教養の人類史 ヒトは何を考えてきたか? (文春新書 1431)の感想
日本古代史に関する一般書を発表してきた著者がこのタイトルでどういう内容を書いているのかに興味を持って手に取った。勤務先の短大での講義内容が中心ということだが、「知の巨人」を取っかかりにして人類の進化から新型コロナまで、文学、歴史、哲学、宗教等々幅広い分野にわたって学ぶべき教養へと導いている。古典から最近話題になった本まで様々な本を取り上げているので、ブックガイドとしても使えそうである。
読了日:11月01日 著者:水谷 千秋
歴史と文学のはざまで 唐代伝奇の実像を求めて (東方選書61)の感想
序章で中国では古来文字による記録は〈実録〉として読まれ、『桃花源記』などもフィクションとして読まれなかったというようなことが述べられているのだが、それではそういうものを書く層は他人の手による文字記録を物語として読まなかったのだろうか?序章での議論を大いに疑問である。本編で訳出される唐人伝奇にも「たんなる怪異譚と馬鹿にできようか」という一文があるが、これは伝奇を「たんなる怪異譚と馬鹿」にする立場も一定程度存在したことを示すのではないだろうか?
読了日:11月03日 著者:高橋文治
ケマル・アタテュルク-オスマン帝国の英雄、トルコ建国の父 (中公新書 2774)の感想
文字改革などの施策についてはこれまで過大に評価されてきた面があるようで、その裏返しで独裁者という評価も権威主義的な傾向は否めないにしても、現代のエルドアンなんかと比べると、当時の法的権限の制限や複数政党制も視野に入れていた点などから、やはり過大評価となるようである。また本書では公定歴史学の導入、太陽言語理論の提唱など、その施策の負の面についても言及されている。キャリアの初期において軍事的英雄として評価された点や後世に評価が大きく揺れた点など、建国の父としては中国の毛沢東と好対照となりそうである。
読了日:11月06日 著者:小笠原 弘幸
大学の先生と学ぶ はじめての歴史総合の感想
予備校講師の実況中継本のような感覚で読める高校の新課程科目歴史総合の参考書。資料やグラフなどの図の読み取りによる分析が多い。また教科書が扱われるすべての事項を解説しているわけではなく、教科書などを使って読者に自分で調べてまとめさせる箇所が多い。章末の設問も歴史総合の趣旨を生かしたものになっている。(念のため簡単な解答例を付けておいても良かったと思うが)
読了日:11月09日 著者:北村 厚
デパートの誕生 (講談社学術文庫)の感想
ブシコー夫妻によるデパート誕生記。当時の流行品店から発展したデパート、ボン・マルシェの革新性を、同店などに取材したゾラの小説なども参照しつつ描き出す。まずは薄利多売にバーゲン・セール、顧客を教育するという発想、返品の受付、無料の休憩室、カタログ商法等々の販売戦略を紹介し、ついで歩合給制、社員食堂、社員寮、営業時間外の教育やクラブ活動、退職金・養老年金制度など、社員教育と福利厚生制度について触れる。デパートの歴史のみならず、19世紀後半以降の大衆社会化の一側面をうまく描き出している。
読了日:11月11日 著者:鹿島 茂
ガンディーの真実 ――非暴力思想とは何か (ちくま新書 1750)の感想
ガンディーとその非暴力思想の「真実」、あるいは限界。非暴力不服従運動が日常での実践を背景としたものであったこと、その服装に思想的変遷があったこと、果実食を追求していたこと、ソウル・メイトとの交流、家族との関係等々、思いもしなかったガンディーの姿と思想を窺い知ることができる。今後ガンディーとその活動を語る上で基本になる書ではないかと思う。ただ、衣服を自分の手で作ることにこだわっていたとなると、トレードマークとなる眼鏡の使用についてはどう考えていたのだろうか?
