西遊記 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫)の感想
同シリーズの『水滸伝』より訳文が多くて長い印象。解説やコラムも呉承恩作者説の出所や『西洋記』との比較、先行作品や版本間の比較、火焔山にまつわる地理学、ないしは元ネタの問題等々、『水滸伝』ほどではないが読ませるものが多い。初心者はもちろん西遊記ファンも読んで損はないだろう。
読了日:03月01日 著者:
図解 諸子百家の思想 (角川ソフィア文庫)の感想
出土文献からの成果も豊富に取り入れた諸子百家入門。今回の文庫版では名家、陰陽家など章節新たに追加し、その後発見された出土文献や新たな研究の成果を参照して追記がなされている。儒家や孔子に関する理解が浅野流なので、その点だけは個人的に支持できないが、それ以外はおおむねまとまった概説となっている。欲を言えばね雑家すなわち諸子の成果を総合した『呂氏春秋』の章もあれば良かった。
読了日:03月03日 著者:浅野 裕一
アジア経済史 (上)の感想
日本も含めた東アジア、東南アジア、南アジア地域の経済史概説。時代は近世以降が中心で、上巻はおおむね19世紀末まで。今まで読んだ中国経済史と比べて、特に第Ⅰ部で社会生活史に関する記述が多いのが特徴か。東インド会社の活動や商品作物としての茶葉の栽培・輸出地の変遷など、各地域を関連させた記述も特徴的。疾病に関する項があるのは今風を感じさせる。
読了日:03月06日 著者:
房思琪の初恋の楽園 (白水Uブックス)の感想
尊敬する37歳年上の塾講師の慰み者となり、しかも彼を愛させられてしまった少女の物語。加害者はこれまでにも同じような「恋愛」を積み重ねており、また主人公の周辺には夫からのDVに苦しむ女性がいる。救われないのは、主人公も加害者も富裕層の出身であり、平均以上の教養に恵まれていることだ。高い生活水準や教養は決して性被害に遭う確率を低くはしない。そんな現実を突き付けられているようである。
読了日:03月09日 著者:林 奕含
戴天 (文春文庫 ち 12-2)の感想
『震雷の人』と同じく安史の乱の時期の唐を舞台とし、話の中心となるのが男女3人という構図は同じだが、その男女3人が入れ替わり、舞台となる主要な地域も異なるという趣向。今回中心となるテーマは宦官と胡人。ラスボス的な存在である辺令誠も宦官であるが、単純に切って捨てられる悪役というわけでもない。「人は変わる」あるいは「人の評価は変わる」という所に注目して読むと面白い作品。
読了日:03月12日 著者:千葉 ともこ
冷戦史(上)-第二次世界大戦終結からキューバ危機まで (中公新書 2781)の感想
冷戦通史の前半部分だが、特に終戦直後の米ソ対立が決定的になっていない時点では米国の世界構想が多くの可能性に満ちており、ソ連側もイデオロギー性の重視が逆説的に外交に柔軟性を与えていたこと、キューバ危機に対してソ連側がベルリン危機と関係づけていたように、同時期の他地域の動向が密接に関わっていることが強調されている点、中南米地域の反米の動きにありもしない共産主義の影を見るななど、ソ連とともにアメリカもイデオロギーにとらわれていたことなどが印象的。
読了日:03月15日 著者:青野 利彦
冷戦史(下)-ベトナム戦争からソ連崩壊まで (中公新書 2782)の感想
冷戦史後半。ソ連型共産主義の破綻が目に見えた時に権威主義を温存したまま市場経済を導入した中国のあり方が第三世界の諸国の国家発展モデルとなったことや、多国間の枠組みを形成していったヨーロッパに対して東アジアの国際関係の改善が二国間関係の締結に終始したことが、現在まで続く東アジア地域の分断の継続に影響しているといった指摘が興味深い。米ソ中に加えて分断解消に対する日本の努力不足も問われている。
読了日:03月16日 著者:青野 利彦
近代日本の陽明学 (講談社学術文庫)の感想
文庫化を機に三回目の読書。大塩平八郎から三島由紀夫まで近代日本の陽明学徒の系譜を辿る。増補部分は中江兆民や西田幾多郎、渋沢栄一など本書の内容と関係する人物と朱子学・陽明学との関わりについて。西洋の概念の訳語としての「自由」が『論語』顔淵篇の「克己復礼」の章に見える「己に由る」という言葉と同義語であるという指摘が面白い。著者は儒教との関係でしか議論していないが、これは当然近代日本の漢文脈の話にもなってくるだろう。
