木簡学入門 (講談社学術文庫 (649))の感想
居延漢簡などの簡牘学の成果を確認しようと読み直してみたところ、意外に木簡だけでなく執筆当時の新出竹簡である銀雀山漢簡や睡虎地秦簡にも目配りしているのに目が行く。鳳凰山一六八号墓出土の竹牘、いわゆる「告知状」と呼ばれているものと、居延漢簡の関連の書式との対比なども面白い。
読了日:12月01日 著者:大庭 脩
歴史の勉強法 確かな教養を手に入れる (PHP新書)の感想
最初に大学の史学科ではどういうカリキュラムで学習・研究を進めていくのかという説明があり、高校までの歴史の授業と大学での専門的な研究の違いがわかるようになっている。この部分だけでも読まれる価値がある。あとは某社会学者の歴史に関する対談のどこがおかしいのかというツッコミも読みどころ。
読了日:12月03日 著者:山本 博文
島津四兄弟の九州統一戦 (星海社新書)の感想
九州統一のために兄弟四人手を取り合って邁進したというイメージが何となく持たれている島津義久・義弘・歳久・家久。しかしその実態は、長兄の太守義久の統治権が弱く、他の兄弟三人がそれぞれの思惑で動いており、島津家は彼ら近親や一門、老中らによる「談合」で動いていたというのが見えてくる。彼らの姿が「中世」のあり方を思わせるとともに、島津家が秀吉に屈服するさまが中世と近世への移り変わりを思わせる。義久と義弘の関係は足利尊氏・直義の関係と比較すると面白いかも。
読了日:12月03日 著者:新名 一仁,宮下 英樹
中国古代化学 新しい技術やものの発明がいかに時代をつくったのかの感想
王朝時代の中国の化学に関する事項を、冶金・丹薬・製塩・製糖・醸造・染料と幅廣く取り上げており、その概要を把握するには手頃な内容。ただ自然科学方面の研究者が翻訳に当たり、人文系の中国学研究者が関与していないということで、翻訳の不備が目立つのが残念。たとえばタイトルの『中国古代化学』は原書の書名を踏襲したものだが、中国の古代とは広くアヘン戦争以前の時代を指す。実際本書の内容は明清にも及んでおり、『中国化学史』あたりが適切な訳題だったのではないかと思う。
読了日:12月07日 著者:
死刑 その哲学的考察 (ちくま新書 1281)の感想
死刑廃止論の是非について、哲学あるいは道徳論から考える。池田小学校事件の犯人のように死刑になりたいがために殺人を犯す者に死刑は有効な刑罰なのか?冤罪は公権力の構造上避けられないものではないか?という二つの問い掛けが読みどころ。また「考え方は人それぞれ」という価値相対主義のもたらす弊害、マスコミが「印象操作」をしているのではなく、我々があらかじめ持っている「印象」をマスコミが映し出しているだけという指摘も面白い。
読了日:12月10日 著者:萱野 稔人
漢字 (日本語ライブラリー)の感想
字形の面からの漢字(学)の入門書は数あるが、本書字形だけでなく字音・字義の面についても相当の紙幅を割いている。漢字教育・漢字政策や韓国・中国などアジア諸国に関する章もあり、漢字(学)に関する総合的な教科書となっている。
読了日:12月13日 著者:沖森 卓也,笹原 宏之
世界神話学入門 (講談社現代新書)の感想
日本神話をゴンドワナ型神話とローラシア型神話の二大系から成る世界神話学説の中に位置づけ、神話の伝播と人類の移動の軌跡を関係づけようという試み。テキスト化された神話も元々は口伝であり、その集団の古来からの神話を止めているのだという前提で議論を展開しているが、『西遊記』はその種の神話の中に含めてしまって問題ないのだろうか?また『古事記』『日本書紀』の神話は成書の時点で編者が中国の古典から取り込んだだけのものは存在しないのだろうか?「書かれたもの」に対する無理解が気に掛かる。
読了日:12月16日 著者:後藤 明
全訳 封神演義2の感想
同じ筋立てでも安能務版と比べると随分味気ない印象を受けるが、安能版はその分編訳者の思想をゴッテリ読まされていたということになるのかなと。
読了日:12月17日 著者:
忍者の歴史 (角川選書)の感想
