「連動」する世界史――19世紀世界の中の日本 (シリーズ 日本の中の世界史)の感想
開国から日清・日露戦争までの日本史を世界史の中に位置づける試み。1848年革命やクリミア戦争が東アジアに緊張緩和をもたらしたと見るなど、世界の他の地域での戦争や動乱が開国・維新の動きとどう結びついていたかなど、世界各地の動きと日本の動きを有機的に結びつけることに成功している。特に「東アジアのバルカン化」やボスニア・ヘルツェゴヴィナ併合と韓国併合との連動のように、東アジアとバルカンとを対比する視点が独特。
読了日:02月01日 著者:南塚 信吾
縄文時代の歴史 (講談社現代新書)の感想
「縄文時代」の生活・文化には時期差・地域差があり、単一の画一的な文化が長期間にわたって続いたわけではないという視点からの縄文時代史。クリの植栽・管理を農耕と位置づけられるかという話、極点に少ない人口によって担われた文化であるため、ある地域で一旦階層が成立しても階層社会が持続しないといったように、社会の複雑化が一直線に進行していったわけではないという話などを面白く読んだ。
読了日:02月03日 著者:山田 康弘
ファン・ボイ・チャウ: 民族独立を追い求めた開明的志士 (世界史リブレット人)の感想
日本では20世紀初めの東遊運動の主導者として知られるファン・ボイ・チャウだが、長い「余生」にあたる日本を出てからの動き(没年は1940年とのこと)や、中国の革命運動との関係、社会主義や儒教に対するスタンスといった思想面、についても詳述し、ホー・チ・ミンやヴォー・グエン・ザップら次の「革命世代」への継承を展望している。
読了日:02月04日 著者:今井 昭夫
近現代日本史との対話 【幕末・維新─戦前編】: 【幕末・維新─戦前編】 (集英社新書)の感想
日本近現代史の展開をシステムの交替という視点から読み解く。前編となる今巻は幕末から1930年代までの国民国家の形成、帝国主義化の達成、全体主義化の過程を追う。「万歳」の誕生、文明化と衛生・不潔観との関係など、近代化と身体性を結びつける記述が印象的。
読了日:02月08日 著者:成田 龍一
江戸の思想闘争 (角川選書)の感想
メインの贈与論をかました議論は正直江戸の思想という題材にあまりうまくはまっているように見えないのだが、日本が中国から漢字を借りたということに対して、本居宣長がそれを余計な借りだと考えていたという話は面白い。「漢意」を剥ぎ取っていけば日本固有の文化が見えてくるという宣長に対し、藤貞幹が、それは実は日本固有の文化ではなく韓から伝わった文化であると主張するが、それに対する宣長の反論に、彼の狼狽ぶりや中国と韓に対する異なる態度が見えるという話が、国学の闇の部分を掘り起こしているようで面白い。
読了日:02月10日 著者:山 泰幸
資治通鑑 (ちくま学芸文庫)の感想
『資治通鑑』の中から晋の智氏の滅亡、後漢末の党錮の禁、侯景の乱、安史の乱と、勢力・国家の滅亡や衰退に関係する四部分を講読する。各部分の典拠の問題に加え、随所でそれぞれの時代特有の語彙や語法の問題も指摘しており、『資治通鑑』の面白さとともにこれを読み通すことの難しさを伝える講読ともなっている。
読了日:02月17日 著者:司馬 光
「抗日」中国の起源 (筑摩選書)の感想
タイトルにある「抗日」中国や五四運動を主題とすると見せかけて、最終的には初等教育に力を入れたと日本と高等教育に力を入れた中国という話に収斂していくという、何だかよくわからない構成の日中交流論。「孔子の道」による徳育と目上の人間への服従を説く嘉納治五郎に対する楊度ら中国人留学生の反発など、辛亥革命の前後の日本側と中国人留学生との間のボタンの掛け違いの話を面白く読んだ。
読了日:02月17日 著者:武藤 秀太郎
君が代の歴史 (講談社学術文庫)の感想
「君が代」は元来年寿を賀した歌であり、その対象は天皇に限ったものではなく、祝いの場での歌として近世まで連綿と受け継がれ、近代に入って「自然の勢い」により事実上の国歌としての地位を得たという主旨であるが、その主張通り「君が代」が原義をそう外さず伝承されてきたのならば、なぜこのような本が書かれなければならなかったのだろうか?解説で多少フォローはされているが、明治以後の「君が代」の展開にも触れられるべきであっただろう。
読了日:02月20日 著者:山田 孝雄
