博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2016年5月に読んだ本

2016年06月01日 | 読書メーター
孔子 (角川ソフィア文庫)孔子 (角川ソフィア文庫)感想
著者による『論語』・儒教研究の成果を踏まえた孔子伝。個人的には、本旨からは外れるだろうが、三十歳以降の孔子がそれなりに裕福であったとする「孔子の生活」の項が面白かった。かねがね当時の諸子はどうやって生計を立てていたのかと疑問を持っていたが、その疑問の一部に答えうる内容となっている。
読了日:5月4日 著者:加地伸行

ある歴史家の生い立ち―古史弁自序 (岩波文庫)ある歴史家の生い立ち―古史弁自序 (岩波文庫)感想
疑古派や顧頡剛自身の古史学が形成された背景を確認しようと再読。康有為らの今文学や京劇を含めた民間伝承・民俗学への興味が大きな影響を与えていることを再確認したのはともかく、顧頡剛33歳の時の著作ということで、彼の「厨二」性が感じられたのが意外な発見だった。
読了日:5月6日 著者:顧頡剛

バイエルの謎: 日本文化になった教則本 (新潮文庫)バイエルの謎: 日本文化になった教則本 (新潮文庫)感想
本書ではまず子供用のピアノ教則本としてお馴染みのバイエルがお膝元ドイツはもちろん、日本でも「魔改造」が施されていくことを過程を追っているが、その部分は文献学・版本学的な面白さが味わえる。そして現地での取材により、非実在説すら唱えられていたバイエルの実在を確かめていく過程は、人文学の研究の手法や過程をそのまま描き出しており、その点でも興味深い。人文学的研究法のサンプルの一種として提示するには面白い題材ではないかと思った。
読了日:5月8日 著者:安田寛

興亡の世界史 オスマン帝国500年の平和 (講談社学術文庫)興亡の世界史 オスマン帝国500年の平和 (講談社学術文庫)感想
本書では19世紀以後のオスマン帝国を「近代オスマン帝国」として、オスマン帝国から分離したギリシア・エジプトなどと同じくその後継国家と位置づけ、それ以前の14世紀から18世紀末の500年間を主に扱う。通史的な部分よりも、帝国の官人たちの生活や近世の社会の様子の話の方を面白く読んだ。
読了日:5月15日 著者:林佳世子

台湾とは何か (ちくま新書)台湾とは何か (ちくま新書)感想
ひまわり運動・蔡英文新総統・尖閣&南沙諸島問題など、最近の台湾の政治・外交に関するトピックには一通り触れている。台湾と沖縄を重ね合わせる視点、国民党が対中協調姿勢を示すことで、却って中国が日台関係の構築に文句を言えなくなったこと、中国も「本土化・台湾化」が急速に進む台湾の変化を受け入れたうえで中台関係の再構築をはかっていること、台湾報道に関する朝日新聞の変化(積極的・肯定的に台湾に関する報道を行うようになったこと)など、注目すべき指摘が多い。
読了日:5月17日 著者:野嶋剛

第一次世界大戦史 - 諷刺画とともに見る指導者たち (中公新書)第一次世界大戦史 - 諷刺画とともに見る指導者たち (中公新書)感想
君主や軍・政の指導者の動きを中心に見る第一次世界大戦。前著『黄禍論と日本人』と比べて当時の諷刺画がいまいち生かされていない感じがするのは残念だが、第一次世界大戦へのアプローチとしては新鮮。ヴィルヘルム2世らドイツの指導者のその後と、ヒトラーとの関わりで締めるラストには一抹の哀愁を感じる。
読了日:5月19日 著者:飯倉章

大阪アースダイバー大阪アースダイバー感想
現在の大阪から、過去の(特に古代の)大阪のありようを幻視する試み。漫才がえべっさんにつながり、大阪のおばちゃんがアマテラスにつながりと、まさに「くらげなすただよえる」としか言いようがない内容だが、地理誌としてはこういうのもありかなと。ご多分に漏れず本書の著者も「維新」に関しては色々言いたいことがあるようだが、「維新」への批判は、やはり本書のように大阪の歴史や大阪人の心性から語られねばならないだろう。
読了日:5月20日 著者:中沢新一

