博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2021年1月に読んだ本

2021年02月01日 | 読書メーター
古代マヤ文明-栄華と衰亡の3000年 (中公新書)古代マヤ文明-栄華と衰亡の3000年 (中公新書)感想
人骨に着目した分析が特色。移民や戦争の跡をどう読み取るかなど、マヤ文明に限らず考古学全般に通用する議論が多い。所々で触れられる遺跡の保全や認知度の向上の問題もそれらに含まれるだろう。最後の第9章で紹介される歯牙装飾の分類や頭蓋変形の分析はアプローチとして面白い。
読了日:01月01日 著者:鈴木 真太郎

物語 東ドイツの歴史-分断国家の挑戦と挫折 (中公新書)物語 東ドイツの歴史-分断国家の挑戦と挫折 (中公新書)感想
親分格としてソ連が存在しつつも常に西ドイツと向き合わざるを得ない立場の東ドイツ。しばしば対ソ従属よりも対西独の方が重要かつ深刻な問題となる。その矛盾やバランスに悩まされた40年間ということになるだろうか。国内では、国民は恒常的な物資不足に対応するために「共助」を迫られ、政府は正確な情報を国民に伝えるという発想に乏しく、精神論を振り回すばかり。官僚はルーティンワークをこなすだけで、政治責任をとる者は存在しない。国家の類型として、今の日本国のあり方にも何某かの示唆を与えてくれそうである。
読了日:01月03日 著者:河合 信晴

ドイツ統一 (岩波新書)ドイツ統一 (岩波新書)感想
ドイツ統一の過程を東西ドイツの国内と国外双方(三方)からの視点で描いているが、統一に際して過去の「強大」であったドイツの歴史的な記憶が呼び覚まされ、近隣諸国あるいはアメリカやイスラエルから反発や懸念が出されているのが面白い。結語で著者がまとめるように、近代ドイツは確かにナポレオンの時代以来戦争とともにあったのである。
読了日:01月05日 著者:アンドレアス・レダー

中国奇想小説集: 古今異界万華鏡中国奇想小説集: 古今異界万華鏡感想
六朝の志怪小説から『聊斎志異』などの清代の小説まで中短編のアンソロジー。『桃花源』『枕中記』『白娘子永えに雷峰塔に鎮めらるること』など各時代の代表的な作品を収録するとともに、六朝志怪が唐代伝奇に発展するとともに、以後の時代も志怪小説と伝奇小説の二つの流れがそれぞれ続いていることを示すような構成となっている。各篇に挿入される井波氏の解説もよい。
読了日:01月07日 著者:

中東政治入門 (ちくま新書)中東政治入門 (ちくま新書)感想
中東が特殊、例外的な地域であるという見方をなるべく排した中東政治論。国家・独裁・紛争・石油・宗教と項目別に見ていくが、「宗教」の章では宗派の違いが政治対立の原因となっているのではなく、政治対立が宗派対立を惹起するという主張に納得。また「独裁」の章でのなぜ権威主義体制が持続するのかという議論は、中東諸国というよりは日本や中国のことを議論しているのではないかと錯覚させられる部分もある。中東地域の固有性とともに、他の地域との共通性をしっかり見据えるというスタンスが非常に良い。
読了日:01月09日 著者:末近 浩太

『孫子』―解答のない兵法 (書物誕生―あたらしい古典入門)『孫子』―解答のない兵法 (書物誕生―あたらしい古典入門)感想
『孫子』の受容史、作品世界の講読ともに『孫子』の解説としてはかなり風変わり。日本では江戸時代まで兵書としては『六韜』『三略』の方がよく読まれていたとか、西洋での受容も近代日本と関連付けられる形であったという指摘が面白い。講読の部分も『群書治要』に引かれたものとか西夏語訳とか、受容のあり方を意識したものとなっている。
読了日:01月11日 著者:平田 昌司

中国の歴史7 中国思想と宗教の奔流 宋朝 (講談社学術文庫)中国の歴史7 中国思想と宗教の奔流 宋朝 (講談社学術文庫)感想
通史とともに思想史・文化史の部分に多くの紙幅を割き、中国にとって、あるいは日本にとって宋とはどういう存在かを描き出す。士大夫の振る舞いや考え方に対しては皮肉も織り交ぜられているが、文化面全般に対してはリスペクトされている。著者の専門である思想・宗教とともに、第七章・第八章で分野ごとの文化の発展や様相についてまとめられているのがよい。
読了日:01月16日 著者:小島 毅

