博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2018年3月に読んだ本

2018年04月01日 | 読書メーター
常用漢字の歴史 - 教育、国家、日本語 (中公新書)常用漢字の歴史 - 教育、国家、日本語 (中公新書)感想
文字通り明治以後の常用漢字表(的なもの)の歴史を追った本。字種の制限が、漢語表記や言い換えによる語彙の変化ももたらすこと、新たな基準によって字種を増やしても、変化する前の表記にはもう戻れないこと、漢字の制限は字体・字数だけでなく音訓にも及ぶことなど、盲点になりそうな問題について詳述している。
読了日:03月01日 著者:今野 真二

『源氏物語』女三の宮の〈内面〉 (新典社新書 72)『源氏物語』女三の宮の〈内面〉 (新典社新書 72)感想
これまで「内面がない」と見なされてきた『源氏物語』の女三の宮に、もともと男女関係に無関心であったのが、柏木事件を経て性愛や妊娠・出産への嫌悪を自覚し、出家を経て父のもとに戻ることによって男女関係からの離脱を図るという「内面」やその推移を読み取れるとする。これまで否定的に見られていた女三の宮の人物像について、特に「女性性」の面からは現代的な感覚が読み取れるのだというところが面白い。
読了日:03月03日 著者:西原 志保

近代日本の偽史言説―歴史語りのインテレクチュアル・ヒストリー近代日本の偽史言説―歴史語りのインテレクチュアル・ヒストリー感想
竹内文献、神代文字、義経=チンギス・ハン説、ユダヤ陰謀論、日猶同祖論、失われた大陸など、日本の偽史に絡むものはあらかた論じられているが、その多くが近代にあっては国策と関係していたのが見えてくる。『成吉思汗ハ源義経也』の小谷部全一郎がアカデミズムに対して反権威的にふるまう一方で、国家権力が自分の主張にお墨付きを与えることに対しては従順にふるまうというようなしぐさは、今でも割と見られるのではないだろうか。
読了日:03月06日 著者:

陰謀の日本中世史 (角川新書)陰謀の日本中世史 (角川新書)感想
源平の台頭から関ヶ原まで、日本中世史の陰謀あるいは陰謀とされてきた事項を総ざらいする。これだけ羅列されると、個々の陰謀が非常にちまいものに見えてくるのが不思議である。またまともな研究者は陰謀論なんか相手にしないと言いつつも、個々の論争を拾い上げていくと、その実直接間接に陰謀論に踏み入れているというのが見えてくる。終盤で「歴史学は「確からしさ」を競う学問」とあるが、「確からしさ」を競うとともに積み上げていく学問でもあるのではないかと思う。
読了日:03月11日 著者:呉座 勇一

英国公文書の世界史 - 一次資料の宝石箱 (中公新書ラクレ)英国公文書の世界史 - 一次資料の宝石箱 (中公新書ラクレ)感想
英国国立公文書館の所蔵文書あるいは所蔵品を取っかかりに見る世界史。個々の文書にまつわる話もさることながら、第3章13で語られるイギリスでの郵便制度のおこりと、第6章の公文書管理の歴史が面白い。日本史や中国史でもこうした「公文書の日本史・中国史」(中国史の場合は档案と言った方がいいかもしれないが)を描き出すことができるだろうか。そんなことを考えながら読んだ。
読了日:03月13日 著者:小林 恭子

公文書問題 日本の「闇」の核心 (集英社新書)公文書問題 日本の「闇」の核心 (集英社新書)感想
官府の一種の秘密主義により、行政文書の定義や公文書の管理が歪められ、本来行政文書として一般の公開に供されるべきものが秘匿されるメカニズムを解説するとともに、豊洲市場問題、森友・加計問題など、昨今マスコミを賑わす問題は、いずれも適切な行政文書の管理がなされていれば、ここまでの大騒動にはならなかったのではないか、行政文書の適切な管理と情報公開は、結局は政府や役所の施策の正当性を担保する源になるのではないかと訴える。
読了日:03月15日 著者:瀬畑 源

明治史講義 【テーマ篇】 (ちくま新書)明治史講義 【テーマ篇】 (ちくま新書)感想
第2講の幕末の「公議」思想が朱子学的な道徳論と結びついていたという指摘、第5講の当初陸軍・海軍の統帥権の独立がすっきりした形で切り分けられていたわけではないという指摘、第6講の明治期には神社は宗教とは考えられていなかったという話(ならば「靖国問題」はこのこととどう関係してくるのだろう?)、第10講の明治14年の政変前後の大隈重信の立ち位置と再評価、第14講貴族院の役割の再評価、第15講の内地雑居をめぐる論争と現在のTPP論争とのオーバーラップの議論などを面白く読んだ。
読了日:03月18日 著者:

空気の検閲 大日本帝国の表現規制 (光文社新書)空気の検閲 大日本帝国の表現規制 (光文社新書)感想
戦前・戦中の日本の検閲について、内務省の担当機構が一方的に検閲を担ったわけではなく、検閲を受ける側に飴と鞭をちらつかせる形で自己検閲・自己規制、すなわち「忖度」をさせることで検閲をより完全なものとしたこと、検閲当局の意見が政府全体を代表したわけではないこと、後には軍部が当局の存在を無視して検閲を行い、しばしばその決定を覆したことなど、検閲の機微を描いている。現代日本の表現・言論が本当に自由なのかを考える、あるいは中国など諸外国の検閲のあり方の理解に資する本となっている。
読了日:03月23日 著者:辻田 真佐憲

天文の世界史 (インターナショナル新書)天文の世界史 (インターナショナル新書)感想
ヒジュラ暦は農作業で使い物にならないので、伝統的に太陰太陽暦や太陽暦と併用されてきたとか、「2012年世界滅亡説」で有名となったマヤ暦の、「13バクトゥンごとに世界が作り直される」という伝承理解の問題点など、面白い話題が詰め込まれているが、最後の「間違った古代インドの宇宙観」の話から、世界各地の天文の歴史を紹介するする本書にも誤解や偏見が紛れ込んでいるかもしれないと注意を喚起しているのが、著者の見識を示している。
読了日:03月26日 著者:廣瀬 匠

スポーツ国家アメリカ - 民主主義と巨大ビジネスのはざまで (中公新書 2479)スポーツ国家アメリカ - 民主主義と巨大ビジネスのはざまで (中公新書 2479)感想
野球・アメフト・バスケなどのスポーツに近現代のアメリカ社会がどのように反映されてきたか、そして黒人・女性・先住民などマイノリティがどのように関わってきたかをまとめる。YMCAによって作られたバスケ、チアリーディングが運動の得意な女子学生の自己実現とアピールの手段であったこと、WBCからアメリカ的な孤立主義ないしはアメリカ的「中華思想」が垣間見えるという話などが面白い。最後のアメリカ政治がWWE化しているという話しはぞっとしないが……
読了日:03月30日 著者:鈴木 透


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2018年版『笑傲江湖』その1 | トップ | 『三国機密之潜龍在淵』その1 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書メーター」カテゴリの最新記事