読了日:03月18日 著者:小島 毅
ローマ帝国の誕生 (講談社現代新書)の感想
後に属州として位置づけられることになる征服地や従属地の人々との関係を軸にたどる、(皇帝が支配する国家ということではなく)多様な民族を統治する国家としてのローマ帝国誕生の軌跡。一口に属州と言っても時期によってローマ側の対応が異なるや、属州を得たことがローマ自身の政治危機の淵源となったこと、後に属州となる外地との戦争や国内の危機に対して執政官の再任などの例外を認め、それを積み重ねたことがアウグストゥス、すなわち元首、ローマ皇帝の登場につながったという逆説的な議論が面白い。
読了日:03月21日 著者:宮嵜 麻子
両京十五日 2: 天命 (ハヤカワ・ミステリ)の感想
昨日の敵は今日の友、今日の友は……という展開。黒幕は明朝宮廷物のドラマを見ていればある程度予想することができると思うが、中国エンタメでお馴染みの漢方や食べ物はもちろんのこと、白蓮教に水運、土木建築、殉死と作者の歴史に対する広い知識や考証が嫌味にならず、物語を面白くする結果につながっている。日本の中国物だとなかなかこの域に達するのは難しいだろう(中国でもこの年代の作家としては彼ぐらいかもしれないが)。馬伯庸の他の作品の翻訳も是非どんどん出してほしい。
読了日:03月24日 著者:馬伯庸
統治されない技法: 太湖に浮かぶ〈梁山泊〉の感想
歴史文献とオーラルヒストリーの両方を駆使し、歴史的に平地民から蔑視されてきた太湖の漁民の生態を、彼らの宗教信仰を軸に追っていくという内容(だと思う)。賛神歌が地域の非物質文化遺産に指定されるうえでの漁民と役所の思惑のズレが興味深い。中国政府の政策もさることながら、市場経済の導入と環境破壊が漁民としてのくらしを成り立たなくさせているというのが何だ世知辛い。
読了日:03月27日 著者:太田 出
同シリーズの『水滸伝』より訳文が多くて長い印象。解説やコラムも呉承恩作者説の出所や『西洋記』との比較、先行作品や版本間の比較、火焔山にまつわる地理学、ないしは元ネタの問題等々、『水滸伝』ほどではないが読ませるものが多い。初心者はもちろん西遊記ファンも読んで損はないだろう。
読了日:03月01日 著者:
図解 諸子百家の思想 (角川ソフィア文庫)の感想
出土文献からの成果も豊富に取り入れた諸子百家入門。今回の文庫版では名家、陰陽家など章節新たに追加し、その後発見された出土文献や新たな研究の成果を参照して追記がなされている。儒家や孔子に関する理解が浅野流なので、その点だけは個人的に支持できないが、それ以外はおおむねまとまった概説となっている。欲を言えばね雑家すなわち諸子の成果を総合した『呂氏春秋』の章もあれば良かった。
読了日:03月03日 著者:浅野 裕一
アジア経済史 (上)の感想
日本も含めた東アジア、東南アジア、南アジア地域の経済史概説。時代は近世以降が中心で、上巻はおおむね19世紀末まで。今まで読んだ中国経済史と比べて、特に第Ⅰ部で社会生活史に関する記述が多いのが特徴か。東インド会社の活動や商品作物としての茶葉の栽培・輸出地の変遷など、各地域を関連させた記述も特徴的。疾病に関する項があるのは今風を感じさせる。
読了日:03月06日 著者:
房思琪の初恋の楽園 (白水Uブックス)の感想
尊敬する37歳年上の塾講師の慰み者となり、しかも彼を愛させられてしまった少女の物語。加害者はこれまでにも同じような「恋愛」を積み重ねており、また主人公の周辺には夫からのDVに苦しむ女性がいる。救われないのは、主人公も加害者も富裕層の出身であり、平均以上の教養に恵まれていることだ。高い生活水準や教養は決して性被害に遭う確率を低くはしない。そんな現実を突き付けられているようである。
読了日:03月09日 著者:林 奕含
戴天 (文春文庫 ち 12-2)の感想