読了日:11月13日 著者:間 永次郎
『大漢和辞典』の百年の感想
諸橋轍次と大修館書店の創業者である鈴木一平による『大漢和辞典』の編纂・刊行について。著者が元大修館書店社員ということもあってか、どちらかというと編集や印刷にまつわる話が多い。戦前の出版社事情や、大漢和と漢字制限論、漢字復権といったような政治・社会事情との関わりの話が面白い。
読了日:11月19日 著者:池澤正晃
物語 江南の歴史-もうひとつの中国史 (中公新書, 2780)の感想
江南といっても、本書では広く長江以南の地域を対象としている。地域史的な要素もないではないが、南方の視点からの中国史といった方が適切な内容。各章それぞれテーマを設けているので、章が変わるごとに時代が行ったり来たりしてちょっとややこしい。正直「南から目線」の中国史としては、菊地秀明『越境の中国史』の方が内容が濃くて面白い。軽い中国史読み物が読みたい層向けの本という感じがする。
読了日:11月21日 著者:岡本 隆司
中国殷代の青銅器と酒 (ブックレット《アジアを学ぼう》)の感想
殷代の醴酒を用いた儀礼の興りと衰退、その容器と見られる青銅卣と、その卣に付けられた饕餮紋の展開、そして醴酒を用いた儀礼の衰退の歴史的背景について。酒の種類によって器種や紋様が固定されていたのではないかという発想が読みどころ。青銅器の紋様が現代の酒のラベルのようなものではないかという喩えは面白い。ただ、醴酒衰退の背景に環境的要因を推測として持ち出すのはありきたりでいまひとつ説得力がない。ここは環境学方面の研究やデータなどでの実証が欲しかったところ。
読了日:11月21日 著者:内田純子(うちだ じゅんこ)
ヒッタイト帝国 「鉄の王国」の実像 (PHP新書)の感想
ヒッタイトの歴史と社会・文化。図版も多く、専門に研究したいという学生にとって、良き入門書の定番になるのではないかと思う。ただ、参考文献欄がないのが難点だが。ヒッタイトが「鉄の王国」と見なされるに至った事情が面白い。日本以外ではヒッタイトと鉄の関係がそれほど強調されることはないようだ。また粘土板に宗教文書が多いということや祭祀が国事の最優先事項といった点は、殷周王朝との類似性を連想してしまう。
読了日:11月23日 著者:津本 英利
サピエンス全史 上: 文明の構造と人類の幸福 (河出文庫)の感想
認知革命、農業革命、科学革命の3つの画期を中心にたどる人類史。上巻は帝国の形成とグローバル化まで。ここまでは先史時代から古代にかけての話がメイン。動物の絶滅の話に関して気候変動に原因を求める発想をすっぱり否定しているのが面白い。そして人類が小麦を栽培化したのではなく小麦が人類を家畜化したであるとか、文字と書記体系の話であるとか、人種差別と男女差別を対比的に扱っている点など、読者に発想の転換を求める点が読みどころか。
読了日:11月26日 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福の感想
下巻は近世の科学革命以後の世界が中心。読みどころはほぼ上巻で尽きていたという感じ。全書を通して、正直『銃・病原菌・鉄』を読んだ時ほどの興奮はない。終盤では未来への展望として生物工学の話が出て来るが、人類学や歴史の話にこういう話がくっつく所が本書の特徴ということになるだろうか。
読了日:11月29日 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
スポーツの日本史: 遊戯・芸能・武術 (580) (歴史文化ライブラリー 580)の感想
相撲、蹴鞠など先史時代から江戸時代までの前近代を中心にスポーツの展開、特に時代が進むにつれて貴族から武家、庶民に広まっていたことをまとめる。古代のスポーツには現代に通じる国際性があったこと、江戸時代には蹴鞠の用具職人が庶民に蹴鞠の手ほどきをして競技人口を増やしたこと、古来の水術が現代のシンクロ競技の素地となった点などが面白い。近現代中心なのかと思いきや、いい意味で期待を裏切ってくれる良書。
読了日:11月30日 著者:谷釜 尋徳
日本古代史に関する一般書を発表してきた著者がこのタイトルでどういう内容を書いているのかに興味を持って手に取った。勤務先の短大での講義内容が中心ということだが、「知の巨人」を取っかかりにして人類の進化から新型コロナまで、文学、歴史、哲学、宗教等々幅広い分野にわたって学ぶべき教養へと導いている。古典から最近話題になった本まで様々な本を取り上げているので、ブックガイドとしても使えそうである。
読了日:11月01日 著者:水谷 千秋
歴史と文学のはざまで 唐代伝奇の実像を求めて (東方選書61)の感想
序章で中国では古来文字による記録は〈実録〉として読まれ、『桃花源記』などもフィクションとして読まれなかったというようなことが述べられているのだが、それではそういうものを書く層は他人の手による文字記録を物語として読まなかったのだろうか?序章での議論を大いに疑問である。本編で訳出される唐人伝奇にも「たんなる怪異譚と馬鹿にできようか」という一文があるが、これは伝奇を「たんなる怪異譚と馬鹿」にする立場も一定程度存在したことを示すのではないだろうか?