江戸時代に忍術は武術の流派のようになっており、道場を開いていた(らしい)という話が面白い。近現代の忍術の展開は歴史学というより民俗学の領域ではないかと思った。
読了日:12月20日 著者:山田 雄司
ナポレオン時代 - 英雄は何を遺したか (中公新書)の感想
単なるナポレオンの評伝にとどまらず、「ナポレオン時代」の建築・ファッション・文芸・科学との関わりなど文化面に多くの紙幅を割いており、その時代性をうまく切り取っている。執政政府時代の第二執政カンバセレスがナポレオンによる統治に欠かせないやり手であったこと、蒸気船の発明者としても知られるフルトンによる潜水艦の建造案がスポイルされたことなど、小ネタも面白い。「官制新聞ひとつがあれば充分で他紙は必要ない」と言い放った彼による検閲制度のあり方は現代でも参照の価値が高いかもしれない。
読了日:12月23日 著者:アリステア・ホーン
義経伝説と為朝伝説――日本史の北と南 (岩波新書)の感想
北海道ではアイヌの英雄譚が和人によって義経と弁慶主従の英雄伝説として読み替えられ、沖縄では源氏の血を引くとされた島津氏におもねる形で、為朝とその子舜天が琉球中山王朝の始祖と位置づけられる。本書ではこの北の義経伝説と南の為朝伝説とを対比し、それぞれが日本への「同化」「皇民化」を後押しするための道具となっていくさまを描く。中世・近世の「伝説」形成の過程と、近代の「伝説」が「史実」になろうとするさまの両方を均等に描けていると思う。
読了日:12月26日 著者:原田 信男
藤原氏―権力中枢の一族 (中公新書)の感想
始祖鎌足から五摂家の成立あたりまでを扱っているが、藤原氏が王権を打倒したり乗っ取ったりできる性質の存在ではないこと、藤原氏内部で北家が主流となることが確定したのが意外と時期が下ること、そして五摂家成立のあたりになると、摂政・関白が家業と化してしまって実際の天皇との外戚関係とは分離してしまうといった点が面白かった。前著『蘇我氏』に引き続き、庶流・末流の状況も触れているのが嬉しいところ。
読了日:12月29日 著者:倉本 一宏
居延漢簡などの簡牘学の成果を確認しようと読み直してみたところ、意外に木簡だけでなく執筆当時の新出竹簡である銀雀山漢簡や睡虎地秦簡にも目配りしているのに目が行く。鳳凰山一六八号墓出土の竹牘、いわゆる「告知状」と呼ばれているものと、居延漢簡の関連の書式との対比なども面白い。
読了日:12月01日 著者:大庭 脩
歴史の勉強法 確かな教養を手に入れる (PHP新書)の感想
最初に大学の史学科ではどういうカリキュラムで学習・研究を進めていくのかという説明があり、高校までの歴史の授業と大学での専門的な研究の違いがわかるようになっている。この部分だけでも読まれる価値がある。あとは某社会学者の歴史に関する対談のどこがおかしいのかというツッコミも読みどころ。
読了日:12月03日 著者:山本 博文
島津四兄弟の九州統一戦 (星海社新書)の感想
九州統一のために兄弟四人手を取り合って邁進したというイメージが何となく持たれている島津義久・義弘・歳久・家久。しかしその実態は、長兄の太守義久の統治権が弱く、他の兄弟三人がそれぞれの思惑で動いており、島津家は彼ら近親や一門、老中らによる「談合」で動いていたというのが見えてくる。彼らの姿が「中世」のあり方を思わせるとともに、島津家が秀吉に屈服するさまが中世と近世への移り変わりを思わせる。義久と義弘の関係は足利尊氏・直義の関係と比較すると面白いかも。
読了日:12月03日 著者:新名 一仁,宮下 英樹
中国古代化学 新しい技術やものの発明がいかに時代をつくったのかの感想
王朝時代の中国の化学に関する事項を、冶金・丹薬・製塩・製糖・醸造・染料と幅廣く取り上げており、その概要を把握するには手頃な内容。ただ自然科学方面の研究者が翻訳に当たり、人文系の中国学研究者が関与していないということで、翻訳の不備が目立つのが残念。たとえばタイトルの『中国古代化学』は原書の書名を踏襲したものだが、中国の古代とは広くアヘン戦争以前の時代を指す。実際本書の内容は明清にも及んでおり、『中国化学史』あたりが適切な訳題だったのではないかと思う。
読了日:12月07日 著者:
