博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2017年5月に読んだ本

2017年06月01日 | 読書メーター
日本国憲法の誕生 増補改訂版 (岩波現代文庫)日本国憲法の誕生 増補改訂版 (岩波現代文庫)感想
旧版に続いて再読して強く印象づけられたのは、「頭の良さ」を誇りながら頑迷さゆえに無様に敗北した松本蒸治、粛々とGHQ案の「日本化」を図った佐藤達夫、誰よりも日本の人権状況について問題意識を持っていた「素人」のベアテ・シロタ、「芦田修正」の解釈をめぐって都合良く「自衛戦争合憲論はワシが育てた」と掌を返す芦田均など、「憲法改正」に関わった人間の動きや個性が生き生きと描かれていることである。著者の本意とは異なるだろうが、本書を下敷きにして憲法誕生の映画やドラマを作ると面白い作品になるのではないかと思う。
読了日:05月04日 著者:古関 彰一

プロテスタンティズム - 宗教改革から現代政治まで (中公新書)プロテスタンティズム - 宗教改革から現代政治まで (中公新書)感想
ルターから始まったとされるプロテスタント。その実ルターにはカトリックから分離して新しい宗派を立てるつもりがなかったという話から始まり、ルター派の成立、更なる「宗教改革」を求める洗礼主義の動き、ルター派がドイツで定着して保守的となり、ナチスを支持した経緯、アメリカや日本などでの展開などをコンパクトにまとめている。内容としてはドイツでの展開が占める比重が大きいが、ドイツの大統領に期待される役割、アメリカのプロテスタンティズムとの比較など面白く読んだ。
読了日:05月06日 著者:深井 智朗

モラルの起源――実験社会科学からの問い (岩波新書)モラルの起源――実験社会科学からの問い (岩波新書)感想
社会科学の文脈で議論される「共有地の悲劇」や公平な分配といった問題が、動物と人間との比較や心理学的な実験を通して議論されている。「最後通告」ゲームによる実験から、市場経済の論理が浸透している社会ほど公平な分配がなされやすいという指摘など、個別の項目に関しては面白い話題が多いが、全体的には著者の言う「実験社会科学」の中間報告という感じがする。
読了日:05月08日 著者:亀田 達也

『レ・ミゼラブル』の世界 (岩波新書)『レ・ミゼラブル』の世界 (岩波新書)感想
著者ユゴーの生涯や主張と絡ませつつ『レ・ミゼラブル』を読み解く。ユゴー自身の政治的立場が王党派から始まってボナパルト主義、七月王政支持、共和主義といったように幾度も変転を経ていること、特にナポレオン1世と3世への評価の変転が、ジャン・ヴァルジャンの人生をナポレオン1世と重ね合わせる(二人は同年の生まれという設定になっている)など、作品に強い影響を及ぼしていることを指摘する。小説家の人生・人格と作品そのものの関係について時々議論がなされることがあるが、本書を読むと簡単に切り離せないものではないかと感じる。
読了日:05月10日 著者:西永 良成

現代中国入門 (ちくま新書1258)現代中国入門 (ちくま新書1258)感想
中国の歴史・現代文化・対外政策・国防・尖閣問題・台湾等々専門の研究者が各項目について語るというオムニバスだが、ここに書き切れないほど示唆に富む議論が多い。書店でケント・ギルバートの新書の隣にしれっと並べて欲しい一冊。ただ、経済政策や少数民族問題など触れられていない事項も多々残されているので、是非とも第二弾を期待したい。
読了日:05月13日 著者:光田 剛,鈴木 将久,佐藤 賢,池上 善彦,坂元 ひろ子,中島 隆博,毛利 亜樹,杉浦 康之,井上 正也,丸川 哲史,仲里 効

わかる仏教史 (角川ソフィア文庫)わかる仏教史 (角川ソフィア文庫)感想
中国仏教や日本仏教などについても一通りのことは説明しているが、インドでの仏教誕生と展開がメインの通史。タイトル通り簡潔でわかりやすいが、龍樹の評価はそれでいいのだろうかという疑問も。聖徳太子とアショーカ王との比較で、アショーカ王が権力者の義務を強調しているのに対し、聖徳太子は憲法十七条で家臣の義務しか説いていないという指摘は、昨今の憲法をめぐる議論で示唆されるものがある。
読了日:05月16日 著者:宮元 啓一