読了日:11月03日 著者:高橋文治
ケマル・アタテュルク-オスマン帝国の英雄、トルコ建国の父 (中公新書 2774)の感想
文字改革などの施策についてはこれまで過大に評価されてきた面があるようで、その裏返しで独裁者という評価も権威主義的な傾向は否めないにしても、現代のエルドアンなんかと比べると、当時の法的権限の制限や複数政党制も視野に入れていた点などから、やはり過大評価となるようである。また本書では公定歴史学の導入、太陽言語理論の提唱など、その施策の負の面についても言及されている。キャリアの初期において軍事的英雄として評価された点や後世に評価が大きく揺れた点など、建国の父としては中国の毛沢東と好対照となりそうである。
読了日:11月06日 著者:小笠原 弘幸
大学の先生と学ぶ はじめての歴史総合の感想
予備校講師の実況中継本のような感覚で読める高校の新課程科目歴史総合の参考書。資料やグラフなどの図の読み取りによる分析が多い。また教科書が扱われるすべての事項を解説しているわけではなく、教科書などを使って読者に自分で調べてまとめさせる箇所が多い。章末の設問も歴史総合の趣旨を生かしたものになっている。(念のため簡単な解答例を付けておいても良かったと思うが)
読了日:11月09日 著者:北村 厚
デパートの誕生 (講談社学術文庫)の感想
ブシコー夫妻によるデパート誕生記。当時の流行品店から発展したデパート、ボン・マルシェの革新性を、同店などに取材したゾラの小説なども参照しつつ描き出す。まずは薄利多売にバーゲン・セール、顧客を教育するという発想、返品の受付、無料の休憩室、カタログ商法等々の販売戦略を紹介し、ついで歩合給制、社員食堂、社員寮、営業時間外の教育やクラブ活動、退職金・養老年金制度など、社員教育と福利厚生制度について触れる。デパートの歴史のみならず、19世紀後半以降の大衆社会化の一側面をうまく描き出している。
読了日:11月11日 著者:鹿島 茂
ガンディーの真実 ――非暴力思想とは何か (ちくま新書 1750)の感想
ガンディーとその非暴力思想の「真実」、あるいは限界。非暴力不服従運動が日常での実践を背景としたものであったこと、その服装に思想的変遷があったこと、果実食を追求していたこと、ソウル・メイトとの交流、家族との関係等々、思いもしなかったガンディーの姿と思想を窺い知ることができる。今後ガンディーとその活動を語る上で基本になる書ではないかと思う。ただ、衣服を自分の手で作ることにこだわっていたとなると、トレードマークとなる眼鏡の使用についてはどう考えていたのだろうか?