ナポレオン四代-二人のフランス皇帝と悲運の後継者たちの感想
主人公はナポレオン1世と3世及びその息子たちだが、前史・後史含めて広くボナパルト一族氏となっている。1840年頃のフランス政界にはボナバルティスムは死んだという楽観論が広まっていたが、そこから民衆の大きな支持を得てナポレオン3世の政権が成立したこと、そしてその息子ナポレオン4世在世時まではボナパルト派がフランス政界で一定の勢力を保持していたことを踏まえると、現代史が過去の歴史となるには思いのほか長い時間を要するのだなと感じた。
読了日:02月22日 著者:野村 啓介
はじめての経済思想史 アダム・スミスから現代まで (講談社現代新書)の感想
アダム・スミスからハイエク、フリードマンまで、所有者が経済の主役から退き、新たに冨を託された者が主役となっていくという観点からの経済思想史。「革命家」としてではなく「所有」を問い直した者としてマルクスを積極的に評価し、フリードマンの市場による自由競争が差別問題などあらゆる問題を解決に導くという「市場主義」を厳しく批判しているのが面白い。
読了日:02月25日 著者:中村 隆之
渡来人と帰化人 (角川選書 614)の感想
従来の帰化人・渡来人の用語の妥当性をめぐる議論は、いずれも現代人の立場から「われわれの祖先」をめぐるもので、日本への同化を暗黙の前提としてきたと批判。古代にあっては渡来人とは別個に、まず天智・天武の時代に日本型中華思想による世界観の中で、百済・高句麗の遺民として帰化人として位置づけられ、平安期には更に渡来商人が帰化人と位置づけられるようになったと論ずる。著者は更に尊王攘夷論や内地雑居論にまで話を広げるが、それには日本型中華思想の展開を追うことが必要になるだろう。
読了日:02月25日 著者:田中 史生
東アジア仏教史 (岩波新書 新赤版 1758)の感想
中国・朝鮮半島・日本・ベトナムといった漢字文化圏での「漢字仏教」の展開の簡潔かつ良いまとめとなっている。全体的に東アジアの中での日本仏教の位置づけを意識した記述となっている。仏教経典の恋愛・性的描写の中国文学に与えた影響、隋の仏教復興と日本での仏教信仰開始の関係などを面白く読んだ。
読了日:02月28日 著者:石井 公成
開国から日清・日露戦争までの日本史を世界史の中に位置づける試み。1848年革命やクリミア戦争が東アジアに緊張緩和をもたらしたと見るなど、世界の他の地域での戦争や動乱が開国・維新の動きとどう結びついていたかなど、世界各地の動きと日本の動きを有機的に結びつけることに成功している。特に「東アジアのバルカン化」やボスニア・ヘルツェゴヴィナ併合と韓国併合との連動のように、東アジアとバルカンとを対比する視点が独特。
読了日:02月01日 著者:南塚 信吾
縄文時代の歴史 (講談社現代新書)の感想
「縄文時代」の生活・文化には時期差・地域差があり、単一の画一的な文化が長期間にわたって続いたわけではないという視点からの縄文時代史。クリの植栽・管理を農耕と位置づけられるかという話、極点に少ない人口によって担われた文化であるため、ある地域で一旦階層が成立しても階層社会が持続しないといったように、社会の複雑化が一直線に進行していったわけではないという話などを面白く読んだ。
読了日:02月03日 著者:山田 康弘
ファン・ボイ・チャウ: 民族独立を追い求めた開明的志士 (世界史リブレット人)の感想
日本では20世紀初めの東遊運動の主導者として知られるファン・ボイ・チャウだが、長い「余生」にあたる日本を出てからの動き(没年は1940年とのこと)や、中国の革命運動との関係、社会主義や儒教に対するスタンスといった思想面、についても詳述し、ホー・チ・ミンやヴォー・グエン・ザップら次の「革命世代」への継承を展望している。
読了日:02月04日 著者:今井 昭夫
近現代日本史との対話 【幕末・維新─戦前編】: 【幕末・維新─戦前編】 (集英社新書)の感想
日本近現代史の展開をシステムの交替という視点から読み解く。前編となる今巻は幕末から1930年代までの国民国家の形成、帝国主義化の達成、全体主義化の過程を追う。「万歳」の誕生、文明化と衛生・不潔観との関係など、近代化と身体性を結びつける記述が印象的。
読了日:02月08日 著者:成田 龍一
江戸の思想闘争 (角川選書)の感想
