選挙運動を見学させて頂き、民心の掴み方を勉強させてもらった。(陳瑩氏は原住民枠で当選)

 その視点で、『どうすれば野党が再び政権交代を実現できるか』台湾の例から学ぶべき点を挙げたいと思う。

1.『ひまわり学生運動』が変えた若者の政治意識と社会の『空気』

 実は今回の選挙の投票率は2012年の74.38%から66.27%と10%近く落ちている。通常は、投票率が落ちるとより強い組織票を持った方が有利だが、台湾のシンクタンク「台湾智庫」の調査によれば、今回の選挙において20~29歳の有権者の投票率は74.5%。そのうち、総統選では、20~29歳の有権者の54.2%が蔡英文候補に投票し、国民党の朱立倫候補には6.4%。30~39歳の投票者のうち、蔡候補には55.5%、朱候補には5.0%だった。若者たちはSNSなどで連絡を取り合い、また広く情報発信をして「帰省して投票しよう」と呼びかけ合って行動した一方、既得権を守る側の中高年層が諦めて投票せず、結果的に投票率は下がったけれど若者票を掴んだ民進党が圧勝する結果になった。若者のエネルギーや明るさ、また純粋さが社会の空気を変え、既得権に染まった古い政党としての国民党を駆逐する力を発揮したと言える。

2.民進党と第三極の選挙協力

 『ひまわり学生運動』の主力になった学生たちは、『時代力量』や、分派した『緑党社会民主党連盟』など、新しい政党を立ち上げた。政策的に近い民進党と協力した政党、そうでない政党があるが、結果的には時代力量が選挙区における候補者調整などの協力を行ったことで、ひまわり学生運動によって燃え上がった『台湾のアイデンティティーを守る』という意識を持った有権者を味方につけることができたように思う。実際には、2014年3月の段階ではひまわり学生運動は民進党とそれほど強く結びついていたわけではない。学生たちは、当時はまだ不人気だった民進党の影が背後に見え隠れすることを望んでいなかったし、民進党関係者も私が知る限り抑制的な行動を取っていた。しかし、反馬政権、反国民党の『国民的合意』は民進党を確実に後押しし、2014年11月29日に行われた地方選挙では民進党が圧勝。今回の躍進に繋がった。

3.カリスマリーダーではない蔡英文氏の人気

 今回の民進党の圧勝は、総統選挙における蔡英文氏の圧倒的人気が立法院選挙の候補者を後押しする結果になった。私が実際に会ったことのあるミャンマーのアウンサンスーチー氏や、ドイツのメルケル首相と比較すると強力なリーダーシップやカリスマ性を持っているわけではない。今回、陳瑩氏の応援に来た蔡英文氏の演説は道路の渋滞などで到着が遅れ聞き逃してしまったが、人々に聞くと学者のような淡々とした演説はあまり面白くなく、支援者を熱狂させる雄弁な政治家ではないようだ。一方、4年前の2012年1月の総統選挙で馬英九総統に惜敗した彼女の敗戦の弁は、大きな感動を与えたと言われている。

「みなさんは泣いてもいいが、落胆してはいけない。悲しんでもいいが、諦めてもいけない。明日からは、また以前の4年間と同じように勇気と希望を持つのです」

 淡々と、しかし確かな信念と強い意志をにじませて語ったとされる演説から、彼女の聡明さや誠実な人柄が広く伝わった。国民の覚醒によって民進党に寄せられたリードを守り切るには彼女のような守りに強いリーダーの方が良かったのかもしれない。

4.楽しい選挙運動が持つエネルギー

 ひまわり学生運動や陳瑩氏の選挙活動に参加して感じたこと、それは活動が楽しく活気にあふれ、清廉さが強く感じられたことだ。ひまわり学生運動では世界各国のデモと同じくレ・ミゼラブルの『民衆の歌』が歌われ、歌手であり、国会で歌を歌って質問したことでも知られる陳瑩氏の歌に原住民を中心とした支援者は喜び、みんなで歌って、踊り高揚感を共有する雰囲気だった。

 若い人々にとって『政治活動が楽しい』というのは重要な要素であり、また彼らが参加することで、若々しいエネルギーが生まれる。国民党に比較すれば若い民進党の候補者が彼らと協力することで生み出したエネルギーが国民にはより魅力的なものに映ったようだ。

原住民出身の候補者・陳瑩氏の歌に合わせて踊る人々 

5.では、日本の野党はどうすればいいのか?

 率直な私の感想を言えば、民進党は自分たちの魅力や政策で政権交代を実現したというより、国民の中国に対する警戒心、稀代の不人気政権であった国民党・馬英九政権の失策、学生たちの運動のエネルギーを結果的に上手く生かしたことが大きいと思う。

 今、安倍政権と自民党の支持率は、いずれも安定し、野党を圧倒している。しかし、私の実感では、よりマシな政権、政党として消極的に支持しているだけであり、野党がだらしないから相対的に高いだけだと思う。実際に、安倍政権の政策は掟破りの中身のものを強引に実行したものが多い。私たちの年金を、株価を釣り上げるために投機的に使うGPIFなどはその典型である。特定秘密保護法や安全保障法制を強行採決したプロセスは、国民から総スカンを喰った馬政権の『両岸サービス協定』のプロセスとそっくりだ。

 我々に必要なことは、自民党には決してできない明確な対立軸を示すことだ。特定の団体や、大企業の利益を守るためではなく、あくまで国民の側に立つ政党であること、若者の可能性を引き出す政党であること、そして、より持続可能性のある政策を実行することを市民社会と共有し、基本的な考えを共有できる野党同士もできる限りの協力をすることではないか。

 野球に例えると、やみくもに一発逆転のホームランを狙うのではなく、信頼という名の実力を少しずつでも高めていくことだ。敵失や四球でもいい、ランナーを出し、進めることによってチャンスは巡ってくる。そこでしっかりタイムリーヒットを打つこと。それが可能かどうかは、結局は日頃の地道な努力の積み重ねに尽きるのではと思う。

 以上は、あくまで今回の台湾の政権交代から学んだことに特化した報告と提案である。



会場に到着した陳瑩氏を迎える支援者たち


演説をする陳瑩氏


陳瑩氏を支援する原住民の方々と


ひまわり学生運動。雨の中、粘り強い活動を続ける学生たち(2014年3月30日)


医学書を読みながらデモに参加していた学生にインタビュー



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