博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2020年9月に読んだ本

2020年10月01日 | 読書メーター
カエサル――内戦の時代を駆けぬけた政治家 (岩波新書)カエサル――内戦の時代を駆けぬけた政治家 (岩波新書)感想
文献の記述が乏しいとしつつも、カエサルの家系や前半生について時代背景などを盛り込みつつ膨らましている点、カエサルの著書『ガリア戦記』『内乱記』の特徴や問題点に一章分を割いていること、ガリアでの略奪など彼の汚点にも触れている点を除けば、新味に乏しいが手堅い評伝としてまとまっている。ユリウス暦採用に関する背景なども面白い。
読了日:09月02日 著者:小池 和子

ローマ史再考: なぜ「首都」コンスタンティノープルが生まれたのか (NHKブックス 1265)ローマ史再考: なぜ「首都」コンスタンティノープルが生まれたのか (NHKブックス 1265)感想
一言でまとめれば、コンスタンティノープルが建設されてから(東)ローマ帝国の首都としての地位を確立するまでの経緯をまとめた本なのだが、軍人皇帝時代には皇帝の移動に伴って宮廷も移動していたこと、皇帝が戦線に出ずに後方で勝利を神に祈る存在になるという、軍事王から祭祀王的な存在になることで、コンスタンティノープルが都として定まっていったこと、西ローマ帝国の滅亡は、あくまでローマが皇帝を擁立することをやめたのを示すにすぎないなど、啓発性に富む議論が多い。
読了日:09月04日 著者:田中 創

性からよむ江戸時代――生活の現場から (岩波新書)性からよむ江戸時代――生活の現場から (岩波新書)感想
一茶と幼妻菊との関係、隣家同士で結婚した若夫婦の離婚騒動、お産に立ち会う医者や産婆等々の具体事例から、下々の性意識と、お上の出産・妊娠管理政策を読み解いていき、現在の日本で広まっている「江戸時代は性におおらかであった」というイメージに対して疑問を投げかける。近代化によって性に対して抑圧的になったという断絶性のみに注目しないという視点が面白い。
読了日:09月06日 著者:沢山 美果子

中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本 (星海社新書)中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本 (星海社新書)感想
中国での新型コロナにまつわるITの活用例を、キャッシュレス決裁、オンライン教育、デリバリー、医療など分野別に挙げ、これを日本で生かすには……とまとめを入れていく構成。中国のIT活用にも段階があったこと、アリババとテンセント、アリババと京東など、企業間の競争が機能していること、日本で妙な持ち上げ方をされているCT検査は、AIや5Gと連動することで効果を発揮していることなどをまとめている。
読了日:09月07日 著者:山谷 剛史

生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866)生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866)感想
中公新書の『ビザンツ帝国』がやや専門的と感じたので、入門としてこちらも読んでみることに。コンスタンティヌス1世から始まって、ユスティニアヌス1世、ヘラクレイオス、アレクシオス1世、マヌエル2世など、要点となる皇帝とその事績が中心で読みやすい。帝国が表面上伝統や建前を重視してみせつつ、実質的には「脱皮」を繰り返して一千年間生き延びてきたことを肯定的にとらえる。
読了日:09月09日 著者:井上 浩一

武漢日記: 封鎖下60日の魂の記録武漢日記: 封鎖下60日の魂の記録感想
今年の旧正月から60日間、武漢での封鎖生活の記録。当面の食料確保や不確かな情報の流通で右往左往しつつも、お互いに助け合う様子、そしてネットでの中傷や通報にさらされ、ブログが削除されたり閉鎖つつも、しつこくしつこく発信し続ける様子を記録する。中国のネットの言論の状況、「公式見解」に沿わない方向の政治的発言が悪意にさらされるというのは、実は日本もそう変わらないのではないかと思わせられる。
読了日:09月13日 著者:方方

シルクロード世界史 (講談社選書メチエ)シルクロード世界史 (講談社選書メチエ)感想
著者の専門であるソグド、ウイグルを中心としつつも、扱う時間幅を紀元前まで広げ、かつ日本との繋がりにも言及する。個人的には、本編のシルクロード矮小化に対する反論や唐代の「胡」はソグドを指すという議論のほか、序章での歴史学の三分類、理科系的歴史学・文科系的歴史学・歴史小説という区分の提示や、第一章で近年の批判的論調を踏まえつつも「四大文明」概念を再評価し、これをもって「西洋中心史観」に対抗しようという発想を面白く読んだ。
読了日:09月15日 著者:森安 孝夫

杜甫 (岩波新書)杜甫 (岩波新書)感想
杜甫の詩を読み解くというよりは、詩から杜甫の人生を読み解くという方向。才気煥発だったらしい少年時代、李白への半ば片思いのような敬慕、そして諧謔をまじえて描き出される窮乏と流浪。詩を切り出された断片として読むのではなく、詩人の人生という文脈から読む面白さを教えてくれる。
読了日:09月17日 著者:川合 康三

明の太祖 朱元璋 (ちくま学芸文庫)明の太祖 朱元璋 (ちくま学芸文庫)感想
朱元璋の生涯のうち、明王朝成立までの前半生にかなりの紙幅を割いているという印象。疎まれても疎まれても郭子興を支え続けた青年時代から、劉基・宋濂ら江南の知識人に啓発されて自らも儒教的素養を身につけていくも、生え抜きの裏切り、知識人への不信から、「恐怖政治」に邁進していく様子を描く。ひとりで聖賢・豪傑・盗賊の三要素を兼ね備えていたとされる朱元璋、一般的なイメージとは遠そうな「聖賢」の部分も、暴君という通俗的なイメージと重ねつつうまく描き出せている。
読了日:09月19日 著者:檀上 寛

戦国の忍び (角川新書)戦国の忍び (角川新書)感想
近年の忍者関係の論著を読み、忍者なるものは存在しないと思っていたが、本書によると「忍び」と位置づけられる人々は実在していたようだ。「悪党」すなわちアウトローに出自し、野武士(野伏、野臥)と重なり、当時の編成では足軽の一部とされ、昼の合戦に対して夜の忍び合戦を担った人々ということになるようだ。これを伊賀、甲賀、風魔など著名な事例を含めて史料を読み解き、明らかにしていくのが読みどころ。これまでの盲点を拾い上げるような議論で面白い。
読了日:09月23日 著者:平山 優

万葉集講義-最古の歌集の素顔 (中公新書 2608)万葉集講義-最古の歌集の素顔 (中公新書 2608)感想
もっとも日本的で、もっとも中国的であるという『万葉集』について、その成り立ちや構造を中心に概説する。広く漢字文化とは何か?そして日本での漢字文化の広がりはどのように進行したのか?という問いを意識した書となっている。『万葉集』そのものや短歌に興味がある人だけでなく、日本への漢字の伝来、漢字文化の形成と広まりに関心がある人にも得る所が多い内容となっている。
読了日:09月25日 著者:上野 誠

韓国社会の現在-超少子化、貧困・孤立化、デジタル化 (中公新書 (2602))韓国社会の現在-超少子化、貧困・孤立化、デジタル化 (中公新書 (2602))感想
少子化、年金制度など老後の生活の不安、キャッシュレスや住民登録番号など各分野での電子化、過酷な受験競争、ジェンダー、韓国社会が置かれている様々な問題を、対岸の火事としてではなく、日本も直面している、あるいはこれから直面するであろう問題として読み解く。アジア通貨危機によって、女性の進学や就職に対する意識が激変したという話が印象的。我々は同様の危機に直面して変われるのだろうか?
読了日:09月28日 著者:春木 育美

コメント
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