中国近代の思想文化史 (岩波新書)中国近代の思想文化史 (岩波新書)感想
「革命思想」を含めた外国の思想をどのように受けれたかという問題やジェンダーに関する問題が中心となっているが、顧頡剛や聞一多といった「国学大師」の活動を時代の全体の流れの中でどう位置づけられているかが個人的な読みどころだった。胡適や傅斯年の例が目立つが、「新中国」成立の前後に台湾を含めて海外に亡命した文化人は存外少ないという指摘が意外。
読了日:5月24日 著者:坂元ひろ子

尼崎百物語 (のじぎく文庫)尼崎百物語 (のじぎく文庫)感想
尼崎市制百周年を記念して、同市に関わる百の昔話を収録。「百物語」とあるが、怪談だけでなく、中国大返しの際に明智光秀の兵に追われた秀吉が寺に逃げ込んで味噌すり坊主に扮した話や、人々のために領主に逆らって命を落とした義民に関する伝承など、普通の昔話や史伝に類するものも取り扱っている。こうした阪神間の地域ごとの歴史や物語を掘り起こすことが、大阪とのつながりとともに地域の独自性を浮き彫りにすることになり、「維新」に対抗する根拠にもなっていくだろう。
読了日:5月27日 著者:

和僑  農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人 (角川文庫)和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人 (角川文庫)感想
雲南省の少数民族の村で暮らすVIPPER、上海でリアル魯智深のような生活を送るやくざ、はたまた上海で現地人と交わらず理想的な日本のサラリーマン社会を営む駐在員一家等々いろんなタイプの中国在住日本人が紹介されているが、共通点はみんな心の奥底で、中国で過去の日本で存在した理想的な日本人らしいくらしを追求していること、そしてそのような生活は中国でも急速に成り立たなくなっているということで、本書は中国版『逝きし世の面影』ではないかと思い当たった。
読了日:5月30日 著者:安田峰俊

ミャンマーの柳生一族 (集英社文庫)ミャンマーの柳生一族 (集英社文庫)感想
「バーレ清盛」のようなネーミングセンスは本作でも健在。今回は軍事政権下のミャンマーに「江戸幕府」を見出す。一見不可能に思える歴史の追体験も、場所と発想次第でいくらでも可能になるという見本みたいな本かもしれない。幕末の日本人が開国に対応できた理由を、各民族が入り乱れてくらすミャンマーの社会から見出す過程が面白い。
読了日:5月30日 著者:高野秀行

大学とは何か (岩波新書)大学とは何か (岩波新書)感想
中世ヨーロッパにおける大学の誕生から、明治日本での大学の設置、そして現代日本の「大学改革」までを総ざらい。18世紀末までに西欧で大学は一旦「死」を迎え、ナポレオン戦争を経たドイツで、大学が新しい形で甦ったこと、学生運動が華やかなりし頃の日本の大学で読書会や自主講義の開催など、中世ヨーロッパの頃の大学の原点に立ち返るような動きがあったと評価できるといった指摘が面白い。ただ、今後大学がどうなるべきかという展望が、著者にももうひとつつかめていないような印象を受けたが…
読了日:5月30日 著者:吉見俊哉

中国文化 55のキーワード中国文化 55のキーワード感想
『テーマで読み解く中国の文化』とコンセプトが似通っており、出版時期・出版社も一緒だが、こちらは長白山天池の怪獣やUFOの目撃証言を取り上げたり、「芸術写真」や「広場舞」をネタにしたりと、より通俗的な文化を取り上げている。『テーマで読み解く~』の方がメインカルチャーを中心に紹介しているので、二つ合わせ読めば中国文化の裏表両面を理解できるということになるだろう。
読了日:5月31日 著者:
コメント
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