『震雷の人』と同じく安史の乱の時期の唐を舞台とし、話の中心となるのが男女3人という構図は同じだが、その男女3人が入れ替わり、舞台となる主要な地域も異なるという趣向。今回中心となるテーマは宦官と胡人。ラスボス的な存在である辺令誠も宦官であるが、単純に切って捨てられる悪役というわけでもない。「人は変わる」あるいは「人の評価は変わる」という所に注目して読むと面白い作品。
読了日:03月12日 著者:千葉 ともこ
冷戦史(上)-第二次世界大戦終結からキューバ危機まで (中公新書 2781)の感想
冷戦通史の前半部分だが、特に終戦直後の米ソ対立が決定的になっていない時点では米国の世界構想が多くの可能性に満ちており、ソ連側もイデオロギー性の重視が逆説的に外交に柔軟性を与えていたこと、キューバ危機に対してソ連側がベルリン危機と関係づけていたように、同時期の他地域の動向が密接に関わっていることが強調されている点、中南米地域の反米の動きにありもしない共産主義の影を見るななど、ソ連とともにアメリカもイデオロギーにとらわれていたことなどが印象的。
読了日:03月15日 著者:青野 利彦
冷戦史(下)-ベトナム戦争からソ連崩壊まで (中公新書 2782)の感想
冷戦史後半。ソ連型共産主義の破綻が目に見えた時に権威主義を温存したまま市場経済を導入した中国のあり方が第三世界の諸国の国家発展モデルとなったことや、多国間の枠組みを形成していったヨーロッパに対して東アジアの国際関係の改善が二国間関係の締結に終始したことが、現在まで続く東アジア地域の分断の継続に影響しているといった指摘が興味深い。米ソ中に加えて分断解消に対する日本の努力不足も問われている。
読了日:03月16日 著者:青野 利彦
近代日本の陽明学 (講談社学術文庫)の感想
文庫化を機に三回目の読書。大塩平八郎から三島由紀夫まで近代日本の陽明学徒の系譜を辿る。増補部分は中江兆民や西田幾多郎、渋沢栄一など本書の内容と関係する人物と朱子学・陽明学との関わりについて。西洋の概念の訳語としての「自由」が『論語』顔淵篇の「克己復礼」の章に見える「己に由る」という言葉と同義語であるという指摘が面白い。著者は儒教との関係でしか議論していないが、これは当然近代日本の漢文脈の話にもなってくるだろう。
読了日:03月18日 著者:小島 毅
ローマ帝国の誕生 (講談社現代新書)の感想
後に属州として位置づけられることになる征服地や従属地の人々との関係を軸にたどる、(皇帝が支配する国家ということではなく)多様な民族を統治する国家としてのローマ帝国誕生の軌跡。一口に属州と言っても時期によってローマ側の対応が異なるや、属州を得たことがローマ自身の政治危機の淵源となったこと、後に属州となる外地との戦争や国内の危機に対して執政官の再任などの例外を認め、それを積み重ねたことがアウグストゥス、すなわち元首、ローマ皇帝の登場につながったという逆説的な議論が面白い。
読了日:03月21日 著者:宮嵜 麻子
両京十五日 2: 天命 (ハヤカワ・ミステリ)の感想
昨日の敵は今日の友、今日の友は……という展開。黒幕は明朝宮廷物のドラマを見ていればある程度予想することができると思うが、中国エンタメでお馴染みの漢方や食べ物はもちろんのこと、白蓮教に水運、土木建築、殉死と作者の歴史に対する広い知識や考証が嫌味にならず、物語を面白くする結果につながっている。日本の中国物だとなかなかこの域に達するのは難しいだろう(中国でもこの年代の作家としては彼ぐらいかもしれないが)。馬伯庸の他の作品の翻訳も是非どんどん出してほしい。
読了日:03月24日 著者:馬伯庸
統治されない技法: 太湖に浮かぶ〈梁山泊〉の感想
歴史文献とオーラルヒストリーの両方を駆使し、歴史的に平地民から蔑視されてきた太湖の漁民の生態を、彼らの宗教信仰を軸に追っていくという内容(だと思う)。賛神歌が地域の非物質文化遺産に指定されるうえでの漁民と役所の思惑のズレが興味深い。中国政府の政策もさることながら、市場経済の導入と環境破壊が漁民としてのくらしを成り立たなくさせているというのが何だ世知辛い。
読了日:03月27日 著者:太田 出
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