読了日:11月13日 著者:間 永次郎
『大漢和辞典』の百年の感想
諸橋轍次と大修館書店の創業者である鈴木一平による『大漢和辞典』の編纂・刊行について。著者が元大修館書店社員ということもあってか、どちらかというと編集や印刷にまつわる話が多い。戦前の出版社事情や、大漢和と漢字制限論、漢字復権といったような政治・社会事情との関わりの話が面白い。
読了日:11月19日 著者:池澤正晃
物語 江南の歴史-もうひとつの中国史 (中公新書, 2780)の感想
江南といっても、本書では広く長江以南の地域を対象としている。地域史的な要素もないではないが、南方の視点からの中国史といった方が適切な内容。各章それぞれテーマを設けているので、章が変わるごとに時代が行ったり来たりしてちょっとややこしい。正直「南から目線」の中国史としては、菊地秀明『越境の中国史』の方が内容が濃くて面白い。軽い中国史読み物が読みたい層向けの本という感じがする。
読了日:11月21日 著者:岡本 隆司
中国殷代の青銅器と酒 (ブックレット《アジアを学ぼう》)の感想
殷代の醴酒を用いた儀礼の興りと衰退、その容器と見られる青銅卣と、その卣に付けられた饕餮紋の展開、そして醴酒を用いた儀礼の衰退の歴史的背景について。酒の種類によって器種や紋様が固定されていたのではないかという発想が読みどころ。青銅器の紋様が現代の酒のラベルのようなものではないかという喩えは面白い。ただ、醴酒衰退の背景に環境的要因を推測として持ち出すのはありきたりでいまひとつ説得力がない。ここは環境学方面の研究やデータなどでの実証が欲しかったところ。
読了日:11月21日 著者:内田純子(うちだ じゅんこ)
ヒッタイト帝国 「鉄の王国」の実像 (PHP新書)の感想
ヒッタイトの歴史と社会・文化。図版も多く、専門に研究したいという学生にとって、良き入門書の定番になるのではないかと思う。ただ、参考文献欄がないのが難点だが。ヒッタイトが「鉄の王国」と見なされるに至った事情が面白い。日本以外ではヒッタイトと鉄の関係がそれほど強調されることはないようだ。また粘土板に宗教文書が多いということや祭祀が国事の最優先事項といった点は、殷周王朝との類似性を連想してしまう。
読了日:11月23日 著者:津本 英利
サピエンス全史 上: 文明の構造と人類の幸福 (河出文庫)の感想
認知革命、農業革命、科学革命の3つの画期を中心にたどる人類史。上巻は帝国の形成とグローバル化まで。ここまでは先史時代から古代にかけての話がメイン。動物の絶滅の話に関して気候変動に原因を求める発想をすっぱり否定しているのが面白い。そして人類が小麦を栽培化したのではなく小麦が人類を家畜化したであるとか、文字と書記体系の話であるとか、人種差別と男女差別を対比的に扱っている点など、読者に発想の転換を求める点が読みどころか。
読了日:11月26日 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福の感想
下巻は近世の科学革命以後の世界が中心。読みどころはほぼ上巻で尽きていたという感じ。全書を通して、正直『銃・病原菌・鉄』を読んだ時ほどの興奮はない。終盤では未来への展望として生物工学の話が出て来るが、人類学や歴史の話にこういう話がくっつく所が本書の特徴ということになるだろうか。
読了日:11月29日 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
スポーツの日本史: 遊戯・芸能・武術 (580) (歴史文化ライブラリー 580)の感想
相撲、蹴鞠など先史時代から江戸時代までの前近代を中心にスポーツの展開、特に時代が進むにつれて貴族から武家、庶民に広まっていたことをまとめる。古代のスポーツには現代に通じる国際性があったこと、江戸時代には蹴鞠の用具職人が庶民に蹴鞠の手ほどきをして競技人口を増やしたこと、古来の水術が現代のシンクロ競技の素地となった点などが面白い。近現代中心なのかと思いきや、いい意味で期待を裏切ってくれる良書。
読了日:11月30日 著者:谷釜 尋徳
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