メインの贈与論をかました議論は正直江戸の思想という題材にあまりうまくはまっているように見えないのだが、日本が中国から漢字を借りたということに対して、本居宣長がそれを余計な借りだと考えていたという話は面白い。「漢意」を剥ぎ取っていけば日本固有の文化が見えてくるという宣長に対し、藤貞幹が、それは実は日本固有の文化ではなく韓から伝わった文化であると主張するが、それに対する宣長の反論に、彼の狼狽ぶりや中国と韓に対する異なる態度が見えるという話が、国学の闇の部分を掘り起こしているようで面白い。
読了日:02月10日 著者:山 泰幸
資治通鑑 (ちくま学芸文庫)の感想
『資治通鑑』の中から晋の智氏の滅亡、後漢末の党錮の禁、侯景の乱、安史の乱と、勢力・国家の滅亡や衰退に関係する四部分を講読する。各部分の典拠の問題に加え、随所でそれぞれの時代特有の語彙や語法の問題も指摘しており、『資治通鑑』の面白さとともにこれを読み通すことの難しさを伝える講読ともなっている。
読了日:02月17日 著者:司馬 光
「抗日」中国の起源 (筑摩選書)の感想
タイトルにある「抗日」中国や五四運動を主題とすると見せかけて、最終的には初等教育に力を入れたと日本と高等教育に力を入れた中国という話に収斂していくという、何だかよくわからない構成の日中交流論。「孔子の道」による徳育と目上の人間への服従を説く嘉納治五郎に対する楊度ら中国人留学生の反発など、辛亥革命の前後の日本側と中国人留学生との間のボタンの掛け違いの話を面白く読んだ。
読了日:02月17日 著者:武藤 秀太郎
君が代の歴史 (講談社学術文庫)の感想
「君が代」は元来年寿を賀した歌であり、その対象は天皇に限ったものではなく、祝いの場での歌として近世まで連綿と受け継がれ、近代に入って「自然の勢い」により事実上の国歌としての地位を得たという主旨であるが、その主張通り「君が代」が原義をそう外さず伝承されてきたのならば、なぜこのような本が書かれなければならなかったのだろうか?解説で多少フォローはされているが、明治以後の「君が代」の展開にも触れられるべきであっただろう。
読了日:02月20日 著者:山田 孝雄
ナポレオン四代-二人のフランス皇帝と悲運の後継者たちの感想
主人公はナポレオン1世と3世及びその息子たちだが、前史・後史含めて広くボナパルト一族氏となっている。1840年頃のフランス政界にはボナバルティスムは死んだという楽観論が広まっていたが、そこから民衆の大きな支持を得てナポレオン3世の政権が成立したこと、そしてその息子ナポレオン4世在世時まではボナパルト派がフランス政界で一定の勢力を保持していたことを踏まえると、現代史が過去の歴史となるには思いのほか長い時間を要するのだなと感じた。
読了日:02月22日 著者:野村 啓介
はじめての経済思想史 アダム・スミスから現代まで (講談社現代新書)の感想
アダム・スミスからハイエク、フリードマンまで、所有者が経済の主役から退き、新たに冨を託された者が主役となっていくという観点からの経済思想史。「革命家」としてではなく「所有」を問い直した者としてマルクスを積極的に評価し、フリードマンの市場による自由競争が差別問題などあらゆる問題を解決に導くという「市場主義」を厳しく批判しているのが面白い。
読了日:02月25日 著者:中村 隆之
渡来人と帰化人 (角川選書 614)の感想
従来の帰化人・渡来人の用語の妥当性をめぐる議論は、いずれも現代人の立場から「われわれの祖先」をめぐるもので、日本への同化を暗黙の前提としてきたと批判。古代にあっては渡来人とは別個に、まず天智・天武の時代に日本型中華思想による世界観の中で、百済・高句麗の遺民として帰化人として位置づけられ、平安期には更に渡来商人が帰化人と位置づけられるようになったと論ずる。著者は更に尊王攘夷論や内地雑居論にまで話を広げるが、それには日本型中華思想の展開を追うことが必要になるだろう。
読了日:02月25日 著者:田中 史生
東アジア仏教史 (岩波新書 新赤版 1758)の感想
中国・朝鮮半島・日本・ベトナムといった漢字文化圏での「漢字仏教」の展開の簡潔かつ良いまとめとなっている。全体的に東アジアの中での日本仏教の位置づけを意識した記述となっている。仏教経典の恋愛・性的描写の中国文学に与えた影響、隋の仏教復興と日本での仏教信仰開始の関係などを面白く読んだ。
読了日:02月28日 著者:石井 公成