死刑 その哲学的考察 (ちくま新書 1281)の感想
死刑廃止論の是非について、哲学あるいは道徳論から考える。池田小学校事件の犯人のように死刑になりたいがために殺人を犯す者に死刑は有効な刑罰なのか?冤罪は公権力の構造上避けられないものではないか?という二つの問い掛けが読みどころ。また「考え方は人それぞれ」という価値相対主義のもたらす弊害、マスコミが「印象操作」をしているのではなく、我々があらかじめ持っている「印象」をマスコミが映し出しているだけという指摘も面白い。
読了日:12月10日 著者:萱野 稔人
漢字 (日本語ライブラリー)の感想
字形の面からの漢字(学)の入門書は数あるが、本書字形だけでなく字音・字義の面についても相当の紙幅を割いている。漢字教育・漢字政策や韓国・中国などアジア諸国に関する章もあり、漢字(学)に関する総合的な教科書となっている。
読了日:12月13日 著者:沖森 卓也,笹原 宏之
世界神話学入門 (講談社現代新書)の感想
日本神話をゴンドワナ型神話とローラシア型神話の二大系から成る世界神話学説の中に位置づけ、神話の伝播と人類の移動の軌跡を関係づけようという試み。テキスト化された神話も元々は口伝であり、その集団の古来からの神話を止めているのだという前提で議論を展開しているが、『西遊記』はその種の神話の中に含めてしまって問題ないのだろうか?また『古事記』『日本書紀』の神話は成書の時点で編者が中国の古典から取り込んだだけのものは存在しないのだろうか?「書かれたもの」に対する無理解が気に掛かる。
読了日:12月16日 著者:後藤 明
全訳 封神演義2の感想
同じ筋立てでも安能務版と比べると随分味気ない印象を受けるが、安能版はその分編訳者の思想をゴッテリ読まされていたということになるのかなと。
読了日:12月17日 著者:
忍者の歴史 (角川選書)の感想
江戸時代に忍術は武術の流派のようになっており、道場を開いていた(らしい)という話が面白い。近現代の忍術の展開は歴史学というより民俗学の領域ではないかと思った。
読了日:12月20日 著者:山田 雄司
ナポレオン時代 - 英雄は何を遺したか (中公新書)の感想
単なるナポレオンの評伝にとどまらず、「ナポレオン時代」の建築・ファッション・文芸・科学との関わりなど文化面に多くの紙幅を割いており、その時代性をうまく切り取っている。執政政府時代の第二執政カンバセレスがナポレオンによる統治に欠かせないやり手であったこと、蒸気船の発明者としても知られるフルトンによる潜水艦の建造案がスポイルされたことなど、小ネタも面白い。「官制新聞ひとつがあれば充分で他紙は必要ない」と言い放った彼による検閲制度のあり方は現代でも参照の価値が高いかもしれない。
読了日:12月23日 著者:アリステア・ホーン
義経伝説と為朝伝説――日本史の北と南 (岩波新書)の感想
北海道ではアイヌの英雄譚が和人によって義経と弁慶主従の英雄伝説として読み替えられ、沖縄では源氏の血を引くとされた島津氏におもねる形で、為朝とその子舜天が琉球中山王朝の始祖と位置づけられる。本書ではこの北の義経伝説と南の為朝伝説とを対比し、それぞれが日本への「同化」「皇民化」を後押しするための道具となっていくさまを描く。中世・近世の「伝説」形成の過程と、近代の「伝説」が「史実」になろうとするさまの両方を均等に描けていると思う。
読了日:12月26日 著者:原田 信男
藤原氏―権力中枢の一族 (中公新書)の感想
始祖鎌足から五摂家の成立あたりまでを扱っているが、藤原氏が王権を打倒したり乗っ取ったりできる性質の存在ではないこと、藤原氏内部で北家が主流となることが確定したのが意外と時期が下ること、そして五摂家成立のあたりになると、摂政・関白が家業と化してしまって実際の天皇との外戚関係とは分離してしまうといった点が面白かった。前著『蘇我氏』に引き続き、庶流・末流の状況も触れているのが嬉しいところ。
読了日:12月29日 著者:倉本 一宏
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます