博客 金烏工房

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『大宋少年志』その7(完)

2019年12月20日 | 中国歴史ドラマ
『大宋少年志』第37~最終42話まで見ました。

七斎の面々が探りを入れているうちに、秦無涯が丁二こと米禽牧米と結託して宋・西夏間の戦争を煽ろうとしているという構図が見えてきます。(もちろん本作の制作者にも、陰謀によって戦争を煽るのはいけないという規範意識があるわけです。)秦無涯は邠州商会別館に集まった宋・西夏側の要人を殺害して戦端を開かせようとしますが、元仲辛らがそれを阻止。彼に迫って黒幕の名を吐き出させようとしますが、あっさりと自害。

一方、元伯鰭は三年前の祈川寨の戦いで宋側の人間が西夏に自軍の布陣図を漏洩させ、それが大敗につながったのではないかと考えます。そこで密かに西夏の大物没藏宝歴を攫い、彼らと結託していた人物が、現在邠州に駐屯している将軍周懸であると知ってしまいます……

実は元伯鰭にも秘密があり、実は祈川寨の戦いの折に米禽牧北に命を救われ、そのスパイとなっていたのでした。とは言っても彼には国家を裏切っているという意識は全くなく、逆に国家を裏切って布陣図を西夏側に漏洩した者を探り出すために米禽牧北に協力しているという認識です。愛国のために国家を裏切るというのアイロニーを感じさせます。そして元仲辛は、そんな兄の行動を早くから察知しておりました。趙簡を愛しながらも結婚に踏み切れないのも、兄のことで彼女を巻き添えにしてしまうかもしれないと不安に思っていたからなのでした。

七斎の面々は何とか元伯鰭の暴走を食い止めようとしますが、「戦神」と謳われた彼を止められるはずもなく、祈川寨での戦没者慰霊祭を周懸暗殺の場と見定めて突き進みます。七伊の頼みの綱の梁竹も、元伯鰭と不倶戴天と見せかけて、戦没した兵士たちの仇討ちのために早くから結託していたようです…… しかし国境付近の祈川寨で宋側の要人を殺害させることで、これを西夏側の仕業と見せかけて宋・西夏間の戦端を開かせることこそが米禽牧北の狙いだったのです。

慰霊祭の場で元伯鰭&梁竹が凶行に及ぼうとしたタイミングで陸観年が到来。周懸が布陣図を漏洩させたとされる一件は、実は無駄な戦いを速く終わらせようとした陸観年の陰謀でした……って、おっさん何やっとんのよ(´Д`;) しかし真相が明かされた時には、既に祈川寨が米禽牧米率いる西夏軍に包囲されており、一同は最後の決戦に挑むことに。陸観年は三年前の戦いで犠牲者を出した責任を取るような形で戦死し、元伯鰭も戦死を遂げます。米禽牧北は騒ぎを聞きつけて駆けつけた没蔵宝歴に捕らえられ、すべてが終わったかと思いきや、趙簡にはまだ解決すべきこが残されており……

【総括】
ラストは「オレたちの戦いはこれからだ!」エンドなんですが、話の勢いは削がれてないので、それほど不快感を抱かせないというか疾走感を感じさせる締め方になっています。北宋期を舞台とした学園物かつスパイ物という位置づけの本作ですが、宋の人たちが西夏や遼の要人たちと対等の立場で外交を行っているというのは、何気に凄い設定かもしれません。岡本隆司先生が最近出した『世界史とつなげて学ぶ中国全史』の中で、宋・遼・西夏の間でウェストファリア体制に類するものが成立する可能性を見出していたのと通じるものがあります。

また、渤海の遺民という立場から政治的に翻弄されてきたという設定の小景に対して、現在は宋に暮らしているのだから宋の民として正当に扱うへきであるとか、国家のためであれば何をやってもいいというわけではないとか、随所に制作者の「底線」を感じさせる描写があるのもポイントが高いです。ともすれば炎上しそうなテーマをライト感覚で描ききった佳作となっています。

炎上して湖南衛視での放映が途中打ち切りとなった『封神演義』の後番組として、よくぞこの作品を出してきてくれたという感じです。本作に関しては予告編の類も全く流れてなかったということなので、『封神演義』の一件がなければ日の目を見るのがまだまだ先ということになったのかもしれません。この作品が世に出るきっかけになったとすれば、『封神演義』も炎上した甲斐があったということになるでしょう。

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