『日本書紀』の呪縛 シリーズ<本と日本史>1 (集英社新書)『日本書紀』の呪縛 シリーズ<本と日本史>1 (集英社新書)感想
『日本書紀』の成立と権威化、そして『日本書紀』を前提とした、氏族・寺院単位による『古語拾遺』『先代旧事本紀』などの反国史・加国史の登場について論じる。我々はそろそろ『日本書紀』の規定する枠組みから離れて自由に歴史を語ってもよいのではないかという著者の主張は、個人的には『史記』の枠組みから離れて中国古代史を語れるかという課題とも重なる。
読了日:05月18日 著者:吉田 一彦

万葉集から古代を読みとく (ちくま新書1254)万葉集から古代を読みとく (ちくま新書1254)感想
著者自身が「普通の入門書ではない」と言っているように『万葉集』をめぐる雑感に近い構成だが、第四章の歌木簡の用途と、類似の「逸歌」がたくさん存在したのではないかという想定、第八~九章の歌と歌集・日記・物語との関係をめぐる話、大伴家持の「未使用歌」の話を面白く読んだ。『竹取物語』については、従来の多数の仙女が一人の男と結婚するというハーレム系の物語であった竹取翁の話を逆転させ、多数の男が一人の仙女を取り合ってしかも結婚が成立しないという設定が当時受けたのではないかと思ったが…
読了日:05月19日 著者:上野 誠

浄土真宗とは何か - 親鸞の教えとその系譜 (中公新書)浄土真宗とは何か - 親鸞の教えとその系譜 (中公新書)感想
親鸞は新しい宗派を建てたというつもりがなく、自分が属した天台宗の延長で宗教活動を行ったこと、近代に入って西欧の宗教改革との対比で鎌倉新仏教の一派として評価されるようになったこと、親鸞の信仰のあり方にも揺れがあったこと、妻の恵信尼や長男の善鸞らも親鸞の主張を完全に理解していたかというと疑問があることなどを、史料の読解を通じて解き明かしていく。後代の評価と当時の実像との違いや「理想化」の過程を考えるうえで面白い題材となっている。
読了日:05月22日 著者:小山 聡子

鏡が語る古代史 (岩波新書)鏡が語る古代史 (岩波新書)感想
中国古代の銅鏡について、紋様とともに特に銘文の内容に注目する。銘文に引かれている詩句と文献に見える詩との照合が可能であることや、前一世紀の鏡に「中国」の語が見えること、その他銘文から読み取れる思想の話が興味深い。中盤以降はひたすら鏡工の変遷が語られるが、それすらも退屈どころか面白く、終盤にはそれが三角縁神獣鏡の制作地の話につながっていく。単なる飾りかと思われた銅鏡の銘文も史料としてまじめに読み込めば様々なことが読み取れるのだと感服した。
読了日:05月23日 著者:岡村 秀典

万葉びとの宴 (講談社現代新書)万葉びとの宴 (講談社現代新書)感想
著者の近著『万葉集から古代を読みとく』の大伴家持が宴に備えて和歌を準備していたという話が面白かったので、こちらも読んでみることに。ひたすら宴会の場で詠まれた和歌の話が続くが、当時の機知とかコミュニケーションのあり方というか「空気の読み方」が窺い知れて面白い。
読了日:05月26日 著者:上野 誠

物語 オランダの歴史 - 大航海時代から「寛容」国家の現代まで (中公新書 2434)物語 オランダの歴史 - 大航海時代から「寛容」国家の現代まで (中公新書 2434)感想
オランダでは既存の語をつなぎ合わせる形で学術用語を造語していたが、それが蘭学を通じて日本での学術用語の訳出に大きな影響を与えたこと、ナポレオンの弟ルイ・ボナパルトがオランダ国王として船舶の爆発事故に適切な処置を採り、「被災者の父」と国民から慕われたこと、近代オランダが「柱状社会」と形容される強固な縦割り社会であったことから、ナチスに類するファシズム政党が根付かなかったという指摘などが面白い。
読了日:05月30日 著者:桜田 美津夫

コメント
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