動物園・その歴史と冒険 (中公新書ラクレ, 713)動物園・その歴史と冒険 (中公新書ラクレ, 713)感想
第1章で前近代の王侯による動物コレクションについて概述し、第2章以降は近現代の動物園の歴史へと移るが、動物園が所有者の富と威信と結びつき、支配を現す場であること、そして「ノアの箱船」を体現するなどの思想性が込められていることは、近現代に至っても変わらなかったということが見えてくる。また「かわいそうな象」のような状況は過去の話ではなく、世界各地での紛争によって再現され、そしてコロナ禍によっても再現されつつあるという。人間の自然観、世界観が表れた場として、動物園に対する視点を提示している。
読了日:01月22日 著者:溝井 裕一

中国の歴史書―中国史学史 (刀水歴史全書 20)中国の歴史書―中国史学史 (刀水歴史全書 20)感想
『尚書』から康有為・梁啓超まで、史書の解題で辿る中国史学史。取り上げる書は正史が多いが、『漢書』を範とする紀伝体の断代史以外の正史の方向性はあり得なかったのか?という疑問、問題意識が窺える。『文史通義』に意外と厳しい評価を下すなど、史書に対する個別の論評も面白い。民国史学への評価など、異論を挟みたくなる部分もあるが……
読了日:01月24日 著者:増井 経夫

フランクリン・ローズヴェルト-大恐慌と大戦に挑んだ指導者 (中公新書, 2626)フランクリン・ローズヴェルト-大恐慌と大戦に挑んだ指導者 (中公新書, 2626)感想
女性関係やポリオのことも含めたプライベート、政治家になるまでの経緯、ニューディール、そして第二次大戦と過不足のない構成。ニューディールが一貫性、体系性を欠き、大戦前にローズヴェルト不況を引き起こすなど、結局は大恐慌を克服できなかったものの、芸術への支援も行っていたというのは面白い。当初ユダヤ人難民の受け入れに消極的であったことや、その不当さを知りつつも日系人の強制収容を進めざるを得なくなったことなど、人種政策面での限界にも触れている。
読了日:01月26日 著者:佐藤 千登勢

上杉鷹山 「富国安民」の政治 (岩波新書, 新赤版 1865)上杉鷹山 「富国安民」の政治 (岩波新書, 新赤版 1865)感想
副題にある鷹山の改革の理念「富国安民」をめぐる議論が面白い。「富国安民」とは漢語の「富国強兵」から派生したというか読み替えたものだが、「民利」「民富」に重点を置いたものであり、富国強兵の国家構想とは一線を画するものであるという。しかし近代日本は富国強兵策を採用し、鷹山の改革もその先蹤と認識されるようになる。そうした「歴史認識」を問題とし、また現代の富国論にも疑問を投げかけている。
読了日:01月27日 著者:小関 悠一郎

大航海時代の日本人奴隷-増補新版 (中公選書 116)大航海時代の日本人奴隷-増補新版 (中公選書 116)感想
旧版からの再読。新版では補章を加え、イエズス会と奴隷貿易との関わり、朝鮮出兵によって発生した朝鮮人奴隷の存在などを議論する。年季奉公も含めた、日本でいう「奉公」がヨーロッパ人で奴隷契約ととらえられたが、当事者も含めて日本人はそのような理解をしていなかったという議論が興味深い。この「奴隷」をめぐる認識の齟齬が慰安婦問題など、現代に至るまで重大な影響を及ぼしているのではないか。
読了日:01月29日 著者:ルシオ・デ・ソウザ,岡 美穂子

古代日本語発掘 (読みなおす日本史)古代日本語発掘 (読みなおす日本史)感想
タイトルのうち「発掘」に重点を置いたような内容。日本史における古文書の「発掘」のような営みが古代の国語学においても存在しているようである。著者が専門とするのが訓点資料ということで、ヲコト点の諸相や仮名の変化について話題にしており、「古代日本語」という言葉からイメージしたものとはかなり違っていたが、これはこれで面白い。
読了日:01月31日 著者:築島 